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シンガーはコーライトでもっと意見を言ったほうがいい

こんにちは、作曲家のペンギンスです。

コーライティングをしているとき、楽曲にどのように歌をいれるかにはおおまかに2つの方法がある。ギャラを払って「仮歌さん」に外注する方法と、シンガーがこーライトチームにいて、その人が歌うパターンだ。どちらが良い・悪いというものはない。確実にギャラが貰える仮歌仕事で生計を立てている人だっているし、アーティストとして存在しているから、コーライトインしか受けない、という人も知っている。人それぞれ、案件それぞれだ。

シンガーがコーライトチームにいる場合にも実は大まかに2パターンあって、「トップライナーが歌も歌えます」というパターンと「本当に歌うためだけにそのチームにシンガーがインしています」というパターンがある。このnoteでは後者について特に書きたい。

前者の場合、自分で作ったトップライン(メロディー、歌詞)を自分で歌うということになるので、そのメリットは「メロディーや歌詞の意図を、創作した本人がしっかり理解して歌うことができる」という点にある。いっぽう後者では、自分が直接に生み出したトップラインではないという言い方もできる。だがこの場合にこそ、コーライティング・マインドが重要だ。

僕自身がトップライナーであり、そして歌う才能には残念ながら恵まれなかった(と本当に思う)立場からすると、後者のケース、すなわち「歌うためだけにシンガーがコーライトにインしてクレジットに並ぶ」という状況では、シンガーにはもっとトップラインの出来に対して意見を言って欲しい、という希望がある。なぜかというと、上記の話の逆になるが、「創作した本人は自分のメロディーや歌詞が客観的にみて良いのか悪いのかを冷静に判断することは難しい」からだ。

周囲のコーライトを見ていると、シンガーが仮歌さんではなくコーライトにインしている人であるケースも多い。その仕上がった音源を聴きながら、自戒も込めてだが、「これ、本当に歌いながら疑問はなかったんだろうか?」というケースもままある。「このメロディーを歌いながら、キーが高いとは思わなかったのか?」「このサビを歌いながら、全然覚えられない=キャッチーじゃないとは感じなかったのか?」といったケースだ。

そういった場合、シンガーにはもっとコーライトしている楽曲に対して意見を言って欲しいと思う。なぜならコーライトだからだ。co-writeという言葉の通り、さまざまな役割分担は当然あるものの、それを超えて「この曲を書く(write)」という目的の元に集まったひとときの集団ではないか。だとすれば、明らかに「ちょっとな」という状況に直面したときに、声をあげないのは良くないことだと思う。それはコーライトメンバーとしての責任を十全に果たしているとは言い難いのではないだろうか。

もちろん、〆切に追われながら曲を作り続ける職業作曲家の場合、歌入れは往々にして〆切直前になることは理解している。〆切直前になって「さぁ、やっと歌入れだ。よろしく!」となってマイクに向き合ったとき「よし、一気に片付けてやろう」みたいな気持ちになることはとてもよく理解できるし、そこで「どんなメロディーや歌詞でも、自分のボーカルの力で魅力的に届けてやろう」というのもまたプロ精神であることも理解している。その上で、やはりコーライティングなのだから、なんらかのクリエイティビティが、ときにトップラインの変更におよぶことだって絶対あると思うのだ。

ひとつヒントになりそうな観点を話すと、男女問わずシンガーがインしているときに、優れたシンガーほど「限られた時間の中で最低限のトップライン修正をしながらサラッと歌い終えてしまう」のが上手い。全然違う!と言ってディスカッションを始める余裕はないにせよ、曲の中の勘所のようなものをおさえて「ここだけどうしても歌の都合でこうしたい」という話をしつつ、数カ所のトップラインの変更で印象をガラッと好転させてくれる人はだいたい優れたシンガーだ(そして、すなわち優れたソングライター、コーライターだ)。

僕自身そういった優れたシンガーの力、判断に何度も助けられてきた。歌を職業としていない僕のようなノンシンガー・ソングライターには、どんなメロディーが歌いやすいのか、どんなメロディーが歌っていて「気分がいいのか」という点はなかなか経験値がつかない。そこを提案してくれるシンガーほど心強い存在はいない。こまかなミックスの話などでコミュニケーションが多くなりがちなディレクションとトラックメーカーだけでなく、実はシンガーにこそ、コーライトではどんどん意見を言ってほしいなと思う。


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