見出し画像

カンヌライオンズ2018 PR受賞作品に学ぶ【前編】

7月31日に株式会社PR Tableさん主催の"「カンヌライオンズ2018」にどんな未来を見るか?本田哲也さんと考える、これからのPR"というイベントに参加した。
モデレーターは株式会社メルカリ PRグループの片山悠さん、ゲストがブルーカレント・ジャパン株式会社代表取締役CEOの本田哲也さん。本田さんがカンヌライオンズ2018 PR部門の受賞作品からグランプリやゴールド受賞をメインにピックアップし、ご自身の視点を交えなから解説していく形で進行した。

ここでは取り上げられた作品や本田さんの視点を紹介しながら、私が得た気づきや学びも書き綴りたいと思う。

今回は取り上げられた全8作品のうち、グランプリを含む4作品について書きたい。

01** Trash Isles**

今年のグランプリ。北太平洋に浮かぶ、プラスチックゴミは、なんとフランスの国土と同じぐらいの面積になっているのだとか。この危機的な状況にもっと関心を持ってもらおうと、環境保護団体がこのゴミの塊を「Trash Isles(ゴミ諸島)」として6月8日「世界海洋デー」に国連に国として申請した壮大なキャンペーン。

国連に国として認められるには「通貨が発行されている」とか「20万人以上の国民がいる」などいろんな条件が必要なのだが、その条件をガチでクリアしていく一連のプロセスがキャンペーンになっている。アル・ゴアさんなどのインフルエンサーを巻き込みながら、通貨も発行しちゃうし、世界中から国民を募集し20万人に登録してもらっている。

環境問題などは自分ごと化されにくく、真面目なことを真面目にそのまま伝えても届きにくい。国連に国として認めさせるという壮大なエンターテイメントに人々を巻き込み、参加してもらうことでパーセプションチェンジしてもらうというアイディア。

この事例の学びは「壮大なことをガチでやり、そのプロセスを参加型のエンターテイメントとせよ」ということだろうか。人は楽しそうな遊びやお祭りには参加したいし、盛り上がっているのをみるとなおさらその輪に入りたくなる。そういうインサイトをうまく捉えていると思う。

02 The most German supermarket

こちらはゴールド。ドイツのEDACAというスーパーマーケットチェーンが店頭の棚から、ドイツ製品以外を取り除くという、至極シンプルなキャンペーン。

上記サイトにもある通り、ドイツ製品以外を取り除くと、棚はほとんどスカスカ。いかに海外製品で暮らしが成り立っているのかという気づきを提供し、多様性や人種差別についての議論を促したもの。

ドイツは最近人種差別を理由に、トルコ系のエジル選手がドイツ代表を引退したのも記憶に新しい。

この事例の学びは「ファクトをそのままファクトとして伝えるな。シンプルで強い絵をリアルな体験として提供する」ということだろうか。

「私たちの生活は多くの海外製品で成り立っています」と言われても正直ピンとこない。「スーパーで売られている製品の9割が海外製です」と具体的な数値を出されても、これでもまだ実感がわきにくい。実際に店頭でスッカラカンの棚を目の前にすることで、この強烈なファクトを否応なしに突きつけられ、その体験は人に伝えたくなるものとなる。

デジタルでの情報摂取量が増えてきているからこそ、リアルな場での体験価値が相対的に上がっている。その体験価値に加え、"1枚の強い絵"であることが、キャンペーンが自走する上で重要だと思う。ソーシャルメディアで情報が拡散される時代、シェアする方も、それも目にする方にとっても「説明しないとわからないもの」は不親切で好まれない題材なのだ。

アイデアはシンプルイズベスト、1枚の強い絵を提供できるかがポイント。

03** Black Supermarket**

こちらはシルバー。フランスのカルフールが実施したキャンペーン。EUでは農作物の品種制限の法律が厳しく、90%ぐらいが「イリーガル」とみなされる。人体に問題ないものであっても「イリーガル」とされてしまうことで、生産者にとっては深刻な問題。これも、カルフールが「イリーガル」な農作物を店頭で売ったというアイデア自体は至極シンプルなもの。

ただ、カルフールの問題提起によって、法律を変えてしまうことの一押しになり(法律改定はもともとその議論があり、カルフールのキャンペーンが直接的に影響したわけではないのだそう)、生産者の味方であるというブランド価値向上にもつながっている。

この事例の学びは「自社が問題提起する必然性のあるファクトを発見する」ということだろうか。自分たちがやる必然性があるからこそ、そこに意義が生まれる。その意義がブランドの価値を太くする。意義が感じられないものは生活者にただのソーシャルグッド的キャンペーンでしょ、と見透かされてしまう。「多様性」を人種や性や価値観だけではなく、「食」にまで広げたことも秀逸。

04** KFC "FKC"**

こちらはゴールド。イギリスのKFCで配送業者を変更したことにより、その企業の不手際で店舗にチキンが届かないという事態が発生した。その影響により、一時3分の2の店舗が閉鎖に追い込まれた。

その際に「問題を引き起こした全責任はKFCにある」ことを認めた謝罪広告を新聞に掲載したのだが、チキンを入れるバーレルのロゴが「KFC」から「FCK」(F●CKを連想させる)に変わっている、というこれもアイデア自体はシンプル。

ただ、伝統のロゴをいじるというインパクトと、KFCという企業も「悔しい思いをしているひとりの人間なのだ」という人格が感じられる自虐ユーモアが生活者に共感され、多くの生活者に支援される形となった。

この事例の学びは「有名企業が伝統的なロゴをいじり、それが生活者に共感されるコンテクストとなる」ということだろうか。ロゴをちょっと変えただけじゃないかって話なのだが、歴史あるブランドだとなかなか勇気がいると思う、それをやってのける大胆さ。「発見したら人に伝えたくなる広告」であることもクリエイティブが自走していく上で重要だ。複雑なものは気づかれない可能性もあるので、いかに発見してもらい人に伝えたくなるか。

前半のまとめ
・アイデアはシンプルイズベスト(複雑なものは伝わらない)
・ファクトはそのままファクトとして伝えるな
・壮大なことをガチでやろう、その時点で他の奴より先を行っている
・(真面目なテーマこそ)生活者を壮大なエンターテイメントに巻き込め
・シンプルで1枚の強い絵をリアルな体験として提供せよ
・自社が問題提起する必然性のあるファクトを発見せよ
・有名企業のロゴいじり→生活者に共感されるコンテクストに昇華
・シンプルでわかりやすい1枚絵が発見と拡散を生む、キャンペーンが
 自走するポイント





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?