【第37回東京国際映画祭】『英国人の手紙』【感想】

お久しぶりです。

東京国際映画祭に入り浸っているし、映画もそこそこ観ているのに
何も残さないのは脳のためにも良からざるものだと思い、
感想を書き綴ってみようと思います。

今回は、コンペ部門から『英国人の手紙』をチョイス。
周囲の反応を見ていると、評判は芳しくない様子。
とはいえ、ぼくにはキラリと光るものを見出したので
この作品の横に立ちたいと思って筆を執った次第です。


映画のプロフィール

監督:セルジオ・グラシアーノ
出演:ジャン・ペドロ・ヴァス、ほか。
136分 ポルトガル語

ぼくなりのあらすじ

かつて、ポルトガルが植民地支配をしていたアンゴラ。
独立戦争や内戦を経て、平穏へと向かいつつあるアンゴラで年老いた白人男性が「英国人の手紙」を探している。
英国人の手紙は、何かしらの重要な価値を持ったものらしい。
父が残したその”置手紙”を勇壮な砂漠の風景のなかで、仲間と旅しながら探していく。

感想(ネタバレあり)

この作品は縦軸となる主人公の老小説家(考古学者)の手紙探しと
その手掛かり探しで出会った人々の過去をさかのぼることで進行していく。

出会う人たちは大きく分けて3グループに分けられる。
「黒人」と「ムラート」と「現地で生まれた白人」だ。

黒人はスタートから主人公に帯同している老人だ。
主人公と出会い、宝探しに協力するまでに何があったのかが語られる。
彼は、ポルトガル人の入植者の下で働いてきて、直接的な描写こそないが独立戦争に身を置くようになる人物。
読み書きができることにも大きな意味がある。
独立戦争を調べていると、アンゴラ民族解放戦線の前身組織が白人とムラート、読み書きができる黒人を無差別に虐殺した歴史もあったようだ。
読み書きができるということは白人に協力していた可能性があるとしてその対象に挙げられたのだろう。
登場人物の彼は独立運動に身を置いていくことになり、賢人として組織に迎えられた経緯がありそうだった。
しかし、彼を取り巻く環境は厳しいものだったのかもしれない。

続いてはムラート。
世界史の知識でヨーロッパ系の白人とアフリカ系の黒人の間に生まれた子をムラートと呼ぶと習ったがここでこの記憶に立ち返ることになるとは思わなかった。
一応、ムラートが差別用語になっていないかを確認したが今のところそういうことはなさそうだった。
彼は借金に追われ、金を作ろうとサイの角(ハンターである父親から引き継いだ)の密売に手を染めようとする。
そこで騙され、身ぐるみをはがされ、砂漠で路頭に迷ったところで戦争が再び起こりそうだということを知る。
徴兵を逃れるために原住民族の村にかくまってもらうことに決めるのだった。
おそらく、ハンターの父というのが白人なのではないかと考えられる。
また、ここでいう戦争は内戦のことだっただろうか。
彼は原住民の村になじんでいき、妻を2人娶り、隠遁生活を続ける。
黒人と白人、どちらのコミュニティからも距離を置く彼の行き場のなさだけではなく、ハンターの父や妻を過度に性的に描き、最終的には村から引きはがして街に移り住むところなど、原住民から結局何かを奪っていく白人的な思考を批判しているようにも感じられた。

そして、最後はアンゴラで生まれ育った白人の物語だ。
これは主人公もそのカテゴリーに含まれる。
だが、ここで彼のいとことそのほかに白人女性2人が登場する。
この白人女性のプロフィールを詳しく覚えきれていないのは悔やまれるところ。
いとこは共産主義の台頭を嫌い、アンゴラを離れたアンゴラ生まれアンゴラ育ちの白人。
主人公はそれでもアンゴラに残ったアンゴラ生まれアンゴラ育ち。
女性はどちらかがポルトガル人と言い切っていたはず。
ここへきて、白人のバラエティーも広がるのだ。
様々なレイヤーにいるポルトガルにルーツのある登場人物たち。
彼らは自分をアンゴラ人というけれど、葛藤もみられる。

ここまで来て、ポルトガルとかかわってきた様々な人たちの立場や歴史を描いてきた物語だということに気が付く。
そして、この物語の最終目的は手紙を手にすること。
アンゴラ人に寄り添って、成熟した考えを持つように見える主人公。
しかし、彼の父親もまたハンターだった。
ハンターではなく、アンゴラの歴史と向き合う選択肢をとった主人公ではあるものの、その彼もタバコやウイスキーといった報酬で歴史的な事物をもらい受ける。
これもまた植民地主義的なのではないかと強く思わされるのだった。

くしくも、この東京国際映画祭で『ダホメ』というベルリン映画祭で金熊賞を取った作品を観た。
植民地主義により奪われた美術品を取り戻すドキュメンタリーだ。

嫌われ役として現れるいとこの役どころは非常に印象が悪い一方で、
主人公は物腰柔らかで印象がいい。
しかし、そんな彼ですら、本当にアンゴラに寄り添っているといえるのだろうか。

この物語は南部のナミビアとの国境にあるナミブ砂漠を舞台に繰り広げられる。
一方で、政治の中心や戦争の中心となったのは北部の首都周辺。
南部は資源や経済的な都市もなく、忘れられた地として存在する。
アンゴラの北部は資源の豊富さから発展がみられる一方で、上記の理由から戦火や迫害を逃れ、原住民の生活がいまなお残る豊かな世界が広がっている言われているようだ。
そんな世界から少し離れた地からアンゴラを見つめるこの一本は非常に豊かで面白かった。
1つ1つのエピソードが冗長で少し退屈に感じる部分があるのもわかる。
しかし、アンゴラという国を少しでも知れた気がしてとても面白く感じたのだった。

この作品が観られるチャンスというのはかなり得難くなると考えられる。
どこかで観られたらその際はアンゴラによろしく言っておいてください。



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