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映画『エフィ・ブリースト』 人生は手に負えない(ネタバレ感想文)

監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/
1974年 西ドイツ(日本公開2024年8月30日公開)

我が家のファスビンダー祭り、というかハンナ・シグラ祭りも、本作でしばしお休み。
本作もまた、他のハンナ・シグラ出演作同様「女の生きざま映画」ですが、正直、面白いんだか面白くないんだか、「手に負えない」映画です。

最初に情報を少し。
テオドール・フォンターネという人が書いた原作小説は、19世紀末のドイツ文学を代表する作品の一つで、「社会の抑圧」と「個人の自由」の葛藤を描いた物語として知られているそうです。
ファスビンダーが映画化したのは1974年ですが、日本では今回が初公開だとか。

20歳も年上のインシュテッテン男爵に見初められて結婚した、自由奔放な貴族の娘エフィ。堅物で出世欲の強いインシュテッテンはエフィを躾けようとする上、彼女を残し留守にしてばかり。田舎町の生活に馴染むことができないエフィは、常識にとらわれない夫の友人クランパス少佐と浮気をしてしまう。数年後、妻と友人の裏切りを知ったインシュテッテンは、クランパスに決闘を申し込むのだが……。19世紀後半の家父長制度のなかで、社会や美徳について問い、悩み、そして自らの道にも違和感を抱き続けながら生きたひとりの女性の姿を、デジタルリマスターされた繊細で美しいモノクロ映像で描く。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選2024公式サイトから

映画も「社会の抑圧」と「個人の自由」の葛藤を描いているんですが(実際、映画冒頭でその主旨をテロップで見せる)、不思議な作りの映画です。

だいたいシーン毎に、上述したように文字でその主旨めいたことが表示され、ナレーションでそのシチュエーションを説明して、そのシーンの一場面を実写で見せる・・・みたいな。うまく説明できませんけど。
何ていうのかな、映像でドラマを構築する気が無いというか(笑)。
その結果、なんだか神の視点から物語を俯瞰するような作りなんです。

この手法が功を奏しているのかどうか怪しいんですが、当然意図的で、画面の作りなんかもの凄く計算づくです。

例えば「鏡」。
この映画は、窓の反射も含めて「鏡」を多用します。
おそらく、「個人の自由=本当の自分」と「社会の抑圧に合わせて生きる仮の自分」という二面性の象徴が、「鏡に写る姿」なのでしょう。

印象に残っているシーンがあります。
画面左側にハンナ・シグラと不倫相手(?)が歩いてきて、画面右側で乳母がゆりかごで我が子(赤ん坊)をあやしているシーンです。
この風景をカメラは室内から窓越しで撮影していて、画面中央に窓枠があるんです。つまり、窓枠が画面を左右に分割している状態です。
画面左(恋人(?)がいる側)が「本当の自分」、画面右(ゆりかごに我が子がいる側)が「仮の自分」という分割になっていて、ハンナ・シグラはそこを行き来するんです。

そういった手法の面では面白い作りではあったのですが、「神の視点」のせいなのか、「社会の抑圧」を受け入れてしまっているように見えるせいなのか、ドイツ映画特有の「感情の流れがよくワカラン」せいなのか、どうもね、何も響かない。
何かもっと激情的な女性というか、そういう熱量みたいなものが観たかったんです。
まあ正直、『ボヴァリー夫人』的なことを期待しちゃったんです。
まあ、私が好きな『ボヴァリー夫人』は、数多く映画化されている中で一番無視されている1989年のアレクサンドル・ソクーロフ版なんですけどね。いやまあ、それしか観てないんですけど。ソクーロフ版面白かったのよ。

理想と異なる結婚生活を強いられる19世紀の人妻という同じ設定ですが、もしかするとドイツ文学とフランス文学(ドイツの女性とフランスの女性)の違いが大きく出ているのかもしれませんね。
その辺の外国文学は弱いので、勉強しないといけないな。

(2024.09.07 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて鑑賞 ★★★☆☆)

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