映画『宗方姉妹』 小津の「カサブランカ」(ネタバレ感想文 )
「午前十時の映画祭」にて4Kリマスター版で初鑑賞。
これでやっと、戦後の小津作品は制覇。
とにかく音声が聞き取りやすかったのがありがたい。
本作は1950年(昭和25年)の制作で、小津安二郎54本の監督作品のうち、たった3本しかない松竹以外の作品。
『小早川家の秋』(61年)でも書きましたが、他流試合の時は舞台が鎌倉じゃないのよ(笑)
今だから分かる話を書きますが、前々作の『風の中の牝鷄』(48年)が不評だったんですよね。
その反動で、次作『晩春』(49年)から、「嫁に出すだの出さねえだの」といういわゆる小津調ホームドラマが確立していくわけです。
本作は、その確立していく過程の一作。
他流試合の頼まれ企画物だったのかもしれませんけどね。
小津には珍しい原作物。原作は「鞍馬天狗」の大佛次郎。日本の夜明けは近い。
ちなみに大佛次郎については、伊丹十三『お葬式』(84年)のコメントで、『天皇の世紀』という幕末を描いた未完の歴史小説について触れたことがありますが、この『宗方姉妹』も、ある意味歴史の転換点を描いた作品に思えるのです。
戦前の教育が身に染み付いている姉と、戦後の思想を纏っている妹の物語。
原作小説も映画も、まだ終戦後5年しか経っていない時期。
寅ちゃんが家庭裁判所を立ち上げた頃。あ、朝の連ドラ『虎に翼』の話をしています。
この(戦後の)時代の変化というものは、その後も一貫して小津が描き続ける主要テーマです。
で、戦後の小津作品の中で、上述の『風の中の牝鷄』と本作と、『東京暮色』(57年)が、やたらドラマチックな気がするんです。
こういうの、小津は意外と嫌いじゃなかったんじゃないかな?元来アメリカ映画好きですしね。
なかなか衝撃的な映画です。
なにせこの映画、小津映画には珍しい暴力シーンもある。
聞き分けのない女の頬を一つ二つ張り倒すんです。ボギー、あんたの時代は良かった。
まじでこれ、小津の『カサブランカ』(42年)じゃないかと思うんですけどね。
「あんなプロパガンダ映画の何がいいんだ」と淀川長治先生が大嫌いな映画ですけど、まあ、それはさておき。
昔の恋人ウンヌンもそうですし、なんと言っても山村聰がハードボイルド。山村聰の痩せ我慢映画。山村聰がボギー。ジュリーがライバル。バン ババン バン。言いたいだけ。
そう考えると、小津と野田高梧の脚本が凄くて、みんな「痩せ我慢」して本音を言ってなかったりするの。
例えば、高峰秀子が上原謙に「結婚してくれー」言うて、後日、「あれはお芝居。少し本音」って言うんだけど、この心理状態と丸っと同じことが、山村聰が田中絹代に離婚を切り出す場面に当てはまるんですよ。
脚本の良さに集中できたのは、ストレスなく台詞が聞き取れたおかげです。4Kリマスター万歳!
でも、一番の衝撃は、カメラが横移動したことかな。
他流試合で、カメラが厚田雄春じゃないんですよね。
まだ、小津スタイルが完全に出来上がってなかったせいもあるのかな。
人物が縦構図で配置されているショットも新鮮だった。
いろいろ、面白かった。
(2024.06.22 TOHOシネマ新宿にて鑑賞 ★★★★★)
その他noteに書いた小津映画