映画『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』 やっぱりドイツ映画(ネタバレ感想文 )
フランソワ・オゾンがリメイクしたことで、オリジナル版の特別上映企画があったので映画館に足を運びました。
いきなり話が脱線しますが、「にがい涙」と言えばスリー・ディグリーズですよ。安井かずみ作詞、筒美京平作曲。
このアメリカ人歌手の日本企画曲は、この前に松本隆作詞、細野晴臣作曲の「ミッドナイト・トレイン」という曲があるんですが、その話をすると長くなるのでやめましょう。
ここで言いたいのは、私はスリー・ディグリーズのオリジナルを知らずに、先に東京スカパラダイスオーケストラのカヴァーを聴いちゃったんです。
不思議なもんで、その人にとって先に見聞きした方が「オリジナル」になっちゃうんですよね。
オリジナルを先に知ってる場合に「カヴァーの方がいいね」って例は稀ですけど、カヴァーを先に知っちゃうとそれが自分の「オリジナル」になってしまう。
この映画もそうです。
私にとってオゾン版『苦い涙』(2022年)が「オリジナル」。
もう少し言っちゃうと、オゾン版を観てなかったら、本作は全然理解できなかったかもしれない。
ファスビンダー自身の戯曲の映画化だってことは知ってましたが、本当にずっと舞台演出なんですよ。
なんかねえ、ずーっとベッドの上にいるの(笑)。そして服が変(笑笑)
ドイツ映画を観るといつも思うんですが、人物の感情の流れが分からないというか、不可解に感じるんです。
戯曲ベースのせいでもないし、ファスビンダー初体験のせいでもないと思うんですよね。
ヴィム・ヴェンダースもそうですし、なんなら日本で大ヒットした『バグダッド・カフェ』(1987年)ですら、登場人物の感情の流れがイマイチしっくりこない。ドイツ人の感情は『カリガリ博士』(1920年)の昔から分からん。
ドイツ映画で魂が揺さぶられたのはレニ・リーフェンシュタール『意志の勝利』(34年)くらいしかない(笑)。ナチスドイツの党大会の記録映画なんだけど、マジでヤバい映画なの。
編集の鏡というか教科書というか、「プロパガンダってこうやって編集するんだ」ってすごく勉強になった。もうね、俺もドイツ労働者党に入党しそうになったもん。
最終的にこの映画は何を描きたかったのだろう?
マレーネたちに捧ぐ的なことも含めて。
ただ、男に置き換えたオゾン版と比べて、「女だけの世界」の本作の方が、何かSFチックな感じもするんです。
それはさておき、この映画でペトラ・フォン・カントを惑わせる若い女を演じたハンナ・シグラ。
私は気付かなかったのですが、ヨメが気付きました。
オゾン版にも出てたんですよ。
だから何だって話ですけどね。時の流れとはそうしたもの。
(2023.06.24 新宿武蔵野館にて鑑賞 ★★★☆☆)