見出し画像

5月第4週放送(いつか憧れの)初段を目指す!スキがない将棋

佐藤康光九段が駒を剥がしにお出ましに⁈

対抗形(居飛車VS振り飛車)も今週で最後となり、題材は2016年1月17日放送の第65回NHK杯3回戦から佐藤康光九段戦を取り上げた。

先週に引き続き、開始早々パーフェクトな一手を紹介して、その手順の解説という流れになった。
「一足先に穴熊を剥がしに来られているという感じですね」物腰柔らかく品のいい豊島先生が仰ると、来られている、が受動形のられる、ではなくて丁寧語のられる、にしか聞こえないところがおかしみだ。
動く棋譜は下記リンク先から見ることができる。

穴熊、守りの基本は”駒をみちみちに”

基本はあくまでも玉が端にいるので駒で隙間なく埋めることが大切になる。そして相手の攻撃を駒の数の優位でどんどん跳ね返すことは第3週の放送で学んだ通りだ。しっかりと受ける☗7九銀が今日のパーフェクトな一手。ただし実際の対局では先手の豊島先生が☗2一龍を作ったあと、康光先生に4一歩と止められてからの83手目、☗7九銀だった。

気になって調べたら最善手じゃなかったけど、これはやっぱり考えかたの基本なので、と笑いながら話す豊島先生。そもそも、先生のように難解な手順を間違いなく指し続けることは自分には不可能なので、指して損のない、地道でも筋の通った良い手を積み重ねていくことが級位者の勝利へ繋がる道かもしれない。

第8期叡王戦第4局で偶然の一致

この日は第8期叡王戦五番勝負第4局が行われており、挑戦者菅井竜也八段が振り飛車、藤井聡太叡王が居飛車ということもあって、対抗形の講座解説のキーワードが観戦しながら何度も頭をよぎった。

そして偶然にも、1回目の千日手差し直し局で振り飛車の菅井先生が84手目☖6七銀と、穴熊を守る7八の金を剥がしにお見えになった。先ほど将棋講座で学んだばかりの局面と部分的に一致する。果たして藤井先生はどうするのか。
今日の放送では銀で埋めた豊島先生も、これが基本的な応対だけれども最善手ではないと仰ったように、他の手はあるのか。

すると藤井先生、自らの穴熊の最後の金と引き換えに、入手した銀を守備駒として埋めるのではなく、相手陣地に打ち込む手順を選択された。その後、菅井玉の周りで銀がぐるぐると追いかけっこをする膠着状態となり、4回の同一局面を以ってこの日2回目の千日手が成立した。
藤井先生は局後のインタビューで、この指し直し局は負けを覚悟していたと話しておられ、銀を埋めているようでは勝機が無いと判断されたのかもしれない。

穴熊の天敵、と金攻め

豊島先生が穴熊の負けパターンを、と金や桂香で金銀を取られてしまう事です、と説明しておられたが、叡王戦決着局となった2回目の指し直し局で菅井先生は55手目に「相手にと金を作らせないため」の歩打ちではなく、「自らがと金を作るため」の歩打ちを選択した。その瞬間、菅井先生はいよいよ最終決戦に向かうのだと察した。
お互いがと金を作り、大駒を成り込み、斬り合い、最終盤の打ち上げ花火だ。結果、藤井先生が僅差ながら一足先に菅井玉へとたどり着いた。講座で学んだお陰で、対抗形のタイトル戦となった叡王戦をより深く味わって観戦することができた。

プロの中でもトップ中のトップの先生方は、こんなにも極限の緊張状態の中で、奈落の底を見ながらもギリギリの限界を攻めて戦っておられる。
足元どころか同じ次元にすら存在していない私だが、せめてぼんやりしている間にどんどんと金に好き放題にさせないよう目配りし、気を引き締めて指し回していきたい。

やはり天才!少年マサユキくん

この日も補足ツイートをしてくださった豊島先生。とよぴー先生のお悩み相談室で話題になった、豊島先生ご自身の「はじめてのしどうたいきょく」についてなのだが、いやはや。5歳の夏休み、先生にとって28年前の指導対局の局面をここまで正確に覚えているなんて。

銀と金が逆で恥ずかしかったとか。驚異の記憶力に平伏する思いだった。豊島先生にとって、大好きな将棋はとびきりの思い出だったことを加味しても、それでもやっぱり、天才であることには疑いの余地もない。
私が5歳の頃はいったい何をしていただろう。なんか先生が出てきて、褒めてくれてお菓子もらえて嬉しかったな、ぐらいのことしかおそらく覚えてはいないだろう。

良い所を褒めて伸ばす長沼先生も素敵なファインプレーだ

フラワーアレンジメントとの共通点

この日の叡王戦の終局は午後9時過ぎ。対局開始から12時間を超える激闘だった。タイトル戦観戦はただ観ているだけなのに緊張で無意識に歯を食いしばったり息を止めたりしているからか、グッタリと疲れてしまう。つくづく先生方の知力体力の超人ぶりには尊敬しかない。

昂った心を落ち着かせようと、買ってきた花を生けることにした。
オアシス(吸水スポンジで花の土台)に挿しながら、ああこれも穴熊囲いと一緒だな、と思っていた。隙間なくきっちりと埋めていくと仕上がりがどの角度から見ても美しい。何もかも将棋に関連付けしてしまう観る将の末期症状だ。
観る将でさえ、これなのだ。先生方にはどうか対局を終えられたら、酷使した脳を休めて束の間でもゆっくりと過ごして頂きたいと、心から思った。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集