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からあげクンが宇宙に行くまで 〜宇宙日本食認証基準への挑戦(後編)〜[石橋 拓真]

2020年11月〜2021年5月、JAXAの野口聡一宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在した際に宇宙日本食の一つとして搭載され、大きな話題を呼んだ「スペースからあげクン」。

その開発プロジェクトのこれまでとこれからに迫る2ヶ月の連載企画。前半では、スペースからあげクン開発のきっかけや初期のいきさつについて掘り下げてご紹介しました。

何気ないやり取りからプロジェクトがスタートし、「衣が散らないようにする」という難題を乗り越えたスペースからあげクン開発チーム。後半となる今回は、宇宙日本食の認定審査での試練や、それを乗り越えるに至ったチーム力、そしてスペースからあげクンの今後の可能性についてご紹介していきます!

宇宙日本食の試練②:設備・衛生管理体制を整える一次審査

次なる難題として立ちはだかったのが、宇宙日本食の一次審査でした。宇宙日本食の審査は二段階からなり、一次審査では、申請食品の製造設備や衛生管理体制などが審査されます。フリーズドライで作るという方向性は定まったものの、どのように製造すればよいか、金平さんは途方に暮れたと言います。

そんな時に動いたのが、ローソンの白井さん。社内のつてを辿って、宇宙日本食開発経験のあったメーカーに繋いで下さったのだそうです。「通常の生産ラインとは別の検証用のラインで作ってはどうか」というアドバイスを受け、「そうか、そうすれば良いのか!」と見通しは好転。膨大な内容の申請書に悪戦苦闘しながらも、審査通過に漕ぎ着けました。

宇宙日本食の試練③:長期保存試験の二次審査

二次審査では、衛生や栄養項目の検査や、製造された最終製品の品質検査などが行われます。審査の最終にして最大の難関が、ISSで長期間安全に保管するための、18ヶ月にも及ぶ保存試験でした。

この試験は第三者機関に委託しての実施。実物を預けた後は1年半ひたすら待ち続けながら他の申請作業を並行して進める日々で、公正な試験のためスペースからあげクンの様子は見ることも知ることもできません。金平さんにとっては、胃の痛い日々が続いたそうです。

スペースからあげクン-宇宙日本食認定

▲苦労の末に獲得した、JAXAからの宇宙日本食認証書  出典:ローソン

コラボレーションをやり切ったチーム力

苦労の絶えない日々を乗り越えて、ようやく獲得した宇宙日本食認証。金平さんは、「白井さんが常に前向きでいて下さったからこそ実現できた」と感謝を口にします。開発と認証が難航する中、白井さんは「開発は金平さんに任せっきりにしているから」と、金平さんを励ます一方で得意のマーケティング戦略を展開。宇宙兄弟とのコラボからあげクンの発売やからあげクンを成層圏に飛ばす取組みなど、様々な施策で「宇宙×からあげクン」の機運を盛り上げていきました。

からあげクンーブラックホール味

▲2017年に全国のローソンで展開された、「からあげクンブラックホール味」。出典:ローソン 宇宙兄弟©小山宙哉/講談社

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画像提供:千葉工業大学

「スペースからあげクン」の今後

2020年11月からの野口聡一さんの滞在で、無事にISSデビューを果たしたスペースからあげクン。

宇宙日本食の審査を開始した当時は、その次の星出彰彦さんのミッションまでが決まっていたため、「この認証の機会を逃すと次はいつになるか分からない」という緊張感があったそうですが、取材させていただいた2021年8月の時点では、その次の若田光一さん、さらに古川聡さんのミッションまで決まっています。「その時にHTV-Xが運用開始していて、お二人からのご要望があれば、いつでも私たちはお届けできます」と、JAXAが開発中の新型宇宙ステーション補給機HTV-Xでの搭載にも期待を込めて金平さんは語ります。

今後広がっていく民間宇宙旅行に於いて、「楽しく食べられるスナック」は必需品。特に無重力状態が4分ほどと短時間しかないサブオービタル宇宙旅行(※)では、お湯で戻す食品よりもそのままパクッと食べられるスペースからあげクンのような形が重宝されるのではないでしょうか。

※サブオービタル宇宙旅行:高度100kmのカルマンラインを超えて宇宙空間に到達し、すぐに地上に帰還するタイプの宇宙旅行のこと。地球軌道上を周回する「オービタル宇宙旅行」に対して、サブ(=~の下の)オービタルと呼ばれる。

おわりに

多くの試行錯誤を経て実現したスペースからあげクンプロジェクトでしたが、「からあげクンを宇宙でも食べてもらう」というそのアイデアはシンプルそのもの。多くの子供たちや親御さんにとって、宇宙を身近に感じるきっかけになったのではないでしょうか。今後の進化と活躍からも、目が離せません。

※「からあげクン」「スペースからあげクン」はローソンとニチレイの登録商標です。

参考記事

「からあげクン」が野口さんと一緒に宇宙へ プロジェクト発足から3年9カ月

からあげクン、“特例”で宇宙食へ 開発の決め手になった宇宙飛行士の要望とは?

ローソンnews|宇宙食「スペースからあげクン」を野口聡一宇宙飛行士に提供

「からあげクン」宇宙食採用へ前進 フリーズドライでカリッと食感

野口聡一さん宇宙船搭乗へ。宇宙食「からあげクン」開発の苦闘とやりがい

からあげクン、宇宙へ(千葉工業大学・リコーITソリューションズ協力のもとからあげクン宇宙に飛び立つため、モンゴルへ!!) 

動画【ローソン】宇宙で「スペースからあげクン」を野口宇宙飛行士に食べていただきました!

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白井明子さん
株式会社ローソン マーケティング戦略本部 部長 
株式会社ローソン入社後、店舗営業を経て、ITやマーケティング部門配属。
2020年3月より現職。
日本マーケティング学会理事。
法政大学イノベーションマネジメント研究センター客員研究員。
2012年「Web人大賞」
2013年日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー準大賞」受賞。

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金平佳乃さん
2002年株式会社ニチレイ(現・ニチレイフーズ)入社。冷凍食品の技術研究と開発に携わる。2014年より「からあげクン」商品開発に参加。好きな食べ物はから揚げと日本酒。好きな「からあげクン」はレギュラー。

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石橋 拓真(いしばし・たくま)
1997年生。東京大学医学部医学科5年。国際宇宙会議(IAC)2018 JAXA派遣学生。宇宙開発フォーラム実行員会執行部を経て、Space Medicine Japan Youth Communityの立ち上げ、運営に携わる。2019年より、雑誌「宇宙・医学・栄養学」編集委員。2020年より、スペースバルーンで炎を宇宙に掲げるプロジェクトEarth Light Project執行部。




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