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映画『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』 (ネタバレ感想文 )真の愉しみとは

ブニュエル翁、最後から3番目の監督作。
ここから、『自由の幻想』 (74年)、『欲望のあいまいな対象』(77年)と、「おふざけ3部作(<勝手に命名)」が始まります。
いや、大変哲学的なんですよ。ウププ。

超現実的展開と毒の効いた諷刺がユーモラスで軽やかな語り口と結びついた新境地!

特集上映の公式サイトより

70歳を過ぎてからの新境地!
確かにこの3部作は、ブニュエル翁の集大成でありながら、新たな展開をみせたように思えます。

とにかく「食べられない!」

約20年ぶりの再鑑賞になりますが、最初に観た30数年前、当時大学生(18,9歳)の私には、何が起こっているのかチンプンカンプンだった覚えがあります。
私が最初に観たブニュエル作品は『アンダルシアの犬』(29年)と『小間使の日記』(64年)で、その次に観たのが、おそらくこの映画。
ブニュエルがどんな人かも知らなければ、映画の見方自体もまだ分かっていなかった。田舎から東京に出てきたばかりの初心うぶな未成年には、ハードルが高い映画でした。

ブニュエル作品は「教訓のない寓話」だと今では思っていますが、当時初心な頃は、まさかそんなものが存在するとは思いもしなかった。それがチンプンカンプンの原因。
これ、日本の教育が悪いと思うんだ。
国語学者・石原千秋は「日本の国語はまるで道徳の授業だ」と言っていますが、昔話でも何でも、必ず「教訓」があると教え込まれている。新しい学習指導要領では高校の国語から小説が消えたそうですが、物語を読み解く力は養おうよ。不要なのは変な価値観を植え付ける「教訓」。むしろ物語を正しく読み解く力がないと、変な「思い込み」が先行しちゃうぜ。
おっと、話が横道に逸れました。

ま、とにかくこの映画、「食事ができない」という話です。

愉しみ=欲が露にする本性

金持ちも夜中にこっそり冷蔵庫開けてつまみ食いしちゃうんだよね
=ブルジョアジーの密かな愉しみ
というのが若い頃の私の解釈でした。なんと幼稚な。

大人になった今なら分かります。密かな愉しみは「食欲と性欲」。
つまり、夜中のつまみ食いと、裏庭での情事は同じことなのです。
欲が満たされないことで(欲を渇望することで)あらわになる本性。

ただし、これは「表」の解釈。
ブニュエル翁には裏テーマがある。

6人のブルジョアが主人公と言われますが、よく見ると、駐仏大使=フェルナンド・レイ(また!)を中心に展開されています。
そう、彼は、フランス人の顔をしてブルジョアの一角に収まっていますが、中南米にある(らしい)ミランダ共和国(とかいう国)の人なんですよ。
おフランス野郎からしたら「外様」。
実際、「貴方のお国ではチョメチョメらしいですな」と的外れな(時に侮蔑的な)ことをしばしば言う。
もしかするとブルジョア仲間だって、密輸の恩恵があるから付き合っているのであって、腹の中ではどう思っているかは分からない。
実際、「ミランダに招待しますよ」と言っても、誰もいい顔をしない。
「外交官」という肩書に付き合っているのであって、もしかすると人として見下しているかもしれない。
実際、司祭に対してもその「服装」で敬意を払うのであって、庭師の格好で「司祭(自称)」と言っても放り出す。

ブルジョアジー(お高くとまったおフランス野郎)の密かな愉しみ
=他人を蔑むこと

これが私の思う、この映画の(裏)テーマです。
実際、ブニュエルもスペイン人ですしね(メキシコに帰化してるけど)。

ただ、あの一本道を歩く6人は、初心うぶじゃなくなった今観ても意味が分からないんだよなあ。

(2022.01.23 角川シネマ有楽町にて鑑賞 ★★★★☆)

監督:ルイス・ブニュエル/1972年 仏


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