ただ熱いうどんを食べるnote
そろそろ、朝と夜は冷え込み始めましたが、コンビニにもですね、日本の寒い季節の風物詩がならび始めました。おでんは、ぼーっとコンビニの天井を見つめておりますし、肉まんは、スチームサウナからレジに並ぶお客を睨んでおります。
こういう季節になってくると、「饂飩」とかっていうのれんをくぐりたくなりませんか?ああそうですか。私はなりますがねぇ。さばさばしたおばちゃんに注文を伝えて待ってると、うどんの近づいてくる気配でわかるわけですよ。そして古い木の卓に、ごとん、と、うどんが置かれるわけですよ。
やっぱりこう、寒くなってくると、器もね、あつあつに触れないくらいに熱くなってるうどんの器をね、そおぉっと自分の方へ引き寄せましてね、具はもうこの際なんでもいいんです、海老天だろうがかき揚げだろうがね、でもね、ここはもう、熱々の月見うどんでちょっとこう想像してほしいんですがね、ちょいと自分の方へ器を引き寄せて、ネギと出汁と薄いかまぼこの魚の香りがふわっとただよってきてね、「よっ!こんちわ!」って鶏卵がね、こっちを見つめてるわけですよ。私もしっかり見つめ返すわけですがね。そしてね割り箸の箱から一膳割り箸を取り出しまして、脇にちょこんと座ってる七味入れ、あ、七味じゃなきゃいやですよ。七味じゃなきゃいやでしょう?え、七味でしょう?一味じゃないよ、ここは七味だよ~!ここで七味をね、にやにやしながらうどんに掛けていくわけですよ、ほら、七味のいい香りがほら、立ち昇ってきたじゃないの、まるで天女たちが天に還るみたいでいいじゃないの。まるで一枚の掛け軸のようですよこれは。ほいでね、割り箸をね、これね、横に割らないのよ?縦に割らなきゃ。縦。ね? あ、いい音だね、湿ってるとバキッとかなんとか言うけど、ここの割り箸はまた、いいね、あ、吉野杉の端材を使ってるの?どおりでいい音といい香りがするわけだよ。ほいじゃあちょっと、いただきますね。まずはお出汁からね、ずずずずずと。はぁあ。落ち着きますね。直接血管に点滴で入れてほしい。うん、もうそれでいい。染み込んでくるねぇ。大将だめだよこんな饂飩作っちゃ。ここに住まなきゃいけなくなるじゃん私。うん。七味もいいやつ使ってるじゃない。柚子の風味が飛脚みたいに駆け抜けていったよ、働き者だねぇここの七味の柚子は。そいじゃあ麺を。ふぅぅぅーっ ず、ずずずずずずずっ。なんだいこの麺は讃岐の娘っこみたいな芯があるつるつるした感じは、なんだいここの麺は。ここはルーブル美術館ですか。芸術作品じゃないですか。いやぁ、参った。もう、なにも、しゃべれない。ふっーふっー ずずずずずずずずっ ふっーずずずず っずずずず ふっー ずずずず ずずずずず ずずずずず ずずず ずずずず ふっふーずずず ずず ず ふっー ずずずず ず ず ずずずずっず ふぅ ずずず ずず ず ずずず ずず ずずっず とぅるんっ ごくり ふぅ