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映画『別れる決心』 パク・チャヌクと別れる決心…(ネタバレ感想文 )

監督:パク・チャヌク/2023年 韓国(日本公開2023年2月17日)

『復讐者に憐れみを』(2002年)、『オールド・ボーイ』(03年)、『親切なクムジャさん』(05年)の所謂「復讐三部作」が大好きで、以後、パク・チャヌク監督作は欠かさず観ています。
ポン・ジュノは嫌いだけどパク・チャヌクは好き。

その後、『サイボーグでも大丈夫』(06年)、『渇き』(09年)、『イノセント・ガーデン』(13年)をパク・チャヌク本人は「人間ではない存在の三部作」と言ってるそうなんですが、『お嬢さん』(16年)と本作『別れる決心』(22年)は何三部作のつもりなんだろう?

私は「言語が不自由な三部作」なんじゃないかと予想してます。
実際この映画では、タン・ウェイ演じる韓国語が不自由な中国人女性がメインキャラです。
前作『お嬢さん』では日本語でしたね。私の薄い記憶では、妙ちくりんなイントネーションで「チ◯ポ」「マ◯コ」連呼する映画だったと記憶しています(<どんな記憶だ?)。
ハリウッドで撮った『イノセント・ガーデン』の際に、言語の不自由さに興味を持ったんじゃないでしょうかね?ま、勝手な推測ですけど。

ちなみに『イノセント・ガーデン』はヒッチコック『疑惑の影』(1943年)の新解釈だったと私は思っているんですが、ヒッチコック作品の新解釈(オマージュ)だと私が熱く語る作品がもう一つあって、アン・リー『ラスト、コーション』(2007年)がそうなんです。あれは『汚名』(1946年)だ。
それで、その『ラスト、コーション』がデビュー作で準主役を務めたのが、タン・ウェイなんですよ。

『ラスト、コーション』のタン・ウェイ
『別れる決心』のタン・ウェイ

前作『お嬢さん』は原作物でしたが、今回はオリジナルなんでしょうか?
ハッキリキッパリ言って、殺人手法に無理があり過ぎません?
なに?そのロッククライミングのくだり?
増村保造『妻は告白する』(1961年)かよ。いや、あの若尾文子はあんな体力勝負なことはしていなかったな。
なに?その海岸の砂浜のくだり?『砂の女』(64年)かよ。いや、岸田今日子はそんな無意味なことしてないけど。
いずれにせよ、そんなことする必然性がどこにある?

松本清張『張込み』(58年)のように始まって、「江戸川乱歩の美女シリーズ」(天知茂が明智小五郎のやつね)みたいな展開は、男と女の必然というか、運命に翻弄される男女ということで容認できるんです。
なぜなら私は「天知茂の美女シリーズ」が大好きだから。
もっとも、江戸川乱歩好きでもあるので余計なことを書きますが、あんな美女犯人との色恋話の原作は無いけどね。あれは全部、『黒蜥蜴』を戯曲用に脚色した三島由紀夫のせい。

いや、天知茂の「土曜ワイド劇場」はさておいて、
この映画、刑事容疑者が恋に落ちる「必然性」の土台となる事件に「必然性」がない。無理矢理で嘘くさ過ぎて土台が脆弱なんです。
観ていて「どうなるんだろう?」じゃなくて「どうでもいいや」って思い始めちゃう。

「刑事は事件が解決するまで写真を貼っている」という伏線があるわけだから、女はひっそり消えるんじゃなくて「殺人事件を装って自殺する」=「男は女を一生追い続ける(忘れない)」っていう方が面白かったと思うんです。その方が、登場人物の感情として自然じゃないかな?

私はパク・チャヌクの「ケレン味」が好きで「復讐三部作」以降追ってきたわけですが、最近やり過ぎな気がしています。
つまり、作り手が面白いと思うことが優先されすぎて、登場人物の感情が不自然に思える。
前作『お嬢さん』でも思ったんです。描きたい何かのために、背景や状況設定が無理矢理すぎる。
以前はそれが「ケレン味」として面白かったのですが、ここ数作は話も見せ方も凝り過ぎてゴチャゴチャしていて、観ていて気持ちが乗らない。気持ちが乗らないから「どうでもいいや」って思っちゃう。難しいから何度でも観たい?違うんだよ。気持ちが乗らないから頭に入ってこないだけ。

こんな状態が続くならパク・チャヌクと『別れる決心』をするべきなのかと思い始めています。
でも、ハッとするような巧いシーンもあって嫌いにはなれないんだよなぁ。
それが『別れぬ理由』(<それは渡辺淳一)。

余談

さんざんヒッチコック新解釈を語っておいて、半月も気付いていなかった。
この映画は『めまい』(1958年)の新解釈じゃないか?

(2023.02.19 TOHOシネマズ日本橋にて鑑賞 ★★☆☆☆)

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