映画『おとうと』 渡る世間は鬼ばかり…でもないのか?(ネタバレ感想文)
たぶんデジタル修復版で鑑賞。
30数年ぶりに観たんですが、こんなに面白かったんだと再発見しました。
私は市川崑ファンです。多作過ぎて、半分くらいしか監督作を追えていませんけど。
市川崑作品は、どうしてもその斬新・新鮮な演出に目が行ってしまいがちなんですよ。
この映画だと「銀残し」という手法ですよね。
それが何なのかは面倒臭いんで説明しませんが、画面が独特の風合いの色味なんです。
デジタル修復版で観たら、綺麗で上品な色合いだったな。
ただ、以前はそうした斬新な演出や技法に目が奪われ、本当の良さが見えていなかったんだと思います。
有り体に言えば、若い頃に観た時は物足りない印象でした。
いやあ、面白かった。
まず幸田文の原作。それも意識してなかった。戦後に書かれた戦前の話なのかな。自伝的な内容だそうで。
そういや「幸田文はもっと評価されるべき」という台詞をどこかで聞いたな。ヴェンダース『PERFECT DAYS』(2023年)だったかな?
そして水木洋子の脚本。
日本の女性脚本家の先駆けだと思うんですが、成瀬や今井正が好んで登用した理由がよく分かります。男には描けない女性の視点。それは必ずしも主人公の岸恵子だけでなく、継母の田中絹代の描き方とかにも現れてると思うんです。まるで橋田壽賀子。いや、もしかすると、橋田壽賀子も水木洋子の影響を受けてるんじゃないかな?
そして、先に言っちゃったけど、田中絹代。
『サンダカン八番娼館 望郷』(1974年)を最近観たせいもあるんですが、昔観た時は晩年の田中絹代をそれほど意識していなかった気がします。
日本を代表する大女優が、こんな嫌な役も演じたんだ。軽く衝撃です。
あと、やっぱり宮川一夫カメラ。
画面の隅々までビシッと決まった構図とか、観ててワクワクする。
私は観ていないのですが、山田洋次の『おとうと』(2010年)は本作へのオマージュなんだそうですね。手首リボンとかやってるらしいですね。
げんと碧郎、吟子と鉄郎ですし。
ちなみに、市川崑『かあちゃん』(01年)と山田洋次『かあべえ』(07年)は無関係です。
それで思い出したんですが、この映画でアイロンをかけるシーンがあるんですよ。炭で熱するアイロンで、霧吹きも口で吹くんです。
私にはアイロンが印象に残っている映画がもう一つあって、それが山田洋次の『小さいおうち』(13年)なんです。
戦時中の設定だったと思うんですけど、たしか水を口に含んで霧吹きにしたり、電気製品となったアイロンの電源を天井からぶら下がっている電球を外してそのソケットからとるんです。
私は勝手に、ここでも山田洋次がオマージュを捧げてるんじゃないかと思ってるんですけどね。
日本2大アイロン映画。アイロン映画?
こうした当時の家庭の些細な描写って、リアルに知らないと描けないと思うんです。改めて観て、そうしたリアリティも面白かったんですよね。
でも、この弟、ちょっとヤンチャすぎるな。
しょうがないか、後の川口探検隊だからな。
(2024.11.17 神保町シアターにて鑑賞 ★★★★☆)