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パワハラ死した僕が教師に転生したら 1.転任してきた教師の挨拶
東京、高校、現代、令和の初頭、転任して来た教師。
教室の教壇。
小柄で痩せた、白髪の多い少し長い髪の中年の男。
青白い面持ちに浮かぶ、憂鬱そうで悲しげな大きな瞳。
まだ肌寒い春の光の中で、静かに、失われた何かを探し求めるようにゆっくりと、時折目を瞑りながら語られた、教師の自己紹介。
それは彼の、遠い記憶・・・・・。
「・・・・・そう、それであの頃、僕は四十近くになっていて、新興のファミリーレストランを経営する会社に勤めていました。
僕は、終着駅と呼ばれていた店舗に異動を命じられていました。都内に数ある店舗の中で最も大きく、いつも繁盛していて、ひどく忙しく、とても厳しい店長がいる、みんなから恐れられていた店舗です。
異動後すぐに、店長から僕へのパワハラが始まりました。
それは主に、閉店近くに、店の事務室で行われたのです。
『会社のためにならねえクズが』
『こんな簡単なこともできなくて、生きてて恥ずかしくないのか』
『カスが死ぬ気で働かねえならカスのままだろ』
『お前の頭は空っぽだ、頭で覚えられないなら体で覚えろ』
という罵声とともに、腹を殴られたり、腿を蹴られたり、髪を掴んで引きずられたり、土下座をさせられて脇腹やお尻を蹴飛ばされたりしました。
そう、あの頃、僕の体はあざと傷だらけで、ひどく痛んでいたのです。
店長からは、腐った根性を叩き直すために反省文を書けと言われていました。
パワハラが終わり、店長が帰った後、残った仕事を片付け、反省文を書き終わる頃にはもう終電の時間は過ぎています。だから、そのまま店で朝まで眠り、始発でアパートに帰ったり、午前にシフトが入っていればそのまま店で仕事をしたり、ということが週に何度もありました。
反省文は必ず破り捨てられ、書き直すことになりました。
僕には、休日がほとんどありませんでした。『人間以下が人間並に休んでいたら人間以下のままだろ』と言われていたのです。
僕は、いつも疲れ切っていて、睡眠が足らず、朦朧としていました。
それでつまらないミスが増え、その度に店長からみんなの前で罵倒されました。
誰もが、僕のことを馬鹿にしていました。
この店舗に異動してからずっと、こういうことが続きました。
行き帰りの電車の中で、僕は泣くようになりました。涙が勝手にこぼれるのです。
僕は、毎日、怯えていました」
「そして、しばらくすると、僕にある変化が生じました。僕は疲れ果てていて、いつも眠りを求めていました。けれど、毎朝、夜明け前に目が覚めてしまうのです。アパートにいても、店で眠っていてもです。目覚めるとその後に来るのは、いつも鉛のようにひどく曇った灰色の夜明けでした。そして、心の中に、不安感と絶望感が居着くようになりました。
何かがおかしい・・・・・
僕は、この感覚を必死に抑え込もうとしました。けれど、その不安感、絶望感は少しずつ、心を占領して行きました。やがて、仕事をしている時も、電車の中でも、アパートの中でも、不安感、絶望感が絶えず心をえぐるようになったのです。
僕は、苦しくてたまらなくなりました。
気付くと、風景には色がなく、人々はとても遠くに映っていました。
不安と絶望は僕の心を占領し、僕を捕らえ、圧倒し、えぐり続けていました。
そして僕は、自分の心が言いたいことにようやく気付きました。
死にたい
一日中、心は、そう言い続けていました。
朝起きてから夜眠るまで、店にいる時も、電車の中にいる時も、アパートにいる時も、食事をしている時も、シャワーを浴びている時も、何をしている時も休むことなく、そう言い続けていました。
そういう状況がしばらく続き、ある日、僕はいつも通り店に出勤し、店長から殴られ、夜中まで仕事をし、客席のソファで少しだけ眠り、夜明け前に目覚め、近くの街の古いビルから飛び降りました」
「しばらくして僕は、自分に意識が戻っていることに気付きます。僕は、僕が飛び降りた道路にいました。僕が飛び降りたビルや道を行き交う人々が視界に映り、街の音も聞こえました。どうやらそれは、僕が亡くなってから数日後の世界のようでした。
けれど、僕には肉体がないのです。つまり僕は、意識、思考、視覚、聴覚、嗅覚だけの自分、いわば意識体になっていたのです。
そして、『どこでも行きたい場所に行ける。過去ならいつの時間にでも行ける』と、僕の意識に直接語りかけてくる何かがいました。
僕は何日も、何をしらた良いか分からず、ぼおっとしていました。
深い悲しみに包まれていましたが、あれほどひどかった不安感や絶望感は消えていました。
そして、次第に僕は、自分が何故あのような最期を迎えたのか、その原因を考えるようになりました。
それで僕は、あの語りかけてきた何かを想い浮かべ、その原因は何だったのか、問いかけてみたのです。
その答えは、『どこでも行きたい場所に行ける、過去ならいつの時間にでも行けると言っただろう。現在と過去を思うままに見て回り、自分で答えを見出しなさい』というものでした。
試してみると、確かに僕は、自由に時間をさかのぼり、望んだ場所に行くことができた。それは、驚くべき体験でした。それで、僕は、僕に語りかけてきたあの何かのことを、神様と呼ぶことにしました」
「それから僕は、現在と過去の色々な出来事をひたすら見て回り、考え続けました。
そして、僕が意識体となってから10年が経とうとした頃、僕は、初めて神様にお願いをしたのです。『僕が亡くなった原因は、神様のおかげで、僕なりに理解できました。それで、お願いがあります。僕は、もう一度、僕が生きたあの時代に生まれ出たい。そして、教師になって、僕が学んだことを多くの人に伝えたいのです』と。
神様は『わかった。あなたが強く願った時、あなたは、あなたが望む時代の教師となるべく生まれ出る。ただし、あなたの新しい人生には、いくつかの制約が課される』と言われました。
どんな制約があっても構わないと思いました。
そして僕は、それからしばらく経った後、強く願い、時間をさかのぼって前世の僕と同じ生年月日に生まれ、教師となったのです」
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