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5月第2週放送(いつか憧れの)初段を目指す!スキがない将棋

※ヘッダー写真は毎日新聞のサイトから引用
https://mainichi.jp/articles/20230514/k00/00m/040/202000c

なんとかついてきてほしい(はい、喜んで!)

2023年5月14日。第81期名人戦七番勝負第3局2日目が高槻城公園芸術文化劇場で行われており、現地大盤解説会に参加していた私は宿泊先のホテルでNHKプラスから将棋講座を追っかけ視聴した。(まる2日間朝から晩まで将棋観戦漬けだったので、ブーストのかかった状態のほうが頭が働く事を期待して)

山口恵梨子先生が、5月から難しくなってませんか?と質問された通り、新衣装になり居飛車の解説が始まった5月第1週から一気に内容がギュッと凝縮されている。放送枠に収まらない将棋講座テキストでの解説も4月は1局分を一週あたり20〜30手ほどずつに分けてだったものが、5月は一気に3局(福崎文吾九段戦、西川和宏四段(当時)戦、佐藤康光九段戦)で、手数も倍以上に増えた。

わかるところだけつまんでいって、わからないところもわからないなりに見ていくことで感覚が良くなっていくので、と仰る豊島先生。棋譜並べと同じで豊島先生の一流の感覚を一気にシャワーのように浴びる事で我々も洗練されていくのが狙いなのだろう。
7月8月になればまた1局ずつに戻すので、ここを乗り切ればという気持ちで、なんとかついてきてほしい、とキラーフレーズを発動してニッコリされると、イヤとは言えない。

さすが、上達の戦略まで豊島先生にはスキがない。ハイペースを最初に持ってくることで、最後は楽になれるのだと思えば頑張りがきく。
私は趣味でヨガのレッスンを受けているが、好きな先生は優しさの中にも常に凛とした厳しさを兼ね備えている。
ひと息ごとにアーサナ(ポーズ)の質を高められるように、決して自分を甘やかさずに、とお声がけしてくださる。人それぞれレベルの違いはあれど、緩まずに自己ベストを目指していく心がけが大切なのはどの道にも共通するのだと感じた。

玉の守りは金銀3枚

将棋には400年以上も脈々と受け継がれてきた歴史から、たくさんの格言がある。将棋を全く知らない私でも、有名な「歩のない将棋は負け将棋」などは何となく見聞きして意味は知っていた。
この日はその一つ、「玉の守りは金銀3枚」の解説だった。すでに金銀2枚になっていて、1枚不足している。しかも玉頭にしっかりとバリアを張っている守備の要の銀が角に狙われている。
そこで、豊島先生は角にアタックするように持ち駒の金を惜しみなく打ち込んだ。私はいつも、格言なんて古い、持ち駒の金は頭金とか攻めに使いたいと攻めに前のめりなせいで守備が疎かになりがちだったので、目が覚める思いだった。実際、その金打ちで敵の角は9筋の玉から遠く離れた3筋に成る羽目になった。
そしてここでも、先週覚えた飛車の位置決めの考えかたのコツが役に立っていた。先に飛車を六段目に浮いてしまっていた場合、目標とされて角に狙われてしまう恐れがあった。飛車は自分が行きたい場所を安易に選ぶのではなく、その後相手からどんな攻めが飛んでくるかを予測しながら動かすようにしたい。

相手の大駒を働かせない

飛車は龍に成れれば無敵だが、成るまでは斜めからの攻めに弱く、また目標にもされやすく、狭い場所に逃げるとあっという間に敵に取り囲まれてしまう。
つまり、相手も早く龍に成りたいのは同じなので先回りして手を打っておけば、相手の思うようにさせず、実質的に戦力ダウンに追いやる事ができる。
この日は6筋からの転回を狙う敵の飛車に先着して☗6三歩を打っておくのがポイントとなった。
これは、4月初回放送でも繰り返し説明されていた、相手にとってやりにくい状態(敵の駒で大駒を抑え込まれている)となるので、大変価値のある一手だ。
相手の大駒が次に何を狙っているのか、その思惑を確実に消すのはどの手なのか。相手の戦略を推理するのも楽しい。

玉が端にいる場合は密集させて隙間を埋める

対抗形(居飛車VS振り飛車)ではプロ棋士の対局でも相穴熊での戦いとなるのを頻繁に目にする。中住まい(5筋の玉)ならバランスの良さが求められるが、玉が端にいる時は特に玉の周りを駒で埋めておく事が肝心だそうだ。
玉回りに魔方陣のようにびっしりと駒を埋めた局面は見た目も壮観だが、この組み合わせ次第で脆くも鉄壁にもなる。先生方の駒の配置は計算し尽くされているのに対し、私は適当に真似したせいであっという間に玉の逃げ場が無くなってしまった経験がある。何でもただ埋めておけば良いというわけではなく、勉強不足を痛感した。

これまでにも豊島先生の対局後インタビューや感想戦コメントを聞いていて、「ここに桂馬を打たれるのを防ぎたかったので…」と、桂馬のような飛び道具を使った相手の攻めに対して常に注意を払っておられるのだと感心した事が何度もある。相手の駒台に桂馬が載ってないうちからでも、渡したら危険、という視点で盤面を捉え、対策しているのだ。
一手で取り返しのつかない展開を迎える将棋の世界では当たり前の事かもしれないが、つくづく危険予測に対する豊島先生の鋭い観察眼には敬服してしまう。

詰将棋は背伸びせず自分に合ったものを

視聴者からのお悩み相談、小学校低学年の頃どんな勉強をしてましたかという質問に、詰将棋を毎日最低でも10問以上は解いて欲しいですね、と豊島先生。“最低でも”のキーワードに山口恵梨子先生が笑うと、自分はもっとやってました、とこともなげにサラッと仰られた。やはり将棋の基礎体力を鍛える筋トレに詰将棋は欠かせないのだ。
私は詰将棋が本当に苦手なのだが(ちなみに子どもの頃、ルービックキューブがあまりにも解けなくて、バラバラに外してやろうかと思ったくらいには根気のない性分だ)豊島先生が背伸びせずにサクサク解けて楽しいものをと仰るので、一手詰めからしっかりと取り組んで、「毎日必ず」続けようと思う。

イチゴのショートケーキ

放送終了後、豊島先生がツイートをしてくださった。番組は事前収録であっても、多忙な豊島先生がリアルタイムで補足説明をしてくださるのはとても嬉しく、もったいないほど有り難い。

ショートケーキの主役は甘いイチゴ。この局面では飛車の成りこみが一番やりたい事なので、それをイチゴに例えた豊島先生のワードセンスが素敵だ。楽しみな局面=ショートケーキで真っ先にイチゴ、ではなく、ちゃんと見渡してから着手。飛車がイチゴなら歩はケーキの美味しさに欠かせないふわふわのスポンジケーキかな?などと考えては楽しい気分になった。豊島先生にとって大好きなイチゴを美味しく召し上がるためにも最高のタイミングで、という意味かもしれない。

この日の名人戦第3局のおやつにも、高槻市のPatisserie Yushin(パティスリー遊心)のショートケーキが選ばれていた。豊島先生も名人戦をABEMA生中継や中継ブログでご覧になっておられただろう。
ショートケーキといえば真っ白な生クリームに映える真っ赤なイチゴが定番イメージだが、同じ名人戦で稲葉陽八段が思い違いでしょんぼりされたというエピソードは、ご本人には申し訳ないが何とも愛らしくてたまらない。

〜稲葉陽八段 LAWSONコラムより〜
タイトル戦のおやつは、楽しみにしていました。でもちょっと、辛かったエピソードがあって...2日目、形勢が苦しいときにデザートが出てきて、和服が汚れないようにハンカチを広げようとしたんです。そしたら和服の袖にケーキをつけてしまって。しかも私が確認不足だったのがいけないんですけど、ショートケーキの上に乗っているのがイチゴじゃなくて。ケーキを食べて「さあこれから頑張ろう!」と思った矢先だったのに、和服を汚してしまったことにショックを受けて、イチゴが乗っていなかったことにもショックを受けて、形勢も悪いし...けっこう辛かった思い出です(笑)。

https://www.shogi.or.jp/column/2021/09/lawson_inabaakira.html

棋戦によっては写真から選べるなど(棋王戦金沢対局では実物を使ったおやつ検分も)、タイトル戦の勝負おやつが注目されていることもあり手厚くなっているが、文字情報からだけではさすがの先生方も”読み”が入れられない。
そういう意味では、フルーツならはずさない、とフルーツ盛り合わせ定跡を早くに確立された豊島先生は、勝負おやつ選びにもスキがない。

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