病院が大衆にウケることの危険性

山口周さんの記事の中で、面白い下りがあり、無料部分から引用します。

“書籍でも音楽でもテレビ番組でも同じで、とにかく「数の勝負」に勝とうと思えば、三流にウケなければなりません。 資本主義が、これだけ膨大な労力と資源を使いながら、ここまで不毛な文化しか生み出せていない決定的な理由はここにあります。「数」をKPI(重要業績評価指標)KPIに据えるシステムは、構造的な宿命として劣化するメカニズムを内包せざるを得ないのです。”

 病院の収益を確保するために、手術数をKPIにすれば病院は劣化する。手術適応を広げてしまう可能性がある(手術以外の方法があるにも関わらず手術に誘導する)からだ。しかし、専門手術を行っている病院程、医師に対するKPIは手術数となっている。

 手術を行えば行うほど、手術は上手になる。しかし、手術が上手な人が手術適応を厳密にしている訳ではない。手術適応が厳密で、手術が上手であれば名医であると言えるだろうが、自己観測の範囲ではかなり限られている。

 病院に上手にかかるには、手術適応を厳密に、かつ親身になって相談してくれる医師(これも名医に該当するが)から、手術が上手な医師を紹介してもらうというのが一番オススメの方法である。白い巨塔で言えば、里見医師に診断してもらい、財前医師に執刀してもらうイメージである。

 手術をしなくて良いのであれば、それに越したことはない。病気になる前の段階であると予防医学ということになるが、病気が進行しつつある状態で手術を回避する方法も存在する。例えば、整形外科領域であれば筋肉を鍛えたり、インソールを用いることで、手術回避できる可能性がある。手術以外の方法も熟知しているのが名医であるが、柔道整復師や理学療法士の実力を軽んじている医師は少なくない(特に爺医、通称ジジ医)。

 手術を回避できるような世界になれば、医療費軽減と健康寿命に寄与できる。そのような態度をKPIにすれば病院の運営が維持できないのではないかとよく聞かれる。しかし、手術を回避できる方法を熟知することで、むしろ手術しか生活の質を上げることのできない人々が集まってくるような医療機関にできるのではないかと考えている。

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