記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『ヒルコ/妖怪ハンター』 (ネタバレ感想文 )夏の終わり、恋の終わり

私は長年「光石研を探せ!」をやってるんですが、この映画にも出ていたか。今やすっかり有名バイプレイヤーですが、長年チョイ役マスターでしたからね。ひゃー、余貴美子も出てるよ。

自主映画『鉄男』(89年)で単館映画館の興行記録を塗り替え、己の腕一本で世界に踏み出した塚本晋也の初商業映画。30年の時を経てレストア&リマスター。
あくまで30年記念だそうで、『妖怪大戦争 ガーディアンズ』便乗でも『キネマの神様』沢田研二便乗でもなかったらしい。何にせよ、VHSでしか観たことなかったので映画館で鑑賞できて嬉しい。感謝感激。

私は塚本晋也好きです。
ただ一般的に彼の代表作と呼ばれるのは『鉄男』や最近なら『野火』(2014年)だと思いますが、私が大好物なのは『双生児』(99年)、『六月の蛇』(2003年)と、この『ヒルコ』。『六月の蛇』はともかく、『双生児』と『ヒルコ』は与えられた企画物だと思うので、「この原作を塚本晋也に撮らせよう」と思ったプロデューサーの勝利なのかもしれません。

そんな頭のオカシイ私は『ヒルコ』を「青春&恋愛映画」だと思っています。
もっとも、私の好きな恋愛映画は初代『ゴジラ』(54年)や『ガス人間第一号』(60年)なので、「怪人と恋愛」が好きなのかもしれません。『ミツバチのささやき』(85年)のアナ・トレントと一緒だな。俺のつぶらな瞳を見せてあげたい。

『ヒルコ/妖怪ハンター』 は圧倒的な失恋映画です。

青春映画は「何かを失いながら成長する」ものだと私は思っています。
特に夏の映画はそう。山口百恵的に言えば『ひと夏の経験』。「喪失と成長」がセットになって、終わりゆく夏の青空を見上げる。ひと夏の経験で得た成長と何かを失った喪失感。まるで夏休みの終わりに似た感覚・・・。
私はこれを「夏休みの終わり映画」と呼んでいます。
本作は、私の思う理想的な「夏休みの終わり映画」。まあ、マイベストは森田芳光『(本)噂のストリッパー』(82年)ですけどね。夏休み関係ないけど。概念としての「夏休みの終わり映画」。

ふと思ったのですが、「夏(休み)の青春映画」って最近多いですよね。
今年なら『サマーフィルムにのって』や『子供はわかってあげない』、昨年なら『アルプススタンドのはしの方』とか。
これっていつ頃からの傾向なんだろう?
何をもって「青春映画」と呼ぶかという問題はありますが、石坂洋次郎の時代はそんなこと言ってなかった気がする(<古すぎ)。

私の勝手な推測では、80年代後半くらいからじゃないかな?思い付くのは、本作と金子修介『1999年の夏休み』(88年)くらいだけど。
『スタンド・バイ・ミー』(86年)の影響もあると思うんですよ。根拠はないけど。
それと、バブル経済が崩壊して、時代の空気に「夏休みの終わり的喪失感」があったのかもしれません。根拠はないけど。

閑話休題。

塚本晋也はトリッキーな作風かもしれませんが、決してトリッキーな作家ではありません。
むしろ「映画的常識人」だと思います。
本作だって、トリッキーな話にも関わらず、エンターテインメントに仕上げようと丁寧にストーリーを紡いでいます。正しいドラマツルギー、正しい起承転結と言ってもいい。
破天荒さは全然なく、映画として「あるべき所にあるべき物がちゃんと置かれている」印象があります。本作に限らず、どの塚本作品も。

私は長年、作家・塚本晋也にとって本作は「頼まれ仕事」の「商品」なのかと思っていいました。しかし、今回のレストア&リマスターに寄せて、監督自身が「愛おしい映画」と語っていたのが嬉しかった。ほんと、愛おしい映画です。

一般的にはお薦めできませんけど。

(2021.09.02 アップリンク吉祥寺にて鑑賞 ★★★★☆)

画像1

監督:塚本晋也/1991年 日(リマスター版公開2021年7月9日)

この記事が参加している募集