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映画『悪なき殺人』 (ネタバレ感想文 )まずは体の関係から。

よく練られた話です。面白かった。

各章は一人の登場人物に絞った「視点」で描かれます。
観客は、その章の主人公と同じ立場で、同じ情報しか入手できません。
しかし映画全編を見終えた時、観客は全貌を知る「神」の視点に至るのです。

こういう手法は珍しくはありません。
黒澤明『羅生門』(1950年)を引き合いに出す人もいますが、あれは「同じ出来事なのに人によって言い分が違う」「真相は藪の中」という別な意図を孕んだ複雑なやり口なので、例としては正しくない。
むしろ「実は裏側でこんなことが行われてました」という意図の『木更津キャッツアイ』(2002年)や『カメラを止めるな!』(17年)の方が近い。

このパズル的な(トリッキーな)語り口がこの映画の面白さの一つであることは否定しません。でもそれが全てではない。本質はもっと別の所にあると思います。

基本、ネタバレ抜きでは感想文を書けない性質たちなのですが、今回は特にヒドい。今からヒドいネタバレを書きます。

(警官を除く)主要登場人物ほぼ全員に「肉体関係」の描写があります。
一人だけ、「ヤリたい」一心で頑張るけど肉体関係を持てない人がいます。

これはそういう映画です。
なんだそれ?どういう映画なんだよ。いや、そういう映画なんだって。

言い換えれば、「人間関係と欲望の矛先」とでも言いましょうか。
人間関係の行きつく先は肉体関係ですし、欲望の矛先も肉体関係です。

この映画の登場人物全員、人間関係に何らかの支障が生じています。
それを欲望を満たすことで解消しようとしているのです。
だから肉体関係が描写される。
ところが一人だけ、その欲望も満たされない。だからその矛先が・・・。

だいたいねえ、オッサンが若い女の子からのメールとかチャットとか信じちゃダメよ。ただのカモだって、ちょっと考えれば分かるじゃん。私も散々歌舞伎町に高い授業料を払ってきましたから、そんな誘惑メールには騙されませんぜ。おっと、キャバ嬢からLINEだ。なに!?サンタコスプレデーだと!?

(2021.12.19 新宿武蔵野館にて鑑賞 ★★★★☆)

監督:ドミニク・モル/2019年 仏=独(日本公開2021年12月3日)

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