映画『紅いコーリャン』 鞏俐より姜文の映画(ネタバレ感想文)
年末にきて立て続けに張芸謀自身が監修したというHDレストア版を映画館で鑑賞。『紅夢』(1991年)、『菊豆』(90年)と遡って、最後に監督デビュー作。これも約30年ぶりの再鑑賞で初の映画館での鑑賞。
『菊豆』と同じように、鞏俐のアップの力強い画面から始まりますが、終わってみれば、他2作品と違ってコン・リーより姜文の映画という印象です。
チアン・ウェン演じる男が話しを転がしていて、コン・リーは振り回される側。
原作はノーベル賞作家・莫言の長編小説だそうで、映画よりも抗日戦争の要素が強めのようです。ま、読んではいないんですけどね。
これもチャン・イーモウの映画としては珍しいように思うんです。
彼の映画は、あまり政治的な要素が無い。
現代中国を描くこともほとんどありません。
この映画でも(原作通りのようですが)「祖父母の話」として、過去の時代が描かれます。
チャン・イーモウ作品の多くが過去の時代の物語ですが、そこに政治的な意図はほとんど感じられません。つまり、日本軍を描いたり、文化大革命を描いたりということがほとんど無い。実はこのデビュー作が珍しい部類。
だからこそ(政治的な意図が感じられないからこそ)、北京オリンピックの開会式の演出を任されるほど国家的な映画監督に成長したんでしょうけど。
(文化大革命を好意的に描いているようには思えませんけどね)
彼は、どの映画でも、必ずと言っていいほど「古い風習」を丁寧に描写します。この映画だと「嫁入り」とか「酒造り」とか。
彼の意図は、今の社会を描くことよりも、「消えゆく文化」を描こうとしているように思います。
まあ、同じようなことは『ワン・セカンド』(2020年)や『崖上のスパイ』(21年)でも書きましたけど。
しかし本作では非道な日本軍の描写が登場する。
この映画主演のチアン・ウェンが監督した『鬼が来た!』(00年)を思い起こします。チアン・ウェンは後に自身でも監督するようになるんですよ。『太陽の少年』(1994年)とか。
まあ、抗日場面はチアン・ウェンの意図ではなく単なる偶然ですけどね。
そういった主演俳優の情報やチャン・イーモウ監督作を数多く観ていること、同時期の初期作品を立て続けに観たこと、そしてコン・リーを無駄にウフウヒ観ちゃうことが重なって、再鑑賞でだいぶ印象が変わったんですよね。
(2024.12.31 シネマート新宿にて再鑑賞 ★★★☆☆)