[実話]中2の夏、借金取りが家に来た
蒸し暑さがまとわりつく、じっとりした夏の夜だった。居間にいた私の耳に、玄関から妙な声が聞こえてきた。母が急に応対している様子で、低く、どこか図太い声が響く。
「ご主人の友人のKです。ちょっとよろしいですか?」
知らない名前だ。母も少し警戒しながら、「主人とはどのような関係ですか?」と尋ねている。そのやりとりに、何かただならぬ空気を感じた私は、母に言われた通り階段を上がろうとするが、思わず足を止めて耳を澄ませた。
心の中で、皮肉にも思った。「昼ドラかよこのドラマ、一体どういうオチがつくんだ?」
男は、10年以上前に亡くなった父の友人だと名乗り始めた。父と深い仲だったらしいが、「どうしても話さなければならないことがある」と言う。そして静かに、だが重みのある声で切り出した。
「実は、10年ほど前にご主人に貸付した元金100万円がありまして…」そう言って、一呼吸置く。「それが利息も含めて、今では300万円になっています。」
その冷静な物言いは、脅すような威圧感こそなかったが、言葉の一つひとつが鋭利な刃物のようにこちらに刺さってくる。淡々と、しかし確かな圧を含んだその声に、私の胸には言い知れぬ重い感情がこみ上げてきた。
父が亡くなったのは、私がまだ5歳のときだ。幼すぎた私は、父がどんな人物で、どんな人生を送っていたのかほとんど知らない。
ただ、母の話から、彼がガス配管の工事に従事していたことを知ったのは小学校に上がった頃だった。その仕事がどれほどの危険を伴っていたのか、私はその意味を理解し始めるまでに長い時間を要した。
父は、一代で財を成した祖父の長男として生まれ、いわゆる「ボンボン」として何不自由なく育った。
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