Peaceable Education #3 多様な子どもたちが共に生きる学校
2010年に、アメリカのNPOティーチ・フォー・アメリカの日本版の立ち上げに参画し、初めて、子どもの貧困問題のことを知りました。日本でも、7人に1人の子どもが貧困です。
ティーチ・フォー・アメリカは、アイビーリーグを卒業した優秀な学生を、貧困地域の学校に先生として2年間派遣し、子どもたちの成長を支援します。一方、日本では、困難を抱えた子どもたちは、どこかの地域に集中するのではなく、すべての教室に存在するのが特徴です。
教室の多様性
教室には、多様な子どもたちが存在します。特別な才能のあるギフテッドと呼ばれる子どもたち、家で日本語をあまり話さない子どもたち、発達障害の可能性のある子どもたち、不登校および不登校傾向にある子どもたち、家にある本が少ない子どもたち等です。その結果、一斉授業では、先生の授業の対象となる子どもたちは45%程度という計算になります。先生の授業は、半数以上の子どもたちに取っては、難しすぎるか、簡単すぎるかいずれかということになります。
神様は多様性に恋をしている
「神様は多様性に恋をしている」は、学習する組織論を提唱するピーター・センゲ先生の言葉です。自然の一部である人間は、一人ひとり違う。木の葉も、空の色も、海の砂もすべて違うように、人間も多様で、一人ひとりが尊い存在であるはずです。しかし、教室にある多様性を想像すると、心が痛みます。
NPO活動で出会った中学生は、分数も、九九もできない状態で小学校を卒業していました。先生の授業では、学べなかった生徒です。それでも、彼は、不登校になることなく6年間小学校に通い続けました。そして、毎日、自分の理解できない授業に座り続けた結果、「自分は馬鹿なんだ」と思い込んでいました。しかし、これは、大きな誤解です。自分に適した学びを提供していない授業に座っていただけのことです。
NPO活動では、学生ボランティアの先生たちが、学びの最近接領域(一人ではできないけれど、少しだけ支援があればできるようになる領域)で学習を設計するので、分数のできない中学生も、分数ができるようになります。個別最適な学習を行うことで、学力は向上します。
本当は勉強ができるようになりたい
私が、NPO活動を通して、この中学生から学んだとても大切なことは、彼が、「本当は勉強ができるようになりたい」という願いを持ちながら、ずっと、解らない授業に座っていたことです。だから、学生ボランティの先生と一緒に、自分に合った勉強を行うことができると、自ら学ぶ意欲が現れ、中学校を卒業する頃には、学力の遅れを取り戻すことができました。
発達の遅れの解消
多くの受験を乗り越えた経験を持つ人々は、「勉強すれば成績があがり、勉強しないと成績が下がる」というシンプルな法則を信じているのではないかと思います。少なくとも、私は、NPO活動に参加するまでは、そう考えていました。しかし、NPO活動を通して、生まれた環境によって、幼少期から発達の遅れが始まり、小学校に入学する段階で授業について行くことが難しい子どもたちがいることを知りました。彼らが、発達の遅れを取り戻すためには、彼らの発達の最近接領域に適合した授業が必要です。
NPO活動には限界があります。すべての子どもたちが、一定の学力を習得し義務教育を終えるためには、公教育で、彼らが一定の学力が習得できる方法を見出すことがとても大切だと感じます。そのためには、誰もが、教室の多様性の存在を受け入れ、お互いの学びを応援し合い、誰もが、自分に必要な学習の機会を得られる環境を整えていけるとよいです。
そのためには、多様性の心得の一つである「多様性に優劣の概念を持ち込まない」を、私達大人が実践し、子どもに示していくことも大切です。