ピープルフライドストーリー (29) エッセイ⑥

      第29回
(エッセイ)

     人類の進歩

           by  三毛乱

 台所の床に、数年間いろんな物が置かれていた。整理すると、賞味期限が4年過ぎたレトルトパックのカレーが出てきた。さあ、これをどうするか?普通の人なら、すぐに捨てておしまいだろう。だが僕は、これを食べてみようと思った。食費をなるべく押さえようとして考えたのではない。…まあ、10%くらいはそう考えてもいたけれど…、90%は人類進歩のためを思っての事だった。ん? と思う人がいるだろうから説明したい。
 人類が他の惑星への移住計画かなにかでの宇宙船の中に、賞味期限が数年過ぎたレトルトカレーを乗組員がふと見つけた時、崇高な使命達成への生命維持のために食すか食しないか問題になるだろうが、その問題解決の一助になるのではと思ったのである。宇宙船の中にそんな場面はあり得ないと言う人はもう読んで貰わなくて結構である。そういう場面もあるかもしれないなぁ~、と考えくれる人だけに読んでもらいたい。で、そんな人の中から将来の宇宙船乗組員になる人が現れて、船内でそういう場面に出くわした時、かつて賞味期限4年過ぎたカレー食べた人がいたんだったなぁ~、と思ってくれるだけでも望外の喜びであるのだが、できれば問題解決の糸口の何%かにならんが為の実食なのである。
 で、僕はそうめん一食分を茹でて水を切ったものに、グツグツのレトルトカレーの中身を注ぐ事にした。なるべく味が分かるようにしたかったからだ。
 味はと言うと……、貧乏体験をした芸能人などが、テレビで、段ボールとかトイレットペーパーを食べた事があると言ったりしてるのを聞いた事があるが、…なんかそんな感じ、……なんか紙のような味がする。それも薄くてのっぺりした…いやもっと茫漠とした状態になってるような紙の味が……。その上、食物を何度も何度も砂漠の灼熱で焼き尽くしたような味が加わっている。全体として味が死んだような…、味が死んでゆくような味…と言った方が正確かもしれない。あと少しの一歩で吐き出してたかもしれない。ゲロ…を食べた事はないが、まあ上品なゲロというか…、すこぶる上品なゲロ、…とり澄ましたゲロ…という感じ。下町のゲロではなく、高級住宅街のゲロという感じである。そして汗が出て来た。ぐわっ、ヤ、ヤバイ事態か…と一瞬考えたが、甘辛や中辛でなく大辛のカレーと表示されていたのを思い出して、これは自然な生理的現象なのだと納得がいったのだった。…でも、自分で食べたからといって、人にオススメできる物ではないのも分かった…。…まあ、これで宇宙船乗組員の賞味期限物の問題解決になるかどうなのか…ややあやふやな気持になっても来たが……将来の宇宙船乗組員達よ、健闘を祈る!!

 …ところで、台所をもっとよく整理したら、もう一つ期限切れのレトルトカレーが出て来た。6年も過ぎていた。これは即、食べないと決めた! 見た瞬間に決めた。こういう時は速いのである。即決。宇宙船乗組員がどうなろうと関係ないのである。宇宙船乗組員の生命維持がどうなろうとも、その前に我が身の大事なのである。宇宙船乗組員達よ、済まぬ……。そしてレトルト食品でも何かの細菌が発生するかも…らしいので、やはり食べ物は早めに食べる方がいいですよと穏当な事をしか言えないのかと残念である。

 それにしても、世の中には賞味期限食品が大量に無駄に処理されている。それらの有効活用として一つ提案したい。犯罪者として裁判で確定した人には、賞味期限食品を食べてもらうのはどうだろうか? 自ら死刑を望んでいるから人殺しをしたなどと言い張る人間には、特にそれぐらいの区別・差別をつけてもいいんじゃないの?いっそ、それを掲げて選挙に出てみるのもいいかも……。人類が進歩してきたとしても、ガーシーが議員になるくらいの進歩・進化した国なのだから、僕だって選挙で勝てるかもしれないではないか。……と今はまだ空想して愉しんでいる途中というところで、今回のエッセイは終了したい。

              
              終

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