「考えてもしょうがない」を、知った
マレーシアの住居を決めるため、物件をみせてもらっていた2011年夏。なにも分からないまま、エージェントの車であちこち回った。クアラルンプールは交通量も多く高速道路がめぐっている。運転が荒い車も多い。
運転は難しそうだなあと思っていたが、日本語もしゃべるマレーシア人の20代のエージェントは、なんのこともなくスイスイと車を走らせていた。
「地下の駐車場に止めますね」
狭い入り口をとおり、カーブをつけて地下に下がる。パーキングロットは薄暗く、前の車とのスペースが狭い。切り返しがきつい。
「私だったら、何度も入れなおすところだなあ」恐る恐るみながら思った。「ローカルの人は、慣れているんだなあ」と。
彼は、指定のロットのナンバーをみつけると、ハンドルを曲げ、たいしてスピードを落とさずにぐいっと後ろに下がった。
そのときだ。
グシャ!
眉をよせ、彼は急いで車をおりて確認しにいく。
「会社に連絡するので、先に行ってください」
意気消沈した顔だった。
ーー
マレーシアでの運転は恐ろしいなあと思っていたけど、もちろん必要に迫られ、私も運転をすることになる。
さて、2024年。先日のペナンで、だ。借りているコンドミニアムの駐車場を出ようとしたら、カードキーが見つからない。暗いから見えないのか。後ろに下がって確認しようとした。
ところが、日本ではそういうことはめったにないと思うけど、パーキングの出口は細いカーブの後の「下り坂」なのである。
駐車場をぐるぐる回ってのぼり、平らなパーキングロットに止めるのだが、降りるときは当然ぐるぐる下がる。その下がる【途中】に、カードをピッとする機械がついているのだ。
つまり、ブレーキを離したら、急いでアクセルを踏み、後ろに下がらないといけない。
どうして、カーブのあとすぐに、そして、坂の途中に…。
ーーー
カードキーが見つからなかった私は、後ろに車がないことを確認し、しかたなく、アクセルを踏みながら後ろに下がった。
軽く、軽く、
グシャー!
え??
車を降りると、右後ろの車両がつぶれていた。それがめりこんでいたのは、太い柱だ。
壁と全く同じ色で塗られた、オフホワイトの、、。
なぜ、同色??
か、かもふらーじゅ。。。?
ーーー
日本では車に傷をつけたことはほとんどなかったけど、マレーシアでは数回修理に出している。
気をつけなくてはいけないのだ。
そして、
どうして、下り坂の途中に機械をつけるのかとか、
なぜそこに柱があるのかとか。
なぜ、壁の色と一体化したオフホワイトの柱にしたのかとか、
誰も、なにか思わなかったのかとか。
そういう疑問も、マレーシアに長く住むとなくなってくる。
たんたんと、修理に出すのだ。
いま、あのエージェントの気持ちが分かる気がする。
カンガエテモ、ショウガナイ、のだ。