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映画『トムとジェリー』 ヒット・ガール、猫と鼠を手懐ける(ネタバレ感想文 )

何でお前こんな映画観に行ってんだ?って話ですけどね。クロエちゃん目当てだったことをここに告白します。こんなにクロエちゃんの膝を拝める映画は他に無いですよ!
もっとも、彼女を観るのはアサイヤスの『アクトレス』(14年)以来ですけどね。もうクロエちゃんって年齢じゃないな。クロエ嬢。当然声も聞きたいわけですから字幕版で鑑賞。

で、字幕版で鑑賞したから気付いちゃったんですけど、翻訳って難しいですね。あ、いきなり脱線しますね。
「守秘義務がある」と言いながらも行き先を教えるシーンがあります。字幕では「空港」になっていますが、実際に言っている単語は「JFK」。これさあ、ギリ守秘義務を守ったシャレた返答なんだけど、「空港」って言っちゃったら守秘義務違反だよね。字幕・吹替えに関わらず、翻訳でユーモアやウィットはだいぶ削られてしまう。例えば『ダイ・ハード』(88年)で「お前は目が見えないのか !?」って訳されるシーンがあるけど、「Are You Stevie Wonder !?」って言ってるからね。そういやこの映画も冒頭でスティービー・ワンダーのパロディやってるな。

閑話休題。

実は私、「トムとジェリー」好きなんですよ。厳密には「ハンナとバーベラ」好き。このアニメの生みの親、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラ、第1期(1940-58年)の作品群が好き。会社はMGM、製作はフレッド・クインビー。私の「トムとジェリー」はこれ。
今観てもビックリするくらいアニメの完成度が高いんですよ。台詞が無くても何をやっているか分かるし、釘付けになる。歩き方一つとっても「表情」がある。それになんといってもアイディアが豊富。

「昔は良かった」的なことを言うつもりは毛頭ありません。
でも、アニメーションで表現できる技術は著しく進化したはずなのに、アニメの完成度は劣化してないか?と思うのです。

また話が脱線しますが、昨年、高畑勲『赤毛のアン』と宮崎駿『未来少年コナン』を全話観たんです。凄くレベルが高い。子供の頃にこんな凄いレベルのアニメを観ていたなんて、人生の宝ですよ。まあ、子供だから気付かないけど。
何が凄いって、演出が映画みたいなの。ちょっとした仕草、何気ない仕草がきちんと「動画として」描かれる。口だけ動いて説明台詞を延々聞かせる今時のアニメと大違い。手が動く首が動く表情が動く。人の感情を「仕草」で演出している。台詞じゃなくて「動き」で表現しようとしている。技術的に出来ないことも知恵を使って面白く表現しようと努めている。

この映画に話を戻しても、やっぱり同じことが言えると思うんです。

例えば、犬を殴ってコブが出来る、ごまかそうとコブを押すと引っ込むけど別の箇所にコブが出てくる(言葉で説明すると面倒くさい)。カートゥーンらしい表現ですが、ハンナ=バーベラがやってます。同じように、犬がトムを追いかける際にデカい入歯に付け替えるシーンがあるんですが、これもハンナ=バーベラがやっている。他にもいっぱいありますよ。天使と悪魔とか、耳の中(目の裏)を通り抜けるとか。

おそらくこれはわざとなのです。私のような往年のファンに対する色目なのでしょう。実際、ドルーピーが見切れていたりしますし、話に絡まないけど金魚もいるしね。
(あの金魚をトムが食べようとしてジェリーが助ける話があるんですよ。私は最高傑作の一つだと思うんだよな)

でもそれが逆に、「アニメ的に面白いのは昔のアイディアだけ」ということを露呈する結果になってしまった気がします。

この映画の生命線って、飽きさせない「スピード」だと思うんです。
でもそれは、アニメーションとしての「スピード感」ではない。例えば上半身だけ先に行っちゃって下半身が後追いするような(カートゥーンならではの)スピード感の演出ではないんです。
もはや何でも撮れるコンピュータ技術で、実際に早い画面を撮っている(合成している)だけ。我々が見せられているのは「演出」じゃなくて「テクノロジー」。
それはまるで、この映画のドタバタ劇解決ツールがドローンとWi-Fi付スケボーという「テクノロジー」であることと呼応するかのようです。
好意的に考えれば、80年前に生まれたアニメを現代に蘇らせる意義の一つとして、「当時なかったテクノロジーを盛り込む」というアイディアが生まれたのかもしれませんけどね。

まあ、この手の映画にとやかく言うのも大人げないんですけどね。
技術の進化で何でも撮れちゃう分、智恵を使ってない。これが正直な感想。
ついでに言うなら、多様な人種への配慮とか、過剰暴力の排斥とか、なんならネコやネズミにも人権(?)的配慮をするような勢いで、「窮屈な映画だな」とも思いました。
(2021.03.21 TOHOシネマズ日本橋にて鑑賞 ★★★☆☆)

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監督:ティム・ストーリー/2021年 米(日本公開2021年3月19日)

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