
微苦笑問題の哲学漫才05:カルヴァン編
ルターについては世界史漫才をご覧ください。
微苦:ども、微苦笑問題です。
微:今回はカルヴァン(Jean Calvin、1509~64年)です。
苦:デザイナー一族だな。兄がピエール=カルヴァン、弟がカルヴァン=クラインで。
微:最初のはカルダンだし、修正不能なくらい間違ってます。ルターと並ぶ宗教改革の初期指導者です。
苦:道理でおかしいと思ったよ。
微:おかしいのはオメエだよ! ルター派がドイツ語圏と北欧にとどまったのに対し、カルヴァン派は西欧諸国に広がりました。
苦:フランス型変異株C3POと呼ばれ、警戒されたそうです。
微:それは翻訳ロボットだろ!! フランスではユグノー、オランダではゴイセン、イングランドではピューリタン、スコットランドではプレスビテリアンと呼ばれました。
苦:カトリック側には、ルター派が新型インフルエンザで、カルヴァン派が新型コロナだな。
微:忌々しさ込みでそうでしょうね。さて、カルヴァンの主著は1536年にラテン語で初版が出された『キリスト教綱要』です。
苦:誰も読まないようにラテン語で書いたな。
微:学術書や宗教書はラテン語です。また旧約・新約を問わず多くの聖書注解や神学論文を残す一方、多くの説教集も出版されました。
苦:駿台予備校でいうなら山本義隆さんみたいなもんか。
微:あの人は違う意味で十字架背負ってますが。『ジュネーブ教会信仰問答』もカルヴァンの著作です。やたら著書を出す宗教指導者って、いつの時代でもどこの国でも危ないもんなのですが。
苦:まだ死んでない人の霊を呼び出して本を書いた大川総裁もいるしな。
微:夏目葬式の人よりいいでしょ。
苦:カルヴァンを救世主とするアニメまで製作されていたそうです。
微:それはオウム真理教だよ! まあ、あの独特の確信に満ちた文体ですから、ゴーストライターはいなかった、と断言していいでしょう。
苦:小川知子は幸福の科学を弁護する前にカルヴァンを読んで気持ちを高めたそうです。
微:古いよ! まず、ジュネーヴに定着するまでですが、パリでプロテスタントへの弾圧が激しくなり、1534年あたりから亡命生活に入ります。
苦:プーチンに狙われていたそうです。
微:1536年3月にはバーゼルで『キリスト教綱要』の初版をラテン語で刊行しました。逆説的ですが、ラテン語で出されたがゆえに、逆に知的階層にこの本は広く読まれ、カルヴァンはその名をヨーロッパに知られることになりました。
苦:誰が読んでもわからないために奥深い哲学と勘違いされて売れたラカンやデリダみたいなもんか。
微:それはソーカルの『知の欺瞞』だろ! 5年後の1541年にようやくフランス語版が刊行されました。
苦:日本で出版したら、すぐに海賊版が無料で出してもらえるのになあ。
微:それは著作権法違反ですから。カルヴァンの活動のほとんどはジュネーヴにおいてでしたが、ラテン語と大量の出版物を通じてヨーロッパの多くに改革派教会に彼の思想は広まっていきました。
苦:日本のドラマもCDも日本語のままですぐに台湾から東南アジアにすぐに広まっているもんな。
微:それはさっきと同じで違法です! 話を戻すと、代表作『キリスト教綱要』初版が出た1536年、カルヴァンは旅行中に偶々滞在したスイスのジュネーヴ市で牧師のギヨーム・ファレルに要請され、同市の宗教改革に協力します。
苦:まあ、フランス語圏だから困らないよな。
微:その勢力の拡大を恐れた市当局によってファレルらと一緒に1538年に追放され、バーゼル、ストラスブールに滞在し、1541年に市民の懇請によってジュネーヴ市に戻りました。
苦:巨人にタダでトレードされ、オーナーが替わって、すぐホークスに戻った小久保みたいなもんだな。
微:そして、以後30年近くにわたって、カルヴァンは神権政治を行って同市の教会改革を強力に指導したというか、厳格な統治を行い、市民の日常生活にも厳しい規律・道徳を求めました。
苦:「ぜいたくは敵だ」「欲しがりません、勝つまでは」って国民運動を展開したそうです。
微:それは第2次大戦中の日本だよ! 特に1553年、カルヴァン派によって異端者と告発された旅行中の神学者ミゲル・セルヴェートは、ジュネーブ市当局によって生きながら火刑に処されました。
苦:まあ、魔女狩りを一番激しくやったのは16世紀のカルヴァン派だもんな。
微:しかもカトリック側はトリエント公会議を開催している期間ですしね。セルヴェートの火刑はカルヴァンの意ではなかったと弁護する人もいますが、それでもカルヴァンが「セルヴェがジュネーブに来れば生きて去らせることはしない」と周囲に語っていたことも事実です。
苦:要するに、武市半平太と人斬り以蔵みたいなもんだな、教唆犯と実行犯。
微:カルヴァン派の拡大に話を戻すと、彼の神学教理は、ジョン・ノックスの影響でスコットランドで多数派となり、これがプレスビテリアンです。さて、カルヴァンとくると、高校世界史や倫理の定番「予定説」ですが、実はこれがくせ者です。
苦:サッカー代表でいうと、中村憲剛みたいなもんか。必ず呼ばれるけど、どう使ったらいいか・・・。
微:というのも、「予定」の項目が現われるのは『キリスト教綱要』第3版からだそうです。
苦:安倍や菅を参考に言質を取られないよう配慮したそうです。
微:バカと比較しでも意味なしです。厳密に言うとカルヴァンの教えは「二重予定説」になります。というのも、カルヴァンによれば、救済に与る者と、滅びに至る者が予め決められているからです。
苦:なんか生物のオス・メスみたいだな。ウミガメみたいに砂浜の温度で変わらないのか?
微:そんなこと誰が知ってるんだよ! その人が神の救済に与れるかどうかは、予め神によって決定されており、この世で善行を積んだかどうかといったことではそれを変えることはできない、と。
苦:やまゆり園の犯人みたいな奴でも?
微:例が反対です。教会にいくら寄進をしても救済されるかどうかには全く影響しません。偉大な神の意思を、小賢しい個人の意思や行動で左右することはできない、ということです。
苦:田中角栄の方が誠実に期待に応えてくれたわけだな。
微:カトリック的な「条件的救い」に対し、これは「無条件救い」と呼ばれます。神は無条件に救済される人を選び、その救済は神の一方的な恩寵だからです。
苦:確かに預言者に選ばれる人間って、ヤハヴェの気まぐれだし、しんどいだけだもんな。
微:救済されるのは特定の選ばれた人に限定され、一度救済に与れた者は宗教上の罪を犯しても、必ず神に立ち返るとカルヴァンは言います。これが「聖徒の堅忍」と「信仰後退者の教理」です。
苦:それって、神を信じ、聖書を読み、まじめに戒律を守っていくことが虚しくなりそうな教えだな。
微:そうです。救済に与れるかどうか全く不明であり、現世での善行も意味を持たないとすると、人々は虚無的な思想に陥るほかないように思われます。どう生きようとも救済される者は予め決まっているというのなら、「何をしようと、勝手だろ」的な対応をする者もありうるはずだと。
苦:普通はそう思うし、キミももうやってるよな。
微:濡れ衣を着せないように。しかしそこに着目して逆説的とも言えるカルヴァン派と資本主義の「精神」の繋がりを指摘したのがドイツの社会学者マックス=ヴェーバーです。
苦:慣習は井沢元彦なんだろ?
微:あんなバカ不必要です。その論文は2回に分けて掲載された「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の『精神』」(Die protestantische Ethik und der 'Geist' des Kapitalismus、1904~1905年)です。
苦:なんで「プロテスタントの」がプロテスタンティズムになっているんだ?
微:確かにカルヴィニズムの方がしっくりくるんです。歴史的事実として、オランダ、イギリス、アメリカなどカルヴァンの影響が強い国では合理主義や資本主義が発達しましたが、カトリック国やルター派の強いドイツでは資本主義化が立ち遅れました。
苦:やはりドイツ愛国主義者の面が出たのか?
微:個人的には清貧の理想を追求したカトリックのフランチェスコ会の逆説的展開を意識したと勝手に思ってます。
苦:というか、カトリックはプロライフだから人口増加で資本が食い潰されたんだろ。
微:こうした現象は偶然ではなく、資本主義の「精神」とカルヴィニズムの間に逆説的な因果関係があるとヴェーバーは考えたわけです。
苦:「痛いけど気持ちいい♡」みたいなもんか。
微:そっちじゃありません。なお、ここでいう資本主義の「精神」とは、単なる拝金主義や利益の追求ではなく、合理的な経営・経済活動を支える情念あるいは習性(エートス)のことです。
苦:ロータリー・エンジンにこだわるマツダ自動車みたいなもんだな。
微:「資本主義を資本主義たらしめる性(さが)」です。まあ大塚久雄が意図的に「精神」という字を選んだ可能性はあります。
苦:根性とか民衆思想とすると安丸良夫の通俗道徳研究になるしな。すごい研究だけど。
微:ヴェーバーの議論は次の通りです。カルヴァンの予定説では、救済される人間は予め決定されており、人間の意志や努力、善行の有無などで変更することはできません。
苦:はいはい、さっき聞きました。
微:しかし神の導きである禁欲的労に励み、社会に貢献することを通して、自分が救済される側にいることを確信しようとします。
苦:それで『緋文字』のように内部に敵を見つけてつるし上げたと。
微:また、教会での秘蹟などの呪術は救済に一切関係がないので禁止され、合理的な精神を育てます。
苦:週一回「ゴメンナサイ」でチャラにできるカトリックの方がいいな、オレ。
微:そして天職に励んだ結果として手元に残った富は救済の証拠であり、神の恩寵でもあるので、決して浪費してはいけないと。これを節倹・蓄財の奨励といいます。
苦:オン・ライン・ゲームそのものだな。経験値や武器は神の恩寵だし、自分の労働の成果だしな。
微:廃人製造器と比べてはいけません。このような資本主義の「精神」を最も体現した人物としてヴェーバーはベンジャミン・フランクリンを挙げています。あの「時は金なり」の言葉を残した人です。
苦:「ニン♡」とか言ったり、電線音頭を広めたおっさんだな。
微:それはベンジャミン伊東だよ! しかし、ある時点で手段と目的がすり替わります。救済を確信する「手段」としての蓄財が、自己目的化します。資本の拡大再生産が自律的運動となり、「資本の盲目的自己増殖運動」が始まります。
苦:日本の高校生が罹る、「偏差値を上げるための勉強」という逆転と同じだな。
微:capitalismを資本主義と日本語では訳しますが、社会主義や共産主義のような理想はありませんので、「主義」は誤訳です。上野千鶴子が「資本制」の語を使うのもこのためで、意訳すれば「資本蓄積中毒」「資本蓄積依存症」が適切でしょう。
苦:じゃあMarxismはマルクス中毒だな。
微:・・・おっしゃる通りです。このマックス=ヴェーバーの議論はカルヴァンの予定説を二重予定説として捉えた上で成り立つものです。ですが二重予定説については今も議論が多いんです。
苦:だろうな。でないと、"GO TO HELL!!"という悪意の言葉も意味ないしな。
微:そんなレベルではなく、救済の宗教も根幹部分です。聖書はキリスト者=救いに選ばれた者のために書かれたのであるなら、イエスの教えを信じていること自体が救いの選びの対象になっているわけです。
苦:病気を治す気のない医者みたいなもんだと。
微:はい。ですから、カルヴァンは実は滅びの選びを強調していません。
苦:親鸞が「悪人正機」を言ってないのと同じだな。
微:予定説はオランダのカルヴァン派で発展し、救済の予定が人間(アダム)の堕落の前とする堕落前予定説と、堕落の後とする堕落後予定説との論争が起りました。
苦:日本仏教の補陀洛信仰かと思ってしまうややこしい名前だな。
微:それは全員海上で死んで「死人に口なし」です。堕落前予定説では、すべての人間が救済の対象とされ=普遍救済説、自分の意思でカルヴァンの教えを選び取る人間の自由意思の余地が全くなくなるからです。よって、オランダでは堕落後予定説が主流となりました。
苦:さすが中世イタリア商人の次の守銭奴国民だな。
微:二重予定説の教義は、カルヴァンの死後も後継者によって発展します。1619年の「ドルト信仰告白」を経て、1647年に採択された「ウェストミンスター信仰告白」によって現代に見られるような形で一応完成しました。
苦:ピューリタン革命中か。
微:当然、アメリカに渡ったピューリタンはガチガチの二重予定説で、ボストンを中心にピューリタンだけからなる宗教共同体を生みました。今でも間欠泉のように吹き出す宗教的熱狂の原点です。
苦:まじめに言いますね。ナサニエル・ホーソーンの『緋文字』の世界だな。
微:「セーラムの魔女事件」も禁酒法もここから生まれました。聖書に誤りはないとするエヴァンジェリスト、ブッシュ政権を誕生させた宗教右翼もこの中から生まれてきます。
苦:ああ、アッラーもヤハヴェも主も同じ神であることすら知らない連中だな。
微:彼らは「空中携挙」の手、つまり最後の審判に際し、義人=正しい者だけを天国に引き上げてくれる手を熱望しています。自分たちは必ず救済されると確信しているんです。
苦:最後の審判じゃなくていいから、あいつら引っ張って、どっかにやってくれ。
微:鰹の一本釣りかよ!(パシッ!)(♪チャンチャン)
作者の補足と言い訳
一般的には、マックス・ヴェーバーの議論と結びつけて解説されることの多いカルヴァンですが、世界史をちょっとでも勉強した人間なら16~17世紀の宗教戦争や異端審問も主役はカルヴァン派であり、今のアメリカ合衆国の「ジャイアニズム(オレ様主義)」の原点はここです。
ピューリタンを精神的祖先として生まれた合理主義的・潔癖主義的アメリカですが、それでは救われない人々が多数します。プロテスタントでは対応できない悪魔憑きです。「アメリカの敵は外から入り込み、仲間のふりをして悪を働く」という国民的被害者意識と結合させたのがホラー映画の原点とも言える『エクソシスト』です(2010年度だけ授業で流しました)。またモルモン教も含めて、無数のカルト教団を生み出すのもアメリカの特徴です。
ピューリタン的潔癖さは第1次世界大戦後の禁酒法や、子ブッシュ政権が選挙協力への見返りとしてキリスト教右翼に資金を流す制度的装置としての「絶対禁欲教育」にも現れています。日本ではほとんど知られていませんが、避妊も人工中絶も否定し、中学生・高校生に結婚するまで性行為を一切禁止させる教育プログラムです。ですから2013年現在も学校の授業で避妊の方法を教えることは禁止されていますし、ペイリンさんの娘は高校生で出産しました。絶対禁欲教育プログラムはキリスト教右翼しか提供できませんので、教育費名目で税金が彼らに合法的に流れます。犠牲となるのは、避妊方法を知らなかったために10代で出産し無教育状態でシングルマザーとなる女性たちです。