SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2022前夜祭レポ
将棋ファン夢の饗宴
2022年12月24日。華やかな街でイブの夜を過ごそうとする人々で溢れかえった山手線に揺られ、この日を心待ちにして心の支えとしてきた将棋オールスター前夜祭会場の明治神宮フォレストテラスに到着した。
ファン投票選出と予選トーナメント勝者からなる出場メンバーはタイトルホルダー、A級棋士も含めまさに将棋界のキラ星のような顔ぶれだ。前夜祭100名のチケットは販売開始わずか1分で完売だったという。
おそらく指運で幸運にもチケットを手にできた私は、この貴重な空間で過ごせたことへの感謝の気持ちを込めて、レポートをお届けしたい。
1.開会の挨拶(主催者代表・将棋連盟・渋谷区長)
黒いタキシードに赤いスラックス、眼鏡も赤い縁でコーディネートされたお洒落な出で立ちのサントリー食品の和田執行役員が壇上で挨拶されると、お祭りの空気感が一気に高まった。いよいよパーティの始まりだ。
続いて佐藤康光会長。メリークリスマス!の挨拶で会場は大爆笑。今年もファン投票となった事をうけて、自分の順位が毎日気になって仕方ない棋士もいたようだとエピソードを披露してくださった。
渋谷区長は、明治神宮建立の歴史についてお話しくださり、100年前に鎮守の森となるようにと計画的に植樹された事、そして見事な森となった今、ここから新しく情報発信して欲しいという言葉は、奇しくも新将棋会館建設プロジェクトのキャッチコピー「将棋を次の100年へ」にリンクしている気がした。
2.対戦相手発表&棋士入場
ステージ横の大型モニターに第1局から順に対戦カードが映し出され、その順番で対局棋士が2人ずつペアで入場される。
格闘技イベントの入場のような演出に、対戦相手が発表されるたびに大きな歓声が上がった。
決められた座席のない立食形式は、ステージの先生方から最前列までは2、3メートルほどしか離れていないうえに、アクリル板などの遮るものが無い。
ステージ前に観客が詰めかけて熱心に見つめる光景は、大声は出せないものの、さながらオールスタンディングのライブのような盛り上がりだ。
第1局 東・羽生善治九段 西・山崎隆之八段
第2局 東・近藤誠也七段 西・糸谷哲郎八段
第3局 東・横山泰明七段 西・豊島将之九段
第4局 東・永瀬拓矢王座 西・藤井聡太竜王
第5局 東・佐藤康光九段 西・斎藤慎太郎八段
第6局 東・増田康宏六段 西・稲葉陽八段
3.出場棋士の意気込み・抱負
【羽生善治九段】
挨拶のトップバッターに相応しい羽生先生の格調高さには目が眩みそうだった。流暢な明るい声の挨拶で、昨年に引き続き参加出来ること、ファン投票選出のお礼と、前夜祭を含めた2日間を盛り上がるように頑張りたい、と仰った。レジェンド羽生先生は何をされてもパーフェクトだと感じた。
【山崎隆之八段】
登場されるだけで場を温かな笑いに包む愛されキャラ感が魅力の山崎先生。棋戦名を言い間違えないようにと思われたのか、壇上にかけられた看板を振り返ってカンニング⁈しようとするリアクションだけでも笑いが止まらない。自分はエキシビションを本気で狙いに行ったのにまさかの羽生先生だったので西軍の皆様には迷惑をかけるかも…勝てるとは言わないけど一手違いぐらいにと仰り、山崎節炸裂だった。
【近藤誠也七段】
予選を勝ち抜きオールスターに出られて本当に嬉しい。何を着て行こうかと迷うのも楽しかったと仰っていて、ファッションにこだわりのあるお洒落な近藤先生らしいなと感じた。明日の対局でどんな洋服を着てこられるのかがすごく楽しみになった。
【糸谷哲郎八段】
糸谷先生もお話し上手な先生で、真面目にかしこまりながら本日はこのようにたくさんのかたにお集まりいただき、とフォーマルな挨拶をされているのにあちこちでクスクスと笑いが漏れる。観客との絶妙の間合いの取り方がお上手なのだ。近藤先生の洋服の話を受けて、ファッションでは勝てなくても将棋はなんとか勝ちたいと力強い抱負を述べられた。
【横山泰明七段】
昨年の解説会でも感じたのだが、横山先生は訥々と面白い事を仰るのでツボにハマる。自分は今年厄年なのに、5連勝で大変な思いをして予選を勝ち上がり本当に運が良かったと喜んでいたら対局相手が豊島先生とわかり、がっかりしたと。ただ、ここで勝てれば気持ちよく新年を迎えられそうなので頑張りたい、と仰っていた。
【豊島将之九段】
自分は前2人(山崎先生と糸谷先生)のようには笑いが取れない。「関西人らしくないね」と言われることが多かったがそれはつまり面白くないという事に気づいたと。豊島先生のまさかの悩みが気の毒やら意外やらで大笑い。このお祭りだからこそのサービス精神旺盛な豊島先生のスピーチが聞けてとても嬉しかった。
【永瀬拓矢王座】
ファン投票で選出され感謝している事、そして自分は勘が冴えて見事藤井竜王との対局を引き当てたので明日は直感を信じて早指し棋戦を頑張りたいと仰った。藤井先生との対局が余程嬉しかったのか終始ニコニコの永瀬先生だった。
【藤井聡太竜王】
まるで相聞歌のように自分も永瀬王座と対局できて嬉しいと仰る藤井先生。もう相思相愛すぎてこちらはお腹いっぱいなので、ぜひ明日は勝負を超えて存分に戦ってください、と思い、微笑まずにはいられなかった。
【斎藤慎太郎八段】
今日はクリスマスイブ、明日はクリスマス。私は新婚です。クリスマスを犠牲にしてまで、いや犠牲にしては言い過ぎ、とセルフツッコミ(さすが関西人)がお上手な斎藤八段。お気の毒すぎて会場も大笑い。妻には勝ってと言われたので頑張る、と抱負を語ってくださった。
【増田康宏六段】
今日も永瀬王座と研究会で指してきた。アンカーを務めることになり責任重大だが特訓の成果を明日はしっかりと発揮して頑張りたい、と仰り、え、今日も研究会!と驚いてしまった。今日はクリスマスイブなのに、軍曹について行く増田先生がいっそう頼もしく感じた。
【稲葉陽八段】
昨年に続いて予選突破できて参加できることがとても嬉しい。増田さんには腕力では勝てそうにも無いけれど、将棋ではしっかりと力を見せたいと仰り、最後に稲葉先生が控えている西軍の安定感は抜群だと改めて感じた。
4.サプライズのツーショット撮影会
入場受付で番号札を渡されていて、何人入室したかの目安にするのかな、と思っていたら、MCの福山知沙さんから嬉しいサプライズが発表された。
先生お一人につき3名、ツーショット撮影ができるというのだ。そのための番号札だったらしい。先生方は11人おられるので×3で33人。100人の参加者のうち約1/3は当たる計算だ。先生方ご自身が自分の当選番号を3名読み上げる。私は祈るような気持ちで番号札を握りしめた。
増田先生が82番、と読み上げてくださった時は思わず嬉しくて飛び跳ねそうだった。都合のいい時にばかり神頼みをしている私なのに、神様は呆れることなく願いを叶えてくださるのだと本当にありがたかった。
増田先生はお隣に行くと想像以上にスラリと背が高く細マッチョで大変素敵だった。先生方に声がけするなの事前の案内を律儀に守った私は目に感謝を込めて増田先生に心からの黙礼をした。ほんの数十秒なのに、私にとっては尊敬する棋士の先生とツーショット写真を取ってもらうのはこれが初めてで、夢のような時間だった。
5.写真撮影タイム
ここからは制限解除、SNS投稿OKの撮影タイム。昨年はそれぞれの座席からの撮影だったそうだが、今回はびっくりするほど近いステージにおられる先生方を好きなように好きなだけ(どこかで聞いた言い回し)撮っていいのだという。
いざカメラのレンズを向けてみるとこれまで参加してきた大盤解説会などでは望遠でかろうじて捉えられるくらいだったのが、先生方が近すぎて目眩がする。
でも貴重な撮影時間は限られているので、私は夢中でシャッターを押し続けた。
芸能人の記者会見のように報道陣が殺到して写真を撮る気持ちがなんとなくわかった。皆さん最高のショットを切り取ろうと一生懸命だ。
途中、3回に分けて最前列を入れ替えてくださり、夢にまでみる憧れの推し先生が本当に手を伸ばせば届きそうなところにいらっしゃるのだ。
ここで感極まってしまうと写真を撮れなくなるので、私は報道カメラマンの心境で推し先生のオーラに対峙した。後から撮れた写真を見て、腰を抜かさなかった自分を褒めたいくらいに近かった。
推し先生を待受にしておられるかたには、きっとたまらないファンサービスだったことだろう。
6.明治神宮祈願祭と東西作戦会議のVTR放映
先生方が明日の対局に備えて退室され、ここからは料理やデザート、お酒なども楽しみながらの立食パーティとなった。1人分で小皿に取り分けられた肉・魚料理、デザートが用意され、ビュッフェ形式のようにわざわざ取り分ける必要がなく、気軽に食べやすく衛生面も安心だと感じた。
明治神宮祈願祭の様子は、先生方全員お揃いになった絵面が壮観だった。作戦会議室は、東軍がリラックスした中にも真剣さが垣間見えるのに対し、西軍は皆さんが笑っておられてとても楽しそうな雰囲気だった。山崎先生が冒頭の挨拶で仰った通り、エキシビションマッチが何局目にくるのかを一生懸命に推理されている映像がまた笑いを誘っていた。
7.佐藤会長&西尾理事の対局展望
最後は佐藤康光会長と西尾明七段による明日の対局展望のフリートークが行われた。この日何度か話題になった佐藤康光会長が九段として参加するエキシビションマッチの話題になり、山崎先生はあんな風に仰ってるけど、将棋になるとすごいかたですよね、という会長の言葉が印象に残った。
お祭り要素、ファンを笑顔にするサービスがたっぷりと盛り込まれた棋戦だが、将棋に関しては手加減なしの真剣勝負というところがまたグッとくる。
リラックスした笑顔も見せつつ、先生方が勝負師の表情に戻る時のギャップに観る将は心を奪われてしまうのだ。
幸せなクリスマス・イブを終えて
クリスマスイブという特別な日は、恋人や家族、自分が大切に想う人と過ごしたいと考える人は多いだろう。
子どもにとっては冬休みの始まりの日であり、サンタクロースにプレゼントをもらえる日でもあり、ずっと重ねてきた「幸せな日」という記憶はいい大人になった今でも胸を温めてくれる。
将棋ファンにとってクリスマスイブを大切な推し先生と過ごせた事は、この先ずっと幸せな思い出として心に刻まれるだろう。大切な日をファンと一緒に過ごしてくださった先生方、こんなに素敵な企画を実現し、ファンに夢のようなクリスマスプレゼントをくださった主催者様に、心の底から感謝したい。