④クー・フリン&ロイグ主従が大活躍!アルスター伝説「ゴルとガーブの壮絶なる死」
アイルランド伝承「ゴルとガーブの壮絶なる死」の訳つづき。間違ったところや、気になるところがあればお気軽にご指摘ください。
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ロイグは馬をとめ、クー・フリンはエウィンに入りました。エウィンに入って最初に出会った英雄は、スアナン・サルセン、コノールの給仕人でした。彼は自身の給仕人をエウィンから決して離れさせなかったのです。
「ええと、スアナン。みんなはどこへ行ってしまったんだ?」
「クアルンゲのグレオ・グラスの子、コナルの邸宅へ」スアナンは言いました。
「コノールは俺について何か言っていたか?」クー・フリンは尋ねます。
「何も聞いておりませんが」スアナンは答えました。
「ロイグの言ったとおりだった。コノールは俺を愛していないんだ。誓ってやろう、エウィンはもう俺が見た時のようにはならないと。炎の飾りで囲んでやる。何人たりとも逃れることも、虐殺を生き延びることもできないように」
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クー・フリンには、いつも避けている二つの行いがありました。すなわち、女の胸や乳房を見ること、目の前でくだらない歌や詩を歌われることです。さて、恐れを抱いたスアナンは、こんな詩を歌いました。
「歓迎しましょう、おおたくましいクー・フリン、
赤き剣のカスバズの孫よ!
この地であなた様に喜びを
毎日毎晩、欠かさずに!
たくさんの主人と共に、あなた様を歓迎します、
コノールのため
優美なるデヒティネ(※1)のため、
スアルダウ(※2)のために歓迎します。
寒く、湿った、暗闇の夜を旅してはなりません。
ああ百の妙技のクー・フリンよ、
どうぞこちらに留まりください!」
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にもかかわらず、クー・フリンは誓いを果たしませんでした。すなわち、エウィンを焼き尽くすという誓いです。彼はエウィンを出て、ロイグのところに戻ってきました。
「さてと、ロイグ」彼は言いました。「馬を鞭で追い立てて、グレオ・グラスの子コナルの館へ行こう。コノールの一団はそこへ行ったようだから」
「僕があなたなら」御者は言いました。「今夜はエウィンを離れません。もう日が沈みます。こずえは頭を下げ、森の(欠文)は低くなり、鹿は巣穴で眠っている。戦車の骨組みは泥で汚れ、動きも(欠文)で鈍くなっている。今は馬を動かす時ではないのです」
「お前は俺を止めたりしないだろ?」クー・フリンは言いました。
「まさか」御者は答えます。「あなたに二つの道の選択肢を与えましょう。一つの道は長いがなだらか、もう一つの道は短いが険しい」
「短くて、険しいほうだ!」クー・フリンは言います。
「その道は険しいわけではありません」ロイグは続けます。「ただ、グレン・リゲのガーブが守っているのです」
「俺はたった一人の英雄のために、わが道をあきらめたりしないのさ」クー・フリンはこのように答えました。
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クー・フリンが道を進んでいくと、すぐ近くの峡谷で(すなわちグレン・リゲの谷)で、彼の前にガーブに薙ぎ払われたウラドの軍勢が、残虐に殺される音が聞こえました。
クー・フリンがその音の聞こえる場所に行くと、グレン・リゲのガーブとの戦いが始まりました。彼らは固く滑らかな槍で互いに傷を負わせ、激闘を繰り広げたのです。互角の打ち合いや突き合いに、クー・フリンは苦戦を強いられました。
そこで、彼は槍を投げ捨て、ガーブの腕をぐわしと掴んで激しく揺らし、肩甲骨と一緒に肩から腕を引きちぎってしまいました。グレン・リゲのガーブは、敗北の叫び声をあげました。
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「ここに生きてる者はいるか?」ロイグは呼びました。
「俺は生きてるよ」クー・フリンは答えました。「剣を取ってくれ」
ロイグは彼に剣を与えました。クー・フリンは『固い頭の銅の剣(※3)』を鞘から抜き、ガーブに一撃を与え、彼の一つ首から二つの頭を切り落としてしまいました。続けて返しの一撃を首にお見舞いし、地面に二つの肉片を落としました。さらに三度目の攻撃を食らわせ、彼を真っ二つにしたのです。
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「さてさて」ロイグは言いました。「戦いはいかがでしたか?」
「俺が生きている限り」クー・フリンは言いました。「こうして敵が向かってくるのだろうな」
そして、彼はこんな詩を作ったのです。
クー・フリン
「グレンのガーブ
やつの体と精神は邪悪
怠慢ゆえに捨て置かれたのではなく
多くがやつの傍らで死んだのだ」
「やつは俺の肌に50の傷を負わせた
我が肉体の左側にも右側にも。
堅固な地には一つとしてない
我が槍の切っ先を残さぬところ」
「グレン(谷)にて
我らは堂々と対峙した —
わが命あるかぎり、敵はやってくるだろう。
戦いは激しく、穏やかではなかった」
ロイグ
「僕は臆することなくあなたに言った
谷に入るその前に
グレン・リゲのガーブとの戦いで
あなたが受けるだろう苦しみを」
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「さあロイグ、二つの頭を戦車に乗せて、馬を鞭で走らせてくれ。クアルンゲのグレオ・グラスの子、コナルの館へ行こう」
「そうしましょう」ロイグも答えました。
それから、彼らは難儀な道を進み、やがてクアルンゲのアバン・コルプタイと呼ばれる、コナルの館近くの川にたどり着きました。
「なんて大きな川だろう!」クー・フリンは言いました。「戦車の持ち手を寄越してくれ。馬より先に浅瀬の具合を試したいんだ」
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コナルの猟犬コンベールは、戦士の両肩に水が当たる音を聞きました。番犬は、三段オールの船が自分の口の上を通るようにするため、口を開いて番犬の唸り声を上げました。
そこで、クー・フリンは戦車の持ち手を素早く番犬の口に入れ、片手を口に突っ込んで番犬の肝臓をぎゅっと掴みました。それから、馬を縛る縄をねじるように、犬の頭をねじり上げてしまったのです。続けて、皮のなかにある骨を粉砕し、クアルンゲのアバン・コルプタイ川からBelut(※4)へと投げ飛ばしました。
ゆえに、Belut という名は、グレオ・グラスの子コナルの猟犬、コンベールが死んだ場所に立つ立石の名になったのです。
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クー・フリンは町の門へ進みました。
「門を開くように言ってくれ、ロイグ。けど、俺がここにいることは言うな。エウィンの若者たちの一人だって伝えるんだ」
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ロイグは町の門に歩み寄りました。
「開けろ、なんじらの門を開けろ!」
「開門を求めるのは誰だ?」
「エウィンの若者の一人がここに」ロイグは答えました。
「今の今までこの宴会に来ず、エールやご馳走のことも知らぬなら、エウィンの高貴な生まれの者ではない。俺たちが門を開けるべきお方ではないな」
「何を言うか、奴隷たち! ここにいるのは、まことに愛のない可哀想な少年だぞ」
「我ら誓おう」門番たちは言いました。「ウラド人に悲しみと恥辱と侮辱を与えられた若者は、明日の日の出まで町に入ってはならない。そうすれば、いないことに気がついてもらえるだろうよ」
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その答えを聞いたクー・フリンは、草原に立つ立石 — 3分の1は地中に埋まり、3分の2は地面に上にあるそれ — を肩に乗せ、強く投げつけました。立石は見張り台を横切り、要塞を破壊しました。
こうして、主人たちを待っていた50の3倍の奴隷たちが殺されてしまったのです。虐殺から逃れたことを自慢した者は、誰一人いませんでした。
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彼は剣を鞘から抜き、むき出しの状態で軍勢の上を乗り越えていきました。すると、アルスターのカルバド・オルの子、ブリクリウという口汚いタチの悪い男が彼に気がつき、このような詩を作ったのです。
ブリクリウ
「ウラドのすばらしき戦士たちよ!
ここにいるはクー・フリン、武勇の称号を持つ者だ。
真っ白な右手には抜き身の剣
酒を酌み交わしている場合ではない、みな起きよ!」
コナル
「むき出しの武器を持つのは誰だ
我が強きはちみつ酒の館に入るのは。
すばらしき王たちは彼を守らぬ
王の息子でも、王子でもないのなら」
クー・フリン
「ここにいるは武器を手にした英雄だ
互いに大言壮語を宣言しよう
もしこの場のすべての部隊が争うとしても
お前に守護は求めまい。
すばらしい一撃をくれてやろう
愚かな毒舌のブリクリウ!
そいつはお前にたやすく届くぞ
お前の毒舌をやめぬ限り。
俺は赤枝の勇気ある
クー・ナ・セルダ(※5)の庇護下にある
だが言ってやろう —
堂々たる言葉を —
俺は殺されるのを恐れはしない
どのような結果がもたらされるか知っている
ああ、狂気に陥ったブリクリウよ
お前も、お前の護衛も
みな共に殺されるだろう」
ブリクリウ
「大口を叩いた者に災いあれ
直ちにそれを行わぬなら。
彼は嘲笑の的になろう
もしもそれを撤回するなら。
さあ起きよ、輝かしきウラドの民よ!
そなたらの誓いを果たすのだ。
名声を高めよ — 四行詩は満たされた —
クー・フリンを殺すのだ!」
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(※1)クー・フリンの母親
(※2)クー・フリンの父親の一人
(※3)別名「クルージーン・カサド・ヒャン」
(※4)地名? よくわからず
(※5)クー・フリンのことらしい。参考
yuumiさんアドバイスありがとう!
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