ユトリノヒトリ【03】 #夜と朝の間
専門学校を辞めた私は、とりあえずアルバイトをしないといけなくなる。でも暫くはフラフラと遊び回っていた。
昔のストリートダンサー仲間の友達は2つ下で、立派なギャルになっていた。私は、濃いメイクや巻き髪、ミニスカートにヒールというスタイルに段々慣れていき、着飾る事を覚えたのだ。
いつも夜から遊びに出かけるから決まって繁華街の路地ではキャッチやナンパに出会す。
今までダンス練習の後に通ったとしても、一言も声をかけられたことはない。
ギャルになった友達、アキと一緒に歩くとほぼ100%足を止められるのが、その頃は凄いなって思っていた。何も知らないから。
アキはそれを楽しんでいるように見えたし、わざと近くを通っていたように思う。私は最初こそビビりながらアキの後ろに隠れて居たものの、関西のノリに一瞬で打ち解けていった。
そんなある日、アキがアルバイト情報誌を持ってきて、一緒に夜のバイトをしようと言い出した。私は一瞬躊躇ったものの、断る理由も思いつかず、好奇心もあった為、快諾した。
それと同時期にアキは通い始めたホストクラブに私を連れて行こうとしていた。
流石に2〜3回断って、それでも最初は無料だし、連絡先も交換しなくていいからと言う事で一度だけ付き合ったのだ。
実は高校生の頃、2、3年時のクラスに男子が3人しか居らず、専門学校も周りはほとんど女子。だから同級生や先生じゃない大人の男性との初対面での会話は地獄でしかなかった。たぶん、お互いに……
どんな話を振られても、「はい」「いいえ」「大丈夫です」しか反応ができない。それを5周くらいすると、どんどん人が入れ替わっていく。
アキはお気に入りのホストと楽しく会話をしていて、3回に1回くらいチラチラとこちらを気にしてくれていたけど、やっぱり彼に夢中だった。
そして最後の人が私の隣に来た時、他とは全く違う反応で驚いた。まず、ホストクラブなのに坊主頭でタンクトップにジャケット、そしてジーンズを履いていて、いきなり私の肩の後ろ側に腕を伸ばして座ったのだ。
身構える時間も無く、背筋がピンってなったのを覚えている。そして、目を合わせられない私の顔を覗き込んで真っ直ぐ目を見てこう言った。
「俺だけに電話番号教えて!」
初めましてとか〇〇ですとかその他諸々の他のホストが最初に言うセリフを全部素っ飛ばして来たから私は思わず……
「電話番号はありません」
と、つい答えてしまった。その後も「携帯見せて」とか「携帯ない訳ないやん」とか「10秒だけこっち見て」とか……とにかく全てにNOと答える私なんてお構い無しに話しかけ続けてくる。最後の最後まで。
ホストクラブというのは初回来店の帰りに1人だけ選んで送り指名というのがあるらしく、私も選んでと言われた。だけどもう二度と関わらないのだからと思い「無しでお願いします」とだけ言ってアキが名残惜しそうに彼と話しているのを横目にサクッと外へ出た。
お店の真前で待つのも変な感じがしたので少し離れた電信柱の影から怪しさ満載で覗いていたら……アキとお気に入りのホストが出てきたので近くに行こうとした時、あの坊主頭の人が出てきた。
「あ、やっぱり携帯持ってるやん!」
赤いdocomoのガラケーP902iSをガッツリ片手に持っていた私は、咄嗟にバッグに仕舞った。そして……
「電話番号はありません」
どう見ても苦しい嘘をつき、アキの方を見て切実に帰りたいオーラを放ちながら眼で訴えていた。
アキは苦笑いしながら「マコちゃんホンマに携帯ないんで、すみませーん」と言いつつ、お気に入り君に手を合わせて「ゴメンな」というジェスチャーをして私のところへ小走りで来た。
私は一度も振り返らなかったが、アキが「〇〇さんめっちゃ見てる」と言いながら後ろに手を振っていた。
辺りはもう明るくて、とっくに始発も出ていたのでそのまま梅田駅でバイバイして足早に帰宅し、シャワーを浴びてバイトに行く友達を見送ってから眠りについた。
10時頃に目が覚めて携帯を見ると知らない番号から着信。誰だろう?と思いながらも、知らない番号には出ないので放置して家事をしたり買い出しに出たりした。
帰って遅めのお昼を食べようとした時、また携帯が鳴り、同じ番号なのを確認すると、もしかして?なんて考えが過ぎった。
確認しようにも、かけ直す勇気も理由も無いし、まず教えていない番号をどうやって?と考えていると、また着信……今度はアキ。
「〇〇さんにマコちゃんの番号教えてってめっちゃしつこく言われて教えてしまった」
そういう事か!と納得し「出ないからいいよ!」と言って次の日遊ぶ約束をして電話を切る。
少しだけ気になったのは、何故お金持ちのお嬢様でもなく、キャバ嬢でもない、絶賛バイト探し中のニートにここまでしつこいんだろう?という疑問。
私はこの疑問を、結局最後まで払拭することができなかった……きまぐれだったのか……?
そして夕方にまたあの番号から着信。それも無視して1時間くらいしたらシェアしている友達が帰って来て夕飯の買い出しに行き、一緒に準備をしている時にまた着信……
「出なくて大丈夫?」
友達に言われて、確かにこんなに着信が来るとちょっとなぁと思い……アキに電話した。
「何回電話しても絶対出ないからもうかけないでって伝えてほしい」
そう言うとアキは自分も困ってると愚痴をバーっと話し始めた。マシンガンのように。
私が電話に出ないことでお気に入り君に連絡が行き、アキに私が電話に出るように上手く言って欲しいとメールや電話が来るそうだ……
困り果てたアキに、ちょっと電話で話したらもう諦めるだろうと言われて私は……次の電話に出ることになった。
今思うと、この頃に起こったこと全てに意味があり、私が私として生きていく為に必要な試練ばかりだったのかもしれない。
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主人公はゆとり第一世代のマコ(一ノ瀬真琴)アラサーになったゆとり世代が歩んできた、デコボコ道をほぼノンフィクションで小説にしました。
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こちらも再編しています。一部をフィクションにして、小説にした為、無料公開にしました。登場人物の名前や団体名はフィクションです。
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