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映画『墓泥棒と失われた女神』 さえないインディ・ジョーンズ(ネタバレ感想文 )

監督:アリーチェ・ロルバケル/2023年 伊=仏=スイス(日本公開2024年7月19日)

考古学つながりで『インディ・ジョーンズ』と書きましたけど、まあ、インディ・ジョーンズも墓泥棒みたいなもんですから。
でもこの映画は、消えた恋人だか奥さんだかの話なんで『フランティック』(1988年)ですね。
ああ、すいません、無関係なハリソン・フォード縛りで話してました。

オオッ!イザベラ・ロッセリーニだ!無関係じゃないけど脈絡ない。

このアリーチェ・ロルバケルという女性監督の作品を観るのはこれが初めてで、「まだ味わい方が分からない」というのが正直な感想です。
食べ慣れない料理みたいなもんで、美味しそうなんだけど、本当に美味しいとはまだ思えない…みたいな。子供の頃のブラックコーヒーみたいな感じ。
もう少し他の作品を観たら美味しくいただけるようになるのかしらん?
正直言うと、私は消化不良でした。

映画の舞台は、80年代、イタリア・トスカーナ地方の田舎町だそうで。
ベルトルッチ『魅せられて』(96年)と同じかな?あれは90年代か?

原題は「キメラ」。
キメラとは、「同一個体内に異なった遺伝的背景を持つ細胞が混じっていること」なんだそうです。平たく言うと「異質同体」だとか。
その語源は、ギリシア神話に出てくる「キマイラ」だそうで、ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ怪物だそうです。
普通に、ライオンの方が強そうだな。

ギリシャ神話ついでに言うと、話のモチーフは「オルフェ」なんですよ。

監督は、フェリーニ、ヴィスコンティなどの豊かなイタリア映画史の遺伝子を確かに受け継ぎながら、革新的な作品を発表し続けているアリーチェ・ロルヴァケル。

公式サイトより

なるほど、フェリーニの影響が見て取れます。
私は常に「太った女が浜辺で踊ってるような映画が観たい!」と言っているんですが、実際この映画でも太った女が踊りますしね。
そもそも、夢と現実の混在は『8 1/2』(63年)ですよ。

ついでに言うなら、クレーンで引き上げられる女神像は『甘い生活』(60年)を彷彿とさせますし、祭りのシーンもフェリーニ的。

あと、「ヴィスコンティの遺伝子」とも公式サイトでは言ってますね。
そう考えると、本作のイギリス人主人公は『異邦人』(67年)なんだと思うんです。

ついでに言うと、この映画に出てくる「イタリア」という名の女性なんですが、彼女はブラジルの女優さんだそうです。
おそらく劇中でもブラジル人設定の「異邦人」なのでしょう。
日本人の私には、イタリア人もイギリス人もブラジル人も見分けがつかない。80年代イタリアの田舎町における「異邦人」の置かれた状況が分からない。それもまた「消化不良」の一因かもしれません。

そう考えるとこの映画は、フェリーニの頭、オルフェの胴体、ヴィスコンティの尻尾を持つ「キメラ」ということなのでしょうか。

ただまあ、監督がそれを消化(昇華)していたかというと、消化不良のような気もするんですよねぇ…。
消化不良というか、相手が偉大すぎるというか・・・

余談
35mmと16mmのフィルム撮影を混在させていると思うんですが、映画的なセンスというか映画「勘」みたいなものは感じる監督ではありました。

(2024.08.17 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて鑑賞 ★★★☆☆)

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