『シャーレンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』
『「シャーレンフロイデ」は、誰かが失敗した時に、思わず湧き起こってしまう喜びの感情のことです。』
妬み、嫉み、いわゆる「メシウマ」「人の不幸は蜜の味」というやつです。
”幸せと絆のホルモン”オキシトシン
愛着を形成するホルモン、オキシトシン。他者との接触によって分泌されるこのホルモンは、癒しをもたらし、痛みを和らげ、女性を母親たらしめます。また、他者との交流のハードルを下げ、所属する集団への向社会性をもたらします。
ムラ、国家、一族郎党、株仲間、無尽講、隣組、企業、ライングループ―。人類は有史以来、自然災害、飢饉などの脅威や困難に対して、群れやまとまりを作ることで生き残ってきました。「集団の圧力に屈することは快感」であり、その集団形成にオキシトシンが作用してきました。
集団を維持するには、ルールや規律が必要です。ルールを破るものは、集団にとっては害悪です。『「不謹慎な誰か」を排除しなければ、集団全体が「不謹慎」つまり「ルールを脱した状態」に変容し、集団そのものが崩壊する恐れが出て』きます。
”快楽のホルモン”ドーパミン
『自分だけは正しく、「ズルをしている」誰かを許せない。だから、そんなやつに対しては、俺/私はどんな暴力を振るっても許される。そんな心理状態によって実行に移される行動が「サンクション」です。』
はみ出し者を叩くことは快感です。その快感は、ドーパミンの分泌によってもたらされます。『「悪」を攻撃している〈わたし〉は素晴らしい』。たとえその攻撃にリスクがあろうと、反撃をうけようと、同調から外れた異分子を追い詰めます。集団を維持するために、ヒトはそこに強い喜びを感じるようになり、その遺伝子によって今の我々人類があります。
『「不謹慎なヒト」を検出して攻撃するのが、シャーレンフロイデという感情』
シャーレンフロイデ
いままでの集団が分断され、物理的に「個」となることが求められています。団結すること、One Team、絆といった言葉で表され、これまで是とされてきたことは「密」であり、「新しい生活様式」に移行することは想像以上の苦痛や困難を強いられるかもしれません。
ポリコレ棒を振りかざした自粛警察は、外出というリスクを取りながらも感染防止を訴えるために、自粛しない不謹慎に対し弾圧を強めています。
すでに、自粛警察ですらその行動が叩かれ始めています。各人にそれぞれの正義があり、その正義を裏打ちするための集団があるため、排除の連鎖はやむことはなさそうです。
集団というものが見えにくくなった今、それによって困難を乗り越えてきた我々は混乱と不安に陥っているのでしょうか。その状況からなんとか自分を守るための防衛機制が、シャーレンフロイデという形で働いているのかもしれません。
中野信子『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』(幻冬舎新書,2018)