『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #49 『赤色エレジー』 林静一
2024年10月3日の一冊
「赤色エレジー」林静一(小学館)
文学や映画や演劇、そして音楽、それぞれが相互に創作のみなもととなって生み出された作品は数知れない。文化が混じり合って互いに影響を与え、それがさらに観る者の心を揺さぶる。刺激を受けたその者がまた別の何かを表現する。
そういった連鎖の結果や、その過程を知ることもまた、”文化” というものの楽しみの一つでもあるだろう。
今日の一冊は、林静一による漫画『赤色エレジー』。
1970 年から 71 年の一年間、漫画雑誌『ガロ』に連載した劇画。
アニメ業界の底辺で日々を生き抜く二人の男女の恋の行く末を、繊細な破壊力を放ちながら、普遍的でいてドラマティックに描いた情緒の響き合う漫画作品。
この作品もまた、一人のフォークシンガーに多大なる影響を与えた。1972 年に発表された、あがた森魚が歌う『赤色エレジー』。林静一の『赤色エレジー』をモチーフに制作され大ヒットし、その時代の風俗を象徴する作品となった。いわゆる四畳半フォークの代名詞だ。
時代の混沌とした空気感は僅かに匂わせる程度に、物語の舞台は二人がともに暮らす畳の部屋、布団の上がほとんど。ぽつりぽつりと、日々同じ部屋に帰ってくるものの、心の中で渦巻く感情は波のように押し寄せたり引いたりする。
映し出されるのは後ろ姿や横顔ばかりにも関わらず、そのうずくまる背中や膝を抱きかかえて苦悩する若者たちの表情が手にとって感じられるようなヒリヒリとした感傷的な描写。
シンと静まりかえった画面の中に生きる若者たちの瞳は、涙でわずかに潤んでいたり光っていたりする。ような錯覚が生まれる。読んでいるこちらが、身に覚えのあるシーンを目の当たりにし、気付かぬうちに鼻を啜っているのかも知れない。
コマ割り、画面構成、台詞の間など、専門的な?部分の評価をするなどして、如何にして世のあらゆる漫画と一線を画しているのかを語るのはあまりに野暮だとさえ思う。この連載《つれづれ読書録》に取り上げたいものの、あまり多くを語りたくはない。そういう言葉にならない複雑さを抱えて悶々と考え込んでしまいたい。わがまま‥
季節の変わり目、雨の夜、枕元の読書灯のみを照らして、孤独に読み耽る時間。そういうひと時を過ごしたいと思う自分への、褒美であり癒しであり報いである。『赤色エレジー』はそんな作品なのだと私は思う。
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『赤色エレジー』弊店に入荷しております。これを機に読んでみたいという方、是非に通販ページをご覧ください。
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いつも読んでくださりありがとうございます。週に一度、毎週木曜に更新しているこの連載は、次回で 50 回目となります。そんなに続けられたなんて、自分で自分を信じがたい‥喜んでおります。いつか感想なんぞもいただけたら励みになります。気が向いたときにでも、なんでもお寄せくださいませ。