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『この世界の片隅に』

◾️漫画の概要
舞台は戦争前後の広島。そこにだって幾つも転がっていた筈の「誰か」の「生」の悲しみやきらめきを淡々と描く。

◾️おすすめ
戦争モノの漫画・アニメ作品と聞くと、「火垂るの墓」や「はだしのゲン」など、辛く悲惨な状況でも健気に生きていく人々のイメージが強いです。もちろんそれを否定するつもりはなく、過去のことを知るうえで重要な資料のひとつです。

この作品も、辛く悲惨な状況で健気に生きていく人々の物語ですが、また違った印象をうけます。舞台は戦時中の広島・呉。ジャンルは基本日常系ギャグマンガです。

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肩の力を抜いてくれるのは、お話の中心のすずさんが、のほほんとしていてちょっとどんくさいところ。

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天秤棒でお隣さんをのしてしまったり、小さい子に張り合って雨樋に小松菜の種を試験栽培してみたり、お義姉さんの着物を裁ち間違えたり、迷子になって途方に暮れて道にスイカやキャラメルの落書きをしてみたり…。

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戦争の火に蹂躙されることもあれば、しなやかに受け流すこともあります。空襲警報の避難でお米がナマ煮えにならないように、避難前に火無しコンロにかまどを包んだり、海軍工廠の解体とともに退職金がわりに勝手にクワを作って持ち出して来たり。
何度も空襲警報が流されればあくびも出てしまうし、お腹がすけば占領軍の残飯雑炊でもおいしい。戦争に気張らず等身大の人間を描いています。だから、辛いはずの戦争マンガでもふしぎとヒリヒリとした感じを受けません。

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ですが、やはり戦争に奪われるものも描かれます。

すずさんは、何に怒りながら焼夷弾の火を消し、何を思いながら畑で泣いたのでしょうか。それはひたすら戦争に対する思いではなく。
突然連れてこられた呉、突然奪われた晴美さんと右手、水原とりんの存在、いろいろな想いが混ざり合って、感情があふれています。だからあの戦争を経験したことのない我々でも、すずさんの日常を追体験している分だけ、少しだけその気持ちを汲み取ることができるのではないでしょうか。


好きなシーンは手際よく節約レシピを作るところと、

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 間諜行為を疑われて神妙な顔をしてしまうところ。

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「戦争しよってもセミは鳴く。ちょうちょも飛ぶ。」

これは映画のみ挿入されるフレーズですが、端的にこのお話を表している言葉に思います。映画もおすすめです!

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