![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/140813148/rectangle_large_type_2_37286554060d6bf2f33b57972105eaeb.jpeg?width=1200)
on the road to eclipse #05 『Kingman Dr D's Jerky』 by 熊谷義朋(写真家)
その日の車の中は空前のビーフジャーキーブームだった。
時間を少し遡って、キングマンに着く前、
ロードサイドの商店で購入したビーフジャーキーが思いの外美味しく、一緒に移動している荒井さんと大野さんはずっと車の中で、ビーフジャーキーの話ばかりしていた。
荒井さんは皆既日食を7回も自分で体験している大ベテラン(今回のアメリカが8回目!)で、皆既日食エバンジェリストを名乗っており、皆既日食の良さを皆に伝える活動をしている。
大野さんは映画監督で今回はそんな荒井さんのドキュメンタリーを撮影している。
大野さんは、ビーフジャーキーが美味しすぎて、新たなジャーキーを求めて、キングマンにジャーキー専門店がないか検索していた。
僕は正直そんな都合よくそんな大きな町でもないし、ジャーキー屋なんてないだろうと思って斜に構えて、後部座席で仕事をしていた。
それから10分ほどたった頃
「あった!」
車の助手席で大野さんが声をあげる。
なんとキングマンにビーフジャーキー専門店があったようだ。
まさかの出来事に車内は俄然湧き上がった。
まさかビーフジャーキーでこんなに盛り上がるとは思わなかった。
そして車はキングマンに着き、前回の話のガソリンスタンドによった後、ビーフジャーキー屋に向かったのだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1715849337688-772qFndO6a.jpg?width=1200)
ガソリンスタンドを出る頃には天気は下り坂になっており、雨が少しパラついていた。
ビーフジャーキー屋は鉄道沿いの街道から少し入った、小さな建物だった。
ベージュの建物に青い看板がでており、白色で『Dr D's Jerky』と書いてある。
車を店の目の前に停める。
赤い旗が建物の横に立っており、大きく『OPEN』と書いてあって、中古自動車屋みたいな旗だなあと感じた。
マジックミラーのシートが全面に貼ったドアを開けると、
中はスッキリとした造りだった。
簡易的なカウンターがあり、その右側に謎のワインの棚、
左側にはビーフジャーキーとポップコーンが並んでいた。
不思議なラインナップだ。
僕らはお互いに顔を見合わせながら、中に入り、商品を見ていると、
「Hello!」
カウンターの奥から声がして、店員の男性がやってきた。
ハーバード大学のえんじ色のカレッジTシャツに全く同じ色のズボンを履いている。
白い髭をふんだんに蓄えていて、
目がギョロギョロとこちらを見ている。
この人が ”Dr D" だろうか。
男性はカウンターから出てきて、「どこから来たんだ」と聞いてきた。
僕らは素性を説明し始める。
それを一通り聞いた後、今度は彼が自己紹介を始める。
全体的にモーションが大きく、声もよく響く。
彼の名前はラッセルLデリュード。
ビーフジャーキーが好きで、思いが溢れてジャーキー屋を始めたナイスガイだ。
無添加で美味しいビーフジャーキーを!と高い熱量で語ってきていた。
なんと、ジャーキーもポップコーンもワインもすべて無添加だそうだ。
そしてなんと分子生物学の博士号を持っているらしい!
そう。まさしく彼が ”Dr D" だったのだ。
確かに、よく周りを見てみると、
店の中には謎の化学式の走り書きが所々にあった。
もしかしたらビーフジャーキー作りと分子生物学が何か関係してるのかもしれない。
![](https://assets.st-note.com/img/1715849337655-vo0nSCDHXG.jpg?width=1200)
「工場も見てみるか」
ラッセルが僕らを誘ってくれた。
もちろん見に行くことにする。
カウンターの奥側が小さな工場になっていた。
ゾロゾロと中に入ると、きちんと整理整頓された空間、
一つ一つの機械や物が自分のいるべき場所に収まっているようだ。
ラッセルはそれらの役割を説明してくれる。
身振り手振りはすごく大きく、少しだけ圧倒されてしまう。
ただ、ジャーキーへの愛は溢れんばかりだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1715849337617-rg8DEjevMH.jpg?width=1200)
話の途中で是非食べてみろと、
袋詰めの作業の途中であろうビーフジャーキーをいただく。
思ったよりもすごく優しい味がして美味しかった。
「身体に負担がない、本当に美味しいジャーキーを広めたいんだ」
僕らは結局ジャーキーとワインを買って、お礼を伝えて店を後にした。
外に出るとまだ曇り空だが、
雨は上がっていた。
熊谷義朋(くまがいよしとも)
1982年 福岡県生まれ
2011年 独立
2016年3月 個展 "SOIL" @ APART GALLERY & LIBRARY
https://www.kumagaiyoshitomo.com
https://www.instagram.com/kumagaiyoshitomo
いいなと思ったら応援しよう!
![縁側 by PARK GALLERY|オンラインマガジン](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/19299440/profile_1bfa5c6f0a84e3039e1ebbe2253498d4.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)