ivy の IVY LOOK | issue 58 「金曜日のコロッケカレーそば」
金曜日はお出かけしたい。たとえ約束がなくたって、誘われていなくたって。神田の夜は意外と長い。朝5時までやっているバーもあるし、終電という概念がない地元のメンバーや端から朝までいるつもりの常連が迎えてくれる。顔がわかるメンバーか、そもそも一人で来ることが前提だから、渋谷や新宿で朝まで過ごすよりはるかに安心感がある。
そんな金曜日の多幸感に任せて、朝までの店へ繰り出す前、一軒〆(中締め?)をはさみたい。ラーメンもいいけれど、こってりしたやつはちょっとしんどい。もう少し落ち着く味が食べたいときには、神田駅前の立ち食いそば屋『天亀』へ向かう。地銀通りのオフィスビルに挟まれた、今にも崩れそうなバラック風の建物と色褪せた暖簾が長い歴史を物語る小さな店。
たぬきそば、げそ天そば、カレーうどん … 立ち食いそば屋の定番が並ぶ。お気に入りはコロッケそば。なんだろう、あの妙な安心感は。少し硬めに揚がったコロッケをめんつゆに浸してふにゃふにゃになりきらない状態で齧りつくのがすごく好きなんだ。最初にコロッケはすべて食べてしまうから、ほとんどそばと同時に食べていないんだけど、組み合わせとしてはアンバランスなんだけどなぜか好き。
そういえば、つい先日は「カレーそば」を頼んだ。
なんとなく、根拠はないけれど、カレーにはそばじゃなくうどんだろ、という先入観、あるじゃない?実際そばを選べるのを知っていてもうどんで頼んでしまう。食べてみたら、悪くないの、これが。立ち食いそば屋の柔らかめなそばがカレーの重ためな汁によく合う。うどんよりも華奢な麺には汁がよく絡んで、理に適った組み合わせだ。
そうそう、お気に入りのコロッケそばだって、カレーとかけあわせたらいい。駅のカレー屋さんで食べるコロッケカレーってめちゃくちゃ旨いじゃない?その延長で、カレーそばにコロッケをトッピングしたらカレールゥに漬け込んだコロッケが食べられる。
昼間はサラリーマン、夜は酔客で、賑わう…とまではいかず、適度な客入りが途絶えない『天亀』。特筆して何が他と違う、とかではないんだけど…よく考えたらこういう昔ながらの立ち食いそば屋ってあまり残っていないのかも。昼も夜も、何なら朝も。24時間営業で同じメニューにありつけるから、行きたいときに行っておきたい。いつでも行けるけれど、いつまでも行けるとは思わない方がいい気がする。
イラスト:あんずひつじ