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HOMRA in Las Vegas

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#八田

HOMRA in las Vegas 07

HOMRA in las Vegas 07

第7話「赤の邂逅」

著:鈴木鈴

 伏見猿比古は、窓際のソファにどかりと身を投げ出した。
 窓の外には、ラスベガスの夜景が広がっている。無数に瞬くカジノネオン、贅を尽くした最高級ホテル群のナイトショー、それらが織りなす綺羅星のごとききらめきは、まさしく百万ドルに値する眺望であった。
 が、その美景も、伏見の淀んだ目を癒やしてはくれなかった。
「お疲れ様です。伏見さん」
 目元をごしごしと揉んでい

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HOMRA in Las Vegas 08

HOMRA in Las Vegas 08

第8話「ラスベガス炎上」

著:鈴木鈴

 御槌はリクライニングチェアに身を横たえ、至極リラックスした精神状態にあった。
 薄汚れた白衣の上で両手を重ね、指で軽くリズムを取っている。古ぼけた蓄音機から流れるのは、ジョルジュ・ビゼー作曲『アルルの女』第2組曲第4曲『ファランドール』――あるいは、『王の行進』。
 軽妙なクラシックに身を委ねながら、御槌はそれをじっと眺めていた。
 アイカメラを通じて脳

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HOMRA in Las Vegas 09

HOMRA in Las Vegas 09

第9話「妄執」

著:鈴木鈴

 マリア・レイエスはベッドに腰かけ、じっとタンマツを見下ろしていた。
 連絡先にある『エドゥアルド』の項をタップして、電話をかけようとする――マリアは先ほどから、何度もその動作を繰り返していた。そのたびに諦めるのは、「仕事中に連絡をするな」とエドからきつく言い含められていたからだ。
 マリアが今までその禁を破ったことはない。ラスベガスに悪名轟くギャングスタ、エドゥア

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HOMRA in Las Vegas 10

HOMRA in Las Vegas 10

第10話「激突」

著:鈴木鈴

 夜風が周防の頬を撫でていった。
 ゴルフ場には人影はなく、それどころか照明のひとつも点いていなかった。冴えた月明かりだけを灯りとして、周防は歩く。森を抜け、フェアウェイを通り過ぎて、バンカーに囲まれたグリーンへとたどり着く。
 先ほどまでの喧噪が嘘のような、静寂の空間。
 だが、それが長くは持たないことを、周防は知っていた。
 はるか遠くから、連続したローター音

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HOMRA in Las Vegas 12

HOMRA in Las Vegas 12

第12話「狂気、妄執、その行く末」

著:鈴木鈴

 一歩ずつ芝を踏みしめて、エドは進んでいく。
 スオウはなんの感情も映らない目で、エドのことを見据えていた。足蹴にしている鋼鉄の巨人を一瞥すると、そこから飛び降りてエドに向き直る。首の後ろに手を当てて、こき、と関節を鳴らし、訊ねる。
『誰だ?』
 ぎらつく憎悪を滲ませて、エドは答える。
「《煉獄舎》クランズマン、エドゥアルド・エル・ロホ。テメェを

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