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on the road to eclipse #05 『Kingman Dr D's Jerky』 by 熊谷義朋(写真家)

その日の車の中は空前のビーフジャーキーブームだった。

時間を少し遡って、キングマンに着く前、
ロードサイドの商店で購入したビーフジャーキーが思いの外美味しく、一緒に移動している荒井さんと大野さんはずっと車の中で、ビーフジャーキーの話ばかりしていた。

荒井さんは皆既日食を7回も自分で体験している大ベテラン(今回のアメリカが8回目!)で、皆既日食エバンジェリストを名乗っており、皆既日食の良さを皆に伝える活動をしている。
大野さんは映画監督で今回はそんな荒井さんのドキュメンタリーを撮影している。

大野さんは、ビーフジャーキーが美味しすぎて、新たなジャーキーを求めて、キングマンにジャーキー専門店がないか検索していた。
僕は正直そんな都合よくそんな大きな町でもないし、ジャーキー屋なんてないだろうと思って斜に構えて、後部座席で仕事をしていた。

それから10分ほどたった頃

「あった!」

車の助手席で大野さんが声をあげる。
なんとキングマンにビーフジャーキー専門店があったようだ。

まさかの出来事に車内は俄然湧き上がった。
まさかビーフジャーキーでこんなに盛り上がるとは思わなかった。
そして車はキングマンに着き、前回の話のガソリンスタンドによった後、ビーフジャーキー屋に向かったのだ。

ガソリンスタンドを出る頃には天気は下り坂になっており、雨が少しパラついていた。
ビーフジャーキー屋は鉄道沿いの街道から少し入った、小さな建物だった。
ベージュの建物に青い看板がでており、白色で『Dr D's Jerky』と書いてある。
車を店の目の前に停める。
赤い旗が建物の横に立っており、大きく『OPEN』と書いてあって、中古自動車屋みたいな旗だなあと感じた。

マジックミラーのシートが全面に貼ったドアを開けると、
中はスッキリとした造りだった。
簡易的なカウンターがあり、その右側に謎のワインの棚、
左側にはビーフジャーキーとポップコーンが並んでいた。
不思議なラインナップだ。

僕らはお互いに顔を見合わせながら、中に入り、商品を見ていると、

「Hello!」

カウンターの奥から声がして、店員の男性がやってきた。
ハーバード大学のえんじ色のカレッジTシャツに全く同じ色のズボンを履いている。
白い髭をふんだんに蓄えていて、
目がギョロギョロとこちらを見ている。
この人が ”Dr D" だろうか。

男性はカウンターから出てきて、「どこから来たんだ」と聞いてきた。
僕らは素性を説明し始める。
それを一通り聞いた後、今度は彼が自己紹介を始める。
全体的にモーションが大きく、声もよく響く。
彼の名前はラッセルLデリュード。
ビーフジャーキーが好きで、思いが溢れてジャーキー屋を始めたナイスガイだ。
無添加で美味しいビーフジャーキーを!と高い熱量で語ってきていた。
なんと、ジャーキーもポップコーンもワインもすべて無添加だそうだ。
そしてなんと分子生物学の博士号を持っているらしい!
そう。まさしく彼が ”Dr D" だったのだ。

確かに、よく周りを見てみると、
店の中には謎の化学式の走り書きが所々にあった。
もしかしたらビーフジャーキー作りと分子生物学が何か関係してるのかもしれない。

「工場も見てみるか」

ラッセルが僕らを誘ってくれた。
もちろん見に行くことにする。
カウンターの奥側が小さな工場になっていた。

ゾロゾロと中に入ると、きちんと整理整頓された空間、
一つ一つの機械や物が自分のいるべき場所に収まっているようだ。
ラッセルはそれらの役割を説明してくれる。
身振り手振りはすごく大きく、少しだけ圧倒されてしまう。
ただ、ジャーキーへの愛は溢れんばかりだ。

話の途中で是非食べてみろと、
袋詰めの作業の途中であろうビーフジャーキーをいただく。
思ったよりもすごく優しい味がして美味しかった。

「身体に負担がない、本当に美味しいジャーキーを広めたいんだ」

僕らは結局ジャーキーとワインを買って、お礼を伝えて店を後にした。
外に出るとまだ曇り空だが、
雨は上がっていた。


熊谷義朋(くまがいよしとも)
1982年 福岡県生まれ
2011年 独立
2016年3月 個展 "SOIL" @ APART GALLERY & LIBRARY
https://www.kumagaiyoshitomo.com
https://www.instagram.com/kumagaiyoshitomo



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