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東京ステーションホテル滞在記
こんにちは。
7月、母と灼熱の東京に行ってました。
親戚の家で用事を済ませた後、流れでそのままご厄介になるのも双方気を遣うので、せっかくだしどっか泊まる〜?結局 還暦祝い何もしてないし、良さげなとこ泊まっちゃう〜?と以前から話していたところ、母から東京駅の駅舎の中にあるホテルはどうだろうかと。
すぐにピンと来た。東京ステーションホテル!泊まれる重要文化財。
母も私も一度は泊まってみたい憧れがあるものの、高級ホテルに一人で泊まるなんてとんでもございませんと思っていたようだ。じゃあご一緒しませんか。
東京ステーションホテルには様々なタイプの部屋がある。丸の内の街並み〜皇居前広場を一望できる部屋、南北のドームを囲うようにレイアウトされた、ドームの装飾を窓から間近に見られる部屋…
ホームページを見ながら、泊まるとするならどの部屋がいいか、電話越しにせーので言い合うと「ドームサイド!」と完全一致。仲良しじゃん。辰野金吾建築のドームを間近で見たいし、部屋の窓から改札を見たい。
東京駅丸の内駅舎を断面パースで描いてみた pic.twitter.com/8Dqbt0xXSv
— 建築学生の呟き ✺『お宿図鑑』著者 ✺ (@rninopon) April 20, 2024
宿泊代金は折半のつもりで母は提案してくれたみたいだけど、「ふたりで東京行くこともあんまりないから、記念だから、いいからいいから」と申し出て、わたくしが持たせていただきました。
カッコつけておいてなんだけど、このドームサイドの部屋が料金的には”東京ステーションホテルの客室の中で”一番お手頃といわれている。
他の部屋と比べると床面積が狭めということと、内窓になっていて外の景色が見られないからだろうか。
空室カレンダーをチェックして、結局キングサイズのベッドに二人で寝ることにした。仲良くしようね。
ドラマ ソロ活女子のススメ シーズン4で五月女さん(江口のりこ)が東京ステーションホテルの同じ部屋に泊まっていている回が登場したのが6月のことで、それを観てますます楽しみになった。
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立川から中央線に揺られ東京駅に到着、丸の内南口 改札口。
ドームを見上げ、(今晩ここに泊まっちゃうの〜!?)と胸を躍らせる。
と、同時に(田舎者がなんだかすみません…)とわたしの小心者っぷりが発動。急に心細くなってきた旨を母に話すと、
汗水涙を流して働いて得たお金で憧れの場所に泊まることに何を恥じる必要がありますかと。
そうよな。しゃきっとしなさい。さすが60年以上生きている人は面構えが違う。
入っていきましょう。
ホテルのフロントまでのアプローチからしてもうときめいてしまう。
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ロビーラウンジの床。さっきのカーペットと同じ柄だ!
真鍮部分にかたどられているお花は「旅人の喜び」という花言葉を持つクレマチスだそう。
好きです。こういうのたまらんです。
チェックインして、ホテルスタッフの方に部屋まで案内していただく。
今回宿泊したのは南ドームに面した部屋。
心のこもった丁寧な対応を受けると嬉しい気持ちになりますね。今晩お世話になります。
制服もとても素敵だった……
部屋を散らかしてしまう前に写真を撮っておこう。
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感嘆のため息。ご覧くださいませ。
そうです、部屋にはシャンデリアが付いている。なんということか。
天井の高さは4メートルもあるらしい。
身軽になったので、さっそく探検に出かける。
どんなホテルでもこの瞬間、”部屋に荷物を置いて拠点地とし、扉を開けて外に出る瞬間”がたまらなく好きだ。ワクワクする。
日も暮れて少しばかり涼しくなっただろうし、まず外から駅舎を見たい気分。東京ステーションホテルに泊まる日に見る東京駅は特別。
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竣工は1914年(大正3年)、設計は辰野金吾。
東京ステーションホテルはその翌年に開業している。
1945年(昭和20年)の空襲で屋根やドームが消失、元々3階建てだった駅舎を2階建ての駅舎として復旧させる工事が行われた。
その後2007年に保存・復原工事が着工、2012年に終了し、創建当時の姿が再現された。
この日は都知事選前で演説会をやっていたようで、すごい人だかりだった。早めに退散。あと外はまだまだ暑い!
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ホテルの正面玄関はここ。照らされた外壁のレンガが素敵ね。
続いて館内を散策。
長い廊下は合わせると全長330メートル以上あるらしい。なんとも長大な駅舎だ。直線部分では等間隔に照明が並び、鏡合わせの空間にいるような不思議な感覚になる。
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廊下の壁面には、東京駅や日本の鉄道史、ホテルにまつわるアートワークが飾られている。古写真や資料などその数100点以上(!)
チェックインの時にいただいた館内ツアーガイドの冊子を抱えながらひた歩く。
客室のある2階、3階、4階を複数のエレベーターを使いながら移動していると、現在地がわからなくなって軽く迷子になった。案内板が頼り。
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エレベーターの乗り口は目印として照明が他と違う色になっています、とスタッフの方に案内していただいたんだった。ここだ。タッセルも付いていてかわいい。
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こういうクランクもあったりする。緩やかな坂になっている部分もあってけっこう複雑なつくりになっている。
素敵な階段も。
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その輪郭をそっと撫でさせてくれないか。(手摺りのカーブのこと)
照明編。
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ここは4階アトリウム、明日の朝はここが朝食会場になる。楽しみだな。
奥に見えているレンガは100年前の創建時のもの、鉄骨は戦後復興工事の時のものだそう。
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2階の回廊。ここの柱のデザインは改修時に敢えて近代的にしているそうだ。塗装は現代的だけどうまく調和しているよね。
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宿泊しているのがドームサイドの部屋でなくとも、南北のドームに面してバルコニーが設けられており、そこからも間近に見ることができる。
だいたい1時間半くらいかけて館内に点在するアートワークを見て回りつつ、見どころを巡った。ほぼ全てに近いアートワークを見つけられたと思う。
まるで美術館・博物館を訪れた後のような満足感があった。
東京ステーションホテル、泊まれる重要文化財かつ泊まれるミュージアムです。
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探検している間にバーを見つけた。
明日の豪華朝食ブッフェに備えて夜は軽く済ませたのだが、せっかくだし1杯だけ飲んじゃおうかな。
飲食ゾーン入口にあるシャンデリアのきらめきに見惚れる。
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とっても美味しかったし落ち着く空間だった。
「部屋付けでお願いできますか?」っていう憧れの言葉を言うことができ、感無量。
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部屋に戻ってきました。大冒険だったー
部屋の中も至るところにときめきが散りばめられている。
大好きな遠藤慧さんのスケッチを片手に見て回る。
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トイレットペーパーにはTSHのエンボス…Tokyo Station Hotel…Oh…fantastic……
お風呂にゆっくり浸かり、寝る支度を済ませてベッドに寝っ転がる。
シャンデリアをぽけーっと眺めてしまうな。
こんなだらけた姿でシャンデリアを見られる機会なんて他に無い。
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時刻は深夜1時。
枕元のカーテンを開けてドームを眺める。
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終電も出た頃だろうか、さすがに東京駅もひっそりとしている。
新幹線や在来線の起点であり、日本の玄関口である東京駅のこんな一面を、部屋に居ながら感じられるのもこのドームサイド部屋の特権。
日中は多くの人で賑わっている場所が、夜になると静かになるそれを眺めるのが好き。
夜行列車で、人気のないホームを次々と通過していくさまを見ているのも好きだ。
ちなみにこの床一面に広がる放射状の模様は、戦後の復興工事で作られた天井のデザインをモチーフにしているという。改修される前の2代目の駅舎の歴史も生きているんだね。
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よく見ると一箇所だけ、灰色の部分があるユニットがある。
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今回初めて知ったのだが、この灰色の部分は空襲によってほとんどが焼け落ちてしまったとされる創建当初のドームのレリーフの一部で、比較的保存状態が良かったパーツを強化加工して取り付けているという。そうなんだ……よく残っていてくれたね。
この画像には龍と蛇のレリーフが写っているけれど、ドームの八角形の角それぞれに対応する方角の干支のレリーフが配置されており、丑・寅・辰・巳・未・申・戌・亥の8支が南北のドームそれぞれに飾られている。
これでは4支足りないではないか、卯・酉・午・子は逃げ出してしまったのか。
この東京駅の設計者、辰野金吾の故郷 佐賀県にあって彼が設計を手がけた武雄温泉楼門に残りの4支がいるという。欠けている方角も一致して。
っくう〜〜!粋なことしてくれるわあ〜!
佐賀県で行きたい場所がまたひとつ増えた。
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自分の干支は特にじっくり観察してしまう。
干支モチーフもそうなのだが、その下にいる鳳凰、上部の大鷲、いずれも今にも動き出しそうな躍動感に溢れている。
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縦長窓越しに覗くドーム、なんと美しいのでしょう。
見飽きることがない、いつまででも見ていられる。
ここに来られて良かった。この光景を忘れることはないだろう。
母とふたり、まるで流れ星を観測するようにベッドに仰向けに寝っ転がり、眼前に広がるドームを眺めながら小一時間話をした。
あぁ、母とふたりで泊まることができて本当に良かったなとしみじみ噛み締めていたら、母も同じことを今日一日感じていたようだった。嫌だな、何だか湿っぽくなってきた。ふたり肩を抱き合った。誰かに抱きしめられたのは久しぶりだった。
これまでお互い大変だったよね。私たちは第一に「親子」であるが「戦友」のような関係だとも思っている。
お互い健やかでいたいものです。
z z z
午前6時半。
昨晩はレースカーテンだけ閉めて眠りについたのだが、窓から差し込む光で目が覚める。
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内窓になっているから、この部屋にいて陽の光が感じられるだなんて思いもしなかった。
朝のひととき、とても美しい時間だった。
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さ〜〜最後はお楽しみの朝食ブッフェですわよ〜〜!
このために胃腸を整えてきたんだから。
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広々としたテーブル、ふかふかの椅子、ぴかぴかのお皿やカトラリー、見上げるほどに高い天井、降り注ぐ自然光、美味しくて香り高いコーヒー……
こんなにも優雅な一日の始まりを体験してしまったら、もう…私はもう…
ここは元々屋根裏でそれまでは使用されていなかった空間だったけれど、改修の後こんな素敵な空間に生まれ変わったらしい。ありがとうございます、最高です。
本当にたくさんの料理が美しく並べられていて、その数は100種類を超えるという。
一度じゃ全てを味わいきれないね。
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自分の取り皿の写真を載っけるのはちょっと恥ずかしいので、この美しいオムレツを見てほしい。
とにかく何を食べても美味しくて美しくて本当に素晴らしい。
取り皿の小鉢に盛られていようとも、どんなに少量でもすべての料理に満足感があった。
おいしい〜おいしいねえ。全部おいしい。
あとは料理の温度管理に感動した。
少なくとも私が食べた料理みな、温かいものも冷たいものも、これくらいの温度で食べたいな〜って温度になっていた。ブッフェなのに。
和洋中、フルーツ、デザート、ドリンクに至るまで堪能した!
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部屋に戻り、チェックアウトまでの時間をゆったり過ごしながら思う。
滞在中、本当に自分は今東京駅の中にいるのだろうかと疑ってしまうくらい、館内も部屋の中も本当に静かだった。駅のアナウンスも往来する人々の声も電車の振動も感じることがなかった。よく耳をすませていると微かに聞こえるか聞こえないかという程度。すごい、本当に別世界。
2007年〜2012年の改修工事の特徴は“復元”でなく“復原”である、という一文をあらゆる場所で目にした。
建築当初の姿が完全に失われているものを再現することを“復元”、建築当初の姿から変化しているものの今も存在している建物を元々の姿に再現することを“復原”とわたしは解釈したが合っているだろうか。
駅舎の保存・復原に加え、この先の未来のために免震技術も取り入れた大規模な工事を、駅として電車も利用客も動かし続けながら実現させたというのがすごい。ほんとうにすごいプロジェクト。
姿かたちを時代に合わせて変えながら、100年前から今までこの場所で、関東大震災も空襲もぜんぶ見てきたんだよね。
これからの日本がどこへ向かっていくのか、どうか見守り続けておくれ。
また東京ステーションホテルに泊まることができるように、がんばっていこう。
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