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セルビア社会の変化とプライバシーに関するこれまでの歩み
※このインタビューは2023年9月8日に収録されました
国全体の考え方が変化するに伴い、社会規範も徐々に変化していくことになります。
今回は弁護士としてセルビアの市民団体Partners Serbiaでプライバシー保護の活動に取り組むアナさんに、セルビアの社会規範の変化とプライバシー保護についてお伺いしました。
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Kohei: 皆さまご参加いただきありがとうございます。本日はセルビアからアナさんにご参加いただいています。アナさんは社会問題に取り組む素晴らしい弁護士です。本日は彼女の活動についてお伺いしていきたいと思います。
アナさん。本日はご参加いただきありがとうございます。
Ana: ご招待いただきありがとうございます。
Kohei: ありがとうございます。まずはアナさんのご紹介をさせて頂きます。
アナさんは弁護士で、セルビアを拠点とする非政府組織Partners Serbiaでエグゼクティブディレクターを務めています。
これまでの12年間の間に市民団体のPartners Serbiaで活動を行ってきており、市民の権利を保護することを前提とした法の改善に向けた取り組みを行っています。2011年以来アナさんはプライバシー権と個人データ保護を中心に活動してきました。
彼女は国際プライバシー専門家協会が提供するプライバシーマネジメントトレーニングを始め、複数のトレーニングコースを修了しています。
トレーニング開発や実施を始め、カウンセリングや組織のデータ処理方法についての調査、パブリックキャンペーン、議論の場づくり、法対応のフレームワーク改善のためのドラフト提案等も行っています。
これまでにデータ保護に関する調査や分析を実施し、最近では新技術領域である人工知能と人権に関する分野についても活動を行っています。
アナさん。改めて本日はお越し頂き、ありがとうございます。
Ana: ありがとうございます。
Kohei: では早速インタビューのアジェンダに移っていきたいと思います。始めにアナさんの活動についてお伺いできればと思います。これまでに数多くのプライバシーやデータ保護に関する活動に関わってこられたと思います。
アナさんはなぜこの分野で活動しようと考えたのでしょうか?もし理由があればお伺いできると嬉しいです。
データプライバシーとデータ保護分野で活動を始めた理由
Ana: ここからは私の経験をご紹介できればと思います。プライバシーとデータ保護分野では、大きなリスクが問題になっています。プロフィールで紹介いただいたように、私はこれまでの12年間プライバシーとデータ保護分野に取り組んできました。Partners for Democratic Changeで働き始める前からプライバシーに関する活動を始めていました。
あまり世の中では知られていませんが、私の専門は移行期正義(Transitional Justice)と呼ばれる領域です。私の母国はバルカン地域の西側に位置するセルビアという国で、セルビアは最近まで紛争地域でした。未だに戦争の歴史を引き継いでいるのです。
移行期正義は移民や難民、そして移動を余儀なくされた人たちが戦争犯罪下でどのような活動を行っているのかを研究する分野です。私は法学部を卒業した後に、今の分野を専門に取り組んでいます。
移行期正義の研究を通してプライバシーについて学び始めるようになりました。これまでに人々の人権以外にプライバシーについて教育を受けたことがなかったので、学び直しが必要だと思ったのです。これまではプライバシーの歴史について学ぶこともありませんでした。
勿論データ保護について学ぶこともありませんでした。プライバシーについて学ぶことが無かったのは私たちの国の文化的な教育が大きく影響しており、この点については大きな問題があると思います。
私の場合は移行期正義について学んでいく中でプライバシーを保護することがどれだけ重要か気づくことができ、生活に関わるセンシティブな情報がいかに侵害されやすいのかを知ることができました。
(動画:Why Transitional Justice? | ICTJ)
難民の人たちや、移民の人たちのプライバシーが侵害され、戦時中に行われた恐ろしい犯罪に巻き込まれてしまった歴史的背景を知ってしまうと、彼らや彼女たちの個人の尊厳を保護することはとても重要であり、プライバシー保護もその一部であることがわかります。
私はセルビアの市民社会団体であるPartners Serbiaで働き始めたことで、新しい概念であるデータ保護に関わることができるようになりました。
セルビア社会の変化とプライバシーに関するこれまでの歩み
セルビアでは2010年と2011年に初期のデータ保護法についての議論が始まりました。当時独立した政府機関を設置しデータ保護に向けた対策を進めていましたが、政府機関だけでは対応できなかったため市民団体と連携する必要がありました。特にプライバシーや権利についての啓蒙活動については市民団体が積極的に支援を行っていました。
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私たちの団体も独立した政府組織と連携し、国の情報委員会が設計した研修やメディアを活用した市民、市民団体等へ啓蒙を行うキャンペーンに関って活動していました。
当初私たちが取り組んでいたことは、今のデジタル社会から考えるとかなり初歩的な対策だったと思います。例えば、紙に書いた個人情報をどのように政府が安全に管理、取り扱いを行うかというテーマ等です。
私たちは紙に記載した医療記録がどのように管理されるのか、医療機関でどのように保管されているのか等について日夜議論を行っていました。
当時はオンライン上のプライバシーやデータ保護についての議題ができることはほとんどなく、プライバシーリスクについて話題に上がったとしてもどういったリスクがあるのかどうかというテーマくらいで、多くは紙の取り扱いをどのように考えるかが重要でした。
紙の管理はとても難しく、公的機関や政府機関では紙の管理が日常的に行われていました。
情報管理の知識については政府も民間団体にもあまり知見が浸透していませんでした。適切に個人情報を記録する知見が無いことによって、個人の権利を保護することが難しい時代でもありました。
私たちの国は社会主義国家だったため、何十年も独裁的な政府統治が行われてきました。 個人の権利利益が個人の帰属し尊重されるよりも、軽率に考えられることが多かったのです。
そのため私たちの国では「プライバシーとは何か隠したいことがある場合にのみ発生するものだ」と考えられていました。こういった社会背景もあって、一般の方々に対してプライバシーが私たちの権利であると説明する際に非常に苦労しました。特に、プライバシーを守ることは何か悪事を隠しているのではないかという考えを変えることはとても大変でした。
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プライバシーとは私たち個人の尊厳や生きる権利を守るもので、当たり前のように保護されるものなのです。今では少しづつ理解してくれる人も増えたので変わってきましたが、まだまだプライバシーに対する偏見も残っています。そういった意味で、GDPRが施行されたことは私たちの社会を変えるきっかけになりました。
Kohei: アナさんのとても重要な取り組みについてお話し頂きありがとうございます。冒頭で、アナさんが所属している組織の紹介をして頂いたかと思います。ここからは、もう少しアナさんの組織で行っている活動についてお伺いしたいと思います。
Democratic Change in Serbiaでアナさんが担っている役割と活動について教えて頂けませんか?
〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編は、次回お届けします。〉
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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫