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よむラジオ耕耕 #24「みんなの悩みが膨らんで」


作品持ち込むのはいいけど
『目的』は持ってね

いつも楽しみに聴いています。私は東京在住でフォトグラファーとして活動しているものです。近年、SNS やウェブサイトで作品・作風を見て仕事につながるケースが多いときいていますが、『もの』としてのポートフォリトを持ち込んで見てもらうというのを改めてきちんとやってみようと準備しているところです。加藤さんは今でも持ち込みを受けることがありますか?
また過去に、マネジメントをした経験や、クリエイターへ仕事を発注する立場から、持ち込み時のマナーやポートフォリト作りのアドバイスなどあればいただければうれし​いです。

東京都在住 匿名希望 40代

加藤:お便りありがとうございます。今でも会ってポートフォリトを見せてもらうこと多いですが、確かに最近 SNS とかウェブで見て仕事を頼むことが、写真に限らず増えたなというふうに感じていますね。同業者から聞いてもそういうやり方をしているひとが多いし、ただ SNS で見ただけだと、ひととなりがわからないから、その作家と「つながっているひと」に相談したいという事例も増えていますね。例えばギャラリーをやっていると「加藤さんのお知り合いの作家さんで、今回の案件に合うひといますか?」みたいなことはよく聞かれます。加藤さんとつながっていて、良しとするならば採用してもいいかも、みたいな。安心できるよね。つまり SNS での採用は増えてきているけれども、見えない部分があるので危うさもあるという⋯。実際 DM で発注してみたら全然コミュニケーションが取れなくて困ることもあるしね。Instagram に載ってる作品がいくら良くても仕事したことないとマナー知らなかったり、求められている絵がわかっていなかったり⋯。

星野:確かにそれは困りますね。

加藤:なので、この相談者の方がやろうとしている『ポートフォリオ(作家の資料)』を直接持ち込むということは、逆に今の時代いいんじゃないかなという印象がありますね。やはり、会いに行って顔を合わせれば自然と話すことにつながるし、話をすると、何も知らないひと急に会って仕事するよりはよっぽど安心できるし、その方の息づかいやファッションを含め、信用につながったりもあると思うので。

星野:持ち込んでも何も問題なさそうですね。

加藤:いや、ひとつ問題があるとするならば、持ち込みは『相手の時間を取ってしまう』ということですね。

星野:なるほど。

加藤:僕はかれこれ20年近くこの業界にいるから、アポ取りの連絡が来て日時を約束して持ち込みを受け付けるっていうのは当たり前だと感じるけれども、一方でネットになれてるひととかだと鬱陶しく感じるひともいるのかも。だから個人差はあるかもしれませんね。もともと、会って作品を見せるの煩わしいなって思ってるひとたちが、その煩わしさをなくすために、Instagram にポートフォリオを載せたりしているだろうし、逆もしかりで。SNS を見てオファーするのが増えたって言うのはやはり対面で会うのに煩わしさを感じ出したのかも。

星野:僕も SNS はチェックしますが、展示する作家さんには改めてポートフォリオを絶対に見せてもらいますね。オンラインの中だけで展示するわけじゃないので、むしろ持ってきてくれた方が展示のイメージがしやすいですね。

加藤:僕も、SNS を見て展示を決めることがあるけれど、やっぱり会うまで不安は残るかなー。ギャラリーに持ち込んでもらって作品を見せてもらいながら展示を決めた場合は絶大な信頼を寄せてる。何かあったらお願いがしやすくなるというのは事実。なので、煩わしく感じるひともいれば、星野くんみたいに会いたがる例もあるし、だから先方がフィジカルなタイプなのか、インターネットタイプなのかを見極めることが大事で、それ次第ではどんどん見せに行ってもいいんじゃないかな。

星野:どうやったら見極められますかね?

加藤:SNS で積極的に発信をしているディレクターや編集者、デザイナーは比較的アクティブなんじゃないかな。顔出していたり、友人と映っている写真をあげていたり、交流型な気がする。もちろん全員が会ってくれるとは思わないけれど、昔って SNS がなかったから DM でアポ取りとかってあんまりなかったんだよね。電話かメール。それって結構無視されることも多くて。DM で試しに聞いてみてもいいのかも。まぁもちろんメールでもいいと思うけれど。とにかくアタックしてみて返事で判断してもいいかもだけどね。あとは噂も大事じゃないかな。情報交換。作家同士で。「あの人はいい人そうだったよー」とか。

星野:なるほど。まぁでもまずは聞いてみるのが一番ですかね。

加藤:そうだね。ただ、あとは、持ち込んでもらえるのはうれしいんだけれども、何を見てほしいのかわからないような場合がある。で?どうしたいの? みたいな。だから、何が目的でポートフォリオを見せに来ているのかは明らかにしたほうがいいと思う。仕事がしたいのか、ただただ感想がほしいのか、アドバイスがほしいのか。これがわからずぼーっと立ってしずかにファイルをめくるだけの時がある。あれは辛い(笑)。

星野:ポートフォリオを持ち込む理由を明確に、ですね。

加藤:です。うちのギャラリーはアドバイスも展示への相談も受けますので、これらを踏まえた上で、ぜひ持ち込んでください。

ひとりならコア
みんなでならマス

ラジオパーソナリティに憧れがあり、挑戦してみようと思っています。まず、自分で(ソロパーソナリティとして)はじめてみたいのですが、ラジオをはじめる上でのテーマ選びで悩んでいます。長続きするように、いろいろな話にアプローチできる抽象的なテーマにするか、一部のひとに向けた具体的なテーマにするか悩んでいます。アドバイスいただければ幸いです。また、ラジオをはじめる上での初期投資費はどれほどか、耕耕での例を参考にさせてください。

東京都在住 匿名希望 20代

加藤:どうですか。星野くんはリスナーとしてどんなラジオを聞きたいですか?

星野:そうですね。僕はひとりのラジオをそんなに聞かないかもしれません。

加藤:僕もそうかも。ひとり語りを聞くのって、ぶっちゃけ、難しくない?パワーバランスがあって、聞き手がいるラジオの方が聞きやすい気がする。

星野:そうですね、ひとりでも裏方(放送作家)みたいなのが聞いてくれてて、とかだと、聞きやすい気がする。あとは、声がいいひと、睡眠導入とか朗読のはよく聞きますけれど、ひとり語りってよっぽど話術がないと難しいですよね。テーマは抽象的なテーマが良いんですかね?

加藤: ポッドキャストはコアなテーマがいいよね。なんとなく広いんじゃなくて、このチャンネルはこのジャンルに特化しているというような、あなたのマニアックの声に応えますというような感じが良いと思う。ただラジオ耕耕みたいに「ふんわりカルチャー」みたいなのは続けやすい。リスナーが増えるうんぬんというより、話側としては一生話せますよね。カルチャーが尽きることなんてないんだから。僕らのモチベーションがある限り続けられる。

星野:巻き込んでいくのもいいなと思いました。自分がこうやって耕耕に携わって。少しづつ変わっていくのがおもしろい。

加藤:ソロでやるならコアな話、もしパートナーを探そうかなと思うなら広いテーマでみんなを巻き込んで広げてマスにしていくのがいいと思う。ソロなら変態かというほど特化した方が、僕は応援したくなる。

星野:費用に関してはどうですか?

加藤:初期費用に関しては、僕らはイレギュラーで、ギャラリーでよく音楽イベントをしていて、その機材を流用しているので、はじめるにはほとんどかかっていないんですが、僕らが使っているのはマイクやミキサー、パソコン。パソコン代を入れなければおそらく1〜3万で足りますよ。ちなみにクオリティを気にしないのであれば iPhone のボイスメモで収録してパソコンで音をちょっと調整すれば聞けるものになります。ひとりだったら iPhone でもいいかも。全然ストレスなく聞けますよ。その辺は調べるといっぱい情報出てくるので、ぜひマイクの種類とかは探してみてください。

『無邪気さ』を忘れない

私は美術系の学校でちゃんと絵画を学んだことなく、今も独学で好きなように描いて表現しています。しかし美術の知識がないなら誰かに師事(弟子にしてもらって学ぶ)した方が良いとも言われ、少し悩んでいます。デッサンなど、表現の幅を広げるために必要だと思ったことは、最近はネットで調べたり、近くで絵を描いているひとに聞いたりしていますが、どう思いますか?

鹿児島在住 20代 ラジオネーム 琴さん


星野:琴さんからのお悩みを、SNS に投稿したところ、コメントをいただいていますので、紹介していきます。

「知見の豊かさは武器になるので勉強は必要。一方、型にはめられることで無邪気さを喪失するリスクはあると思います。」

加藤: まさにこの方のおっしゃる通りで、勉強しない良さというのは、無邪気さだったりももちろんあるけれど、アウトサイダーアートやアートブリュットにも見られるように、一度学んでしまうとできない表現というのは、世の中にちゃんと存在していて、一定の評価を受けているという事例もあると思うんですよね。ただ、時代性も考えると知識はあった方が本当は良いし、技術を磨くための経験や、効率的な修練の機会はあった方がいい。そういう意味では、例えば、大学に行くとかカルチャースクールで絵を学ぶのはおすすめしたいですね。『学術的に学ぶ』ということだと思うのですが、しないより、した方がいいと思っています。独学ももちろんいいのですが。

星野:なるほど。

加藤:一方で問題は、学術的な学びを受けながら独学の武器とも言える「無邪気さ」を失わないようにする、ということだと思うんだけれど、そのためには、やはり好きでいるということが大事なんじゃないかと思う。ずっと好きでいる。自分のことが好きだと錯覚し続ける。常に発見をする。感動をする。そのためには情報を自分の好き嫌いで絞らず、いろんなものを見て、いろんなものをひたすら描いてみる。その流れの中で「描く意味」を強めることが大事だと思います。自分の中の『創作意義』を持つこと、その意義を貫くためにとにかく描く。それで作家としての態度が担保できるならば、勉強しようがしまいが関係ないんじゃないかなと思います。だから今回言えるのは、好きであり続けるために、好きなように描き続けるために勉強するということでしょうか。自分の無邪気を常に引き出すには、知識と経験で邪気にまみれていく自分を騙さないといけないですから、そのためのスキルと考え方が必要なのかと思います。

星野:でも、学びたいと思っても、場所にもよるのかもしれませんね。琴さんは鹿児島の方なので、やはり地方と都市の(設備や環境の)落差というのは、生まれてしまうのかもしれません。

加藤:確かに。そればかりは実際に住んでみないと解決策はわからないかもなぁ。もしリスナーの方で地方に住んでいたけれど、こういうふうにして乗り越えましたよなどという経験のエピソードがありましたら、ぜひ、ラジオ耕耕までお送りください。あと、ごめん、最後に意地悪な言い方をするけれど、学んでいるとか学んでないとか、環境の良し悪しを言い訳にするのは、その時点でよくないのかもしれない。学ぶか学ばないか以前の問題かも。ほかの誰かみたいになりたいわけじゃあないでしょうから、自分らしくあるのに美大は必要ではないわけだし。僕だってそうです。まずは絵の前に自分らしさ、かなと思ったり⋯。

星野:いやあ。ハッとしました。

加藤:学校行くのも大事だけれど、自問自答を繰り返して、自分らしさ、というのを見つけて、これから先、どうするかをガイドしていく方が琴さんのためになるかなとおもいました。学校はそのあとかな。

おしまい

よむラジオ耕耕スタッフかのちゃんによる文字起こし後記

「カルチャーが尽きることなんてないんだから」
加藤さんがさらりとおっしゃった今回のこのひと言が、胸に熱く響いた。
アートカルチャーについて、自分より遥かに凄まじい経験量と、日々の情報を得ているだろう加藤さんがおっしゃるこの言葉は、趣味・仕事としてアートカルチャーに関わる者として、絶望の少ない、光のような言葉だった。

また、数多くの質問の中、鹿児島在住の琴さんの質問について、私も思うところがあったので少しだけ。

私自身、まだ美術に見向きもしない人生を過ごしていた時、鹿児島の美術館で見た企画展示に突き動かされ、単身上京し、大学で美術を学んだ。絵画研究の類である。

上京の理由としては「日本で一番絵画が集まるのは東京だから」という、あまりにも明白かつ淡白な理由からだったのだが、やはり地方の文化的施設の少ない環境で育った私にとって、東京での日々はあまりにもありがたく、尊い経験となった。

今日も東京の美術館のどこかで、何かしらの展示が行われている。美術館でなくとも、数えきれないほどの画廊やギャラリーでもそうだ。機会はそこらじゅうに落ちている。

自分の領域を超える知見を得るために、最も単純な方法は、未知の場所に身を置いてみることだと思う。見るもの、聞くものの全てがあたらしい経験となるからだ。しかし、それを知識とするか、ただの混沌とするかは、その地へ立つまでに、どれほど自身を深掘りし、必要なものが何なのかを見極めることができるかできないかではないだろうか。

と、制服でただ海を眺めていたころの自分に対して思う。

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