![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/169179964/rectangle_large_type_2_1faf434f53253daf5fa4fcd935d7e3c2.jpeg?width=1200)
関西将棋会館・新春トップ棋士対局観戦レポ
イベント直前でのアクシデント
2024年の年末が押し迫る中、私は一瞬の油断で派手に転んでしまった。診断の結果、足を骨折しており全治には2ヶ月ほどかかるという。
その週末にはSUNTORY将棋オールスター東西対抗戦、翌々週には高槻市での女流棋士50周年パーティーと心華やぐイベントへの参加を楽しみにしていたので、キャンセルという思わぬ事態に痛恨の極みだった。
何より、関西将棋会館のクラウドファンディングイベント「新春トップ棋士対局観戦」をどうするか。新しく建設された関西将棋会館で新年を迎える、特別な意味を持つイベントだ。それだけはどうしても諦めがつかなかった。
何とかできないものか。そこで私は車椅子利用等のバリアフリー対応について、将棋連盟の事務局へと相談させて頂いた。担当医師にも長距離移動についてのアドバイスを受け、私は松葉杖で参加することを決意した。
杖で畳を傷めるので対局室へは入室できなくても、対局開始前のご挨拶や見送りをしてくださる際に先生方にお目にかかれる。新年を先生方や熱烈なファンの皆様と一緒に迎えられる、またとない機会だ。
もちろん様々な不安はあったが、行かない後悔だけはしたくなかった。
新春らしさ満点のいでたち
2025年1月5日。大阪府高槻市には綺麗な冬の青空が広がっていた。普段なら改札口を出て徒歩数分の距離も、松葉杖だととてつもなく遠い。日頃からデスクワークの運動不足がたたり、全身の筋肉痛に耐えつつ息をきらせてたどり着いた新・関西将棋会館は2024年12月3日のオープンから1ヶ月とあり、隅々までピカピカだった。
松葉杖姿の私を見て、事前に相談させて頂いた職員のかたが出迎えてエレベーターへと誘導してくださった。この日100名もいた参加者一人一人に目配りするのは大変な作業にも関わらず、行き届いたお気遣いを頂いた事に感激してしまった。
受付を済ませ、これから始まる高揚感もあってなかなか整わない息と格闘しつつ、イベント開始を待った。
観客席からわぁ、という何とも言えない歓声が上がり、先生方が登壇された。4名全員が和服をお召しになっている。和服だったらいいな、とは思っていたものの、まさかの光景に夢を見ているようだ。
菅井竜也八段と船江恒平七段は兄弟弟子らしく同系色の濃色で、凛々しく引き締まってさらに男前が一段と上がる。
豊島将之九段は対照的に蕾がほころび始める息吹を感じさせる淡い色合いが新春に相応しく、指の先まで何ともお美しい。
木村朱里女流初段は弱冠16歳の若さのきらめきが艶やかな朱色の着物に映えて、とても素敵だ。
どんなに時代が変わっても、この将棋棋士の美しい和服姿は将棋の伝統として受け継がれてほしい。
![](https://assets.st-note.com/img/1736561217-q1PzbUn90DiNhkCwLgycxlX3.jpg?width=1200)
想定外の体験(対局観戦)
5階建ての関西将棋会館は1階が道場と売店、2階が多目的ホール(今回の大盤解説会場)、3階は事務所、4階と5階が対局室となっている。
5階に一部屋しかない特別対局室はタイトル戦やA級順位戦等、重要対局のみに利用されるそうである。棋士であってもなかなか入室の機会がなく、そこで対局する事が目標になる、と船江七段が話してくださった。
一般客は普段は3階以上に立ち入る事が出来ないが、今回のイベント参加者は特別に4階の和室の対局室で観戦ができる。
私は事務局への事前の相談で、和室に続く板張りの廊下までなら松葉杖での立ち入りを許可して頂いていたが、実際に静寂の中でゴトンゴトンと杖の音を響かせる恥ずかしさに堪えられるとはとても思えなかった。だからと言って四つん這いで真剣勝負真っ只中の先生方の御前に侍うのも見苦しいので、対局室への入室は遠慮しようと決めていた。
4階へと上がり、対局室入口の雰囲気を感じられただけでも十分だと思っていたら、私の為に何とかして対局室が見られるように、中庭を挟んだ反対側の窓越しから眺める事を職員のかたが提案してくださった。
和室の対局室は中庭に面しており、襖を開けると反対側にある棋士の休憩場所の窓から対局中のお二人の様子が窺える。こんな風にわざわざ配慮してくださり、私の行く先々へと椅子を抱え、転倒しないように見守ってくださる職員の皆様のお優しさには、心からの感謝しかなかった。
![](https://assets.st-note.com/img/1736599442-BvpQkfxbGXnqzgImAFcslU1o.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1736599442-W5fZOEVDmkPSQ9il2CjG0Xso.jpg?width=1200)
ここから観戦したのは私が最初になるのかも⁈
笑いに包まれる大盤解説
対局室観戦の後は船江先生・木村先生の的確で楽しい大盤解説を存分に楽しんだ。
船江先生は両対局者とは長い付き合いという事もあり、お二人の対局姿勢を見ただけで予想手がピタリと当たる。
こういう時の豊島さんはすぐに指しますよ、(と言った瞬間に豊島先生がすぐ指されたので会場では拍手喝采)とか、菅井さんならここで気合いの入った手つきでバチーンと指しますね、(と言った瞬間に音声が聞こえているかのように菅井先生がバチッと着手して皆さん大笑い)といった具合だ。
木村先生も、頭の回転の速さが言葉の端々から感じられ、予想手の提案も的を得ているし、船江先生の言葉を拾ってしっかりとツッコミ返す面白さもちゃんとあり、夫婦漫才の掛け合いのように息ぴったりで、とても初の聞き手とは思えなかった。
棋士の先生方は話し上手なかたがとても多いが、押し引きの絶妙なバランスの良さや機転が利く受け答えには、きっと先生方の賢さが活かされるからだろう。
![](https://assets.st-note.com/img/1736601938-mR5saVTv7IMblC4rnXHE0QxJ.jpg?width=1200)
対局者を交えた感想戦
先手豊島先生が居飛車、後手菅井先生が振り飛車の対抗形で相穴熊の熱戦となり、中盤で千日手模様となるも豊島先生が「勇者の打開」に踏み切ったあたりから徐々に形勢が傾き、最後はグイッとギアを上げて攻撃に転じた豊島先生に軍配が上がった。
とはいえ途中は菅井先生が押し込む局面もあり、双方の先生方らしさが発揮されたA級棋士同士の素晴らしい対局内容に、改めて将棋の面白さを感じることができた。
両対局者が大盤解説会場へと戻って、解説の先生方を交えての和やかな感想戦の後は、菅井先生のご提案でトークコーナーの15分アディショナルタイムが設けられた。豊島先生は気を許している菅井先生と一緒だからか「だってさ〜」と一瞬、友達口調になり、思わず本音が漏れてしまった豊島先生の可愛らしさに会場がどっと沸いた。
Q:旧会館と新会館の違いは?
A:菅井「セキュリティだらけでカード忘れると対局室を出ただけで入れなくなる。豊島さんに開けてもらおうと思ったらニコニコこっち見てるのになかなか開けてくれない(仲良しのじゃれあい⁈)」
Q:JR高槻駅ホームのご自身の写真を見てどう思う?
A:豊島「恥ずかしいのでなるべく見ないように」
菅井「そんなのありましたか?」(気づかないはずがないサイズ感なのでさすがの全集中⁈)
![](https://assets.st-note.com/img/1736629289-VpawHT8LSxstvEzqR9y23ONY.jpg?width=1200)
打ち合わせと違ったことを可愛く主張する豊島先生
![](https://assets.st-note.com/img/1736627700-lRwNVXypJAY0jKcLBnGzogx5.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1736627700-4VhjZqz7IpDL1nXQ8oKBEtN2.jpg?width=1200)
頼れる兄弟子の船江先生と一緒で嬉しそうな菅井先生
![](https://assets.st-note.com/img/1736627700-CcrIPRYWy7Q8i2hdT1XHwzLg.jpg?width=1200)
強行軍を終えて
最後はこの対局の棋譜が参加者に配られ、ロビーに4名の先生方が並んでお見送りしてくださった。
にこやかな先生方に見送られ、晴れやかな気持ちで会館を後にした。私の上腕の筋肉痛は限界だったが、その痛みさえも忘れるほどにやり遂げた充実感があった。
今回の参加にあたり、たくさんの方々の手助けがなければ実現できなかった。またレポートも今回の目玉である対局室観戦は出来ていないので情報は乏しい。
ただ私がケガをしてしまってもイベントに参加できた事で、今後もし同じ状況になったとしても諦める一択では無いとお伝えしたかった。
列車で席を譲ってくださったかた、松葉杖で両手が塞がる私に自動改札で切符を取って渡してくださった駅員のかた、転ばないよう手助けしてくださったかた、駅までの道中を心配してくださるタクシー運転手のかた、ケガをしたからこそ世の中に親切が溢れていることに改めて気づく事ができ、新年早々清々しい感謝で心が洗われた。
お陰様で足を固定していたギプスも外れた。固いギプスを割るように文字通りブレイクスルーする気持ちで新年の1歩を元気良く踏み出し、将棋界を全力で応援していきたい。
![](https://assets.st-note.com/img/1736647491-Lv9MPmiXyzQ1EJjstCh0eGwr.jpg?width=1200)