映画『君は永遠にそいつらより若い』 (ネタバレ感想文 )倒れた自転車を起こすまでの物語
時子が主演だというので三男ばりにはりきって映画館に足を運びましたよ。ああ、朝ドラ「ひよっこ」の話をしています。すいません。そんな有村架純とコンビニの駐車場でビール飲みながら人生相談してたのが奈緒ですよ。ああ、ドラマ「姉ちゃんの恋人」の話をしています。すいません。
そんなこんなで佐久間由衣と奈緒というだけで、何の事前情報も持たずに映画館へ足を運びました。
正直な感想を言うと、これ、女性監督(あるいは女性脚本家)だったら全然違ったと思うんです。
男だ女だ言うと叱られる時代ですけど、ハッキリ言いますよ。
「女性監督の作品には、男が逆立ちしても描けない何かがある」。
台詞回しだけでなく、ちょっとした仕草とか表情とか。
井口奈己作品とか観るといつも思う。
男の人の前では見せないような表情等を女性監督は切り取ります。男からしてみたら、何か見ちゃいけないものを見たような、少し恥ずかしいような気持ちにすらなる。それはキスしちゃうとか大仰なことではなく、ちょっとした表情や仕草なんですよ。
「あざとくて何が悪いの?」って番組があるけど、男は分からないけど女性なら分かるってことがあるでしょ?あれに似てる。女性同士でしか気付かない(描けない)何か。
おそらく、この話自体もそうなんだと思います。
堀貝は「私は気付けないんだ。何かが欠落してるんだ」と言い、それが「オンナとして欠陥品である自分」と同義化します。
しかし、「欠陥品にさせられたオンナ」である猪乃木と出会ったことで変わっていく。
この二人だから分かる何かがあった。
互いの欠けている何かを理解し合えた。それを互いに埋め合う物語。
とてもいい話です。
ただ(原作は未読ですが)、監督が原作を咀嚼しきれていない=消化(昇華)できていない印象が残ります。
監督・脚本・編集まで一人で行うほど思い入れたっぷりなのは観ていて分かるんですが、それが逆に「整理できない(思い切ってエピソードを捨てられない)」結果になっている。はっきり言ってとっ散らかってる。
全てが台詞処理で、順序立てて説明しているのに、堀貝の言葉よりとっ散らかってる。話が綺麗に収束していかない。
これ、文学なら許されるんですよ。
でも映画は(文学的なことはあっても)文学ではない。
よく原作と映像化を比較してとやかく言う人がいますが、ツールが違うんだから、それは別物だと理解しなきゃいけない。文学は文学の特性や制約があり、映像は映像の特性や制約がある。漫画だって同じです。ツールの制約の中で、その特性を活かして原作をどう「料理」するか。
監督は若いんですよね。この監督は永遠に俺より若い。言いたいだけ。
倒れた自転車のショットから始まり、佐久間由衣が訪問先で倒れた自転車を起こすラストは、映画らしい表現でよかったと思います。
若い監督は褒めないと。
せっかくのいい素材、もう少し調理法を変えるといい料理になったんだろうと思います。
んー、でもキャスティングは佐久間由衣で正解だったのかな?
いやまあ、こっちが勝手に佐久間由衣ちゃん好き好きビーム出してるのが悪いんだけど(<気持ち悪いオッサンだな)、非モテ女子設定なわけでしょ?
確かにデッカイよ。でもモデル体型なわけじゃないですか。
男が恋愛相談とか性的な話をするってことは「異性として意識していない」わけですよ。それを彼女は顔で笑って「自分はオンナとして欠陥品」と心で泣いている設定なわけですよね。
いや、可愛いから。全然可愛いから。
三男だって一途だったじゃないですか(<まだ言ってる)。
映画って見た目重要。
これが舞台だったら、貝殻1個置いて「海だ」って言えば海になるし、森光子がセーラー服着て「女学生だ」って言い張れば女学生になる。これが舞台と言うツールの特性。でも映画はそうはいかない。概念ではなく「見た目」という制約がつきまとう。
時子はがんばったよ、うまかったよ。
でも、可愛いんだ。最初っから最後まで可愛いんだ。
おそらく理想は、男から異性として見られないタイプの女子が「だんだん可愛く見えてくる」だったと思うんです。
そうさな・・・片桐はいり的な誰かが理想だったんじゃないかな?
横浜聡子『ジャーマン+雨』(06年)のゴリラーマンこと野嵜好美とか。
女性監督だったら、主演女優の選択から違っていたような気がします。
余談
井口奈己について少し触れましたが、『犬猫』(04年)を観た時に「男は逆立ちしても女は描けん」と思ったんですよね。ちょっとした衝撃。
その後の『人のセックスを笑うな』(08年)、『ニシノユキヒコの恋と冒険』(14年)も同様。ただ、この3本しか撮ってないんだ。もっと撮ってほしいな。山中貞雄の現存フィルムじゃないんだから。長谷川和彦よりは多いけど。
(2021.09.19 テアトル新宿にて鑑賞 ★★★☆☆)
監督:吉野竜平/2020年 日(2021年9月17日公開)