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ドラマ『ちかえもん』雑感(超今さら)

2016年1~3月のNHK木曜時代劇(全8回)。藤本有紀が向田邦子賞を獲った作品。

面白いというもっぱらの評判で、本放送を見なかったことを後悔し、鑑賞機会をうかがってはや5年。この度、時代劇専門チャンネルの放映でリアルタイムに一気に鑑賞。録画して後日鑑賞でもよかったんだけど、そうするとモノグサ我が家はさらに5年は寝かせちゃうからさ。

笑った、泣いた、面白かった。

藤本有紀脚本作は『ちりとてちん』(07年)が大好きで、DVD-BOXを買っちゃったくらい。でも藤本有紀を追ってなかったんだよな。振り返ってみれば『ギャルサー』(06年)も好きで見てたけど、当時は藤本有紀脚本ということは意識していなかった。そういや『みをつくし料理帖』(17年)も藤本有紀だった。面白かった。

松尾スズキ演じる近松門左衛門の「心の声」の今どき言葉遣い、近松門左衛門が毎回歌う歌謡曲等の替え歌(最終回の「我が良き友よ」は感涙物)、アニメーション挿入など、時代劇としてはめちゃめちゃ変化球です。しかし、設定は史実に忠実。おそらく綿密に調べたのでしょう。この「嘘と本当の境」が創作物の面白さなんですよ。

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ここから横道というか余談。というか無駄話。

このドラマをきっかけに(調べて)初めて知ることも多くありました。
「近松門左衛門=心中物」ってイメージは、どうやら昭和に作られたようだという私の推測。

まず、そもそも、近松門左衛門は人形浄瑠璃の作家であり、歌舞伎作家ではない。『曽根崎心中』は元々人形浄瑠璃のために書かれた作品。
ドラマ中、近松は一度、人形浄瑠璃作家を諦めて歌舞伎作家になり、再び人形浄瑠璃作家に戻ったという設定です(史実そうらしい)。また、歌舞伎の台頭で人形浄瑠璃人気が落ちているといった台詞も出てきます。
私、「人形浄瑠璃」と「歌舞伎」の(当時の)社会的ポジションを掴みきれていないのですが、どうもこの当時は人形浄瑠璃の方が格上扱いだったように思えます。少し前の映画とテレビの関係みたいなもんでしょうか。

また、「お前も人形浄瑠璃でも見て勉強せぇ」という岸部一徳の台詞があります。
ドラマ内でも出てきますが、人形浄瑠璃は元々、歴史上の事件や人物を題材にしたものが主流だったそうです。そこで忠義心などのある種「道徳教育」的なことが行われていたのでしょう。
そこに近松は「曽根崎心中」で心中物を持ち込んだ。「時代物」に対して「世話物」と呼ぶそうです。「下世話」の語源はこの辺にあるんじゃないでしょうかね。知りませんけど。
また、近松が歌舞伎時代に培った手法を人形浄瑠璃に持ち込んだとも考えられ、それもまた前述した当時の社会的ポジション(歌舞伎=下世話)の一因なのではないかと勝手に推測しています。

人形浄瑠璃の主流はあくまで「時代物」でありつつも、その後「世話物」が大人気。特に心中物はブームで、実際の心中も横行したたため、幕府は「心中物」の上演を禁止します。もっとも心中を装った事件も多かったという話もありますが。

今回初めて知って驚いたのですが、上演を禁止された『曽根崎心中』が再び上演されたのは、実に200年以上後。1953年(昭和28年)に歌舞伎の演目として復活したそうです。知らなかった。驚いた。
さらに、その再演を演じたのが中村雁治郎。小津安二郎『小早川家の秋』で私が「鴈治郎キャビアを喰らふ」と評したあの中村鴈治郎だったのです。

要するに、『曽根崎心中』は昭和の再演まで250年もの間忘れられた存在であり、当然「近松=心中物」というイメージは、その後作られたイメージであるに違いありません。


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