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よむラジオ耕耕 #29 『床に落ちたパンにはキスを』

💁 こんなひとにオススメ:食べることが好き。おいしいものが好き。おすすめのご飯屋さんがある etc… とにかく食について語る回です。

加藤:今週はゆったりと食のカルチャーについて話していければと思っています。みなさんから「忘れられない味」についてのお手紙をいただいているので紹介していきます。それではまず1通目。

私がこれまでの人生で食べてきた物の中で、印象に残っているものは「梨」です。これは母がもらってきたものなので値段や品種はわからないのですが、これまでで食べてきた梨の中で最上級においしかったです。とても小ぶりだったのですが、梨のすべてを閉じ込めているような味を今でも覚えています。また食べたいなあ。

東京都 匿名希望 20代

加藤:これぞカルチャーだね(笑)。名前のついていない梨。これを愛でて、しっかり覚えていて。ブランドのくだものもいいけれど、誰かからもらったり、あとは誰かに皮を剥いてもらって食べるとか、そういう体験に価値を感じられる素晴らしいエピソードですよね。

星野:値段とか品種とか、うたい文句があるとバイアスがかかってしまうから。純粋においしかったんですね。

加藤:ほんとだね。梨が甘かった時って本当に感動するよなぁ⋯。

いつも楽しみにしています。私の感動した食体験は、エストニアのRataskaevu 16(ラタスカエヴ 16)というレストランで食べたごはんです。はじめての海外旅行だったから印象深いというのもありますが、味のおいしさだけでなく、店員さんの接客にグッときました。にこやかでていねいな対応はもちろん、頼んだお茶のカップの下に、手書きのイラストのベースペーパーが敷かれてあったり、お会計の時にもらったレシートに手書きのお礼のメッセージが書かれていて、とてもあたたかな気持ちになりました。店員さんの接客も素敵な食体験を語るのに必要な要素の1つなのかもしれないなと思いました。ちなみにその時いただいたのは、「黒パン」「サーモンのグリル」「にんじんのポタージュ」「紅茶」でした。

長崎県在住 あずきさん 30代

加藤:黒パンってなんだ!

星野:これ、調べてみました。黒パンとはエストニアでは伝統的な料理らしく、小麦を使うのが白パン、ライ麦を使うのが黒パンだそうです。すごくおもしろいのが、エストニアでは黒パンを床に落としたらキスしてあげないといけないと言われるくらい大切にされてきたものらしいです。

加藤:落としてごめんねって謝るくらい、ライ麦もそれで作った黒パンも大事にしてきたんだね。

星野:あと、日本の「いただきます」みたいに、エストニアでは「Jätku Leivba(ヤトゥクレイバ)」という言葉があるらしく、「パンも食べ物も命もずっと続きますように」という意味らしいです。このお店も、有名なお店だそうです。

加藤:エストニアってどこだっけ。

星野:北欧の方。フィンランドの下らしいです。

加藤:長崎からお便りが届いたことに驚きながらも、エストニアの情報が届いたことに混沌が生まれているね。でも、こういう「私だけの体験」「私だけの梨」って、すごく豊かだしうらやましいね。だってお金じゃ買えないからねー。

あまり味覚に自信はないので、素材の話になってしまうのですが、川や海で釣った魚をその場で塩焼きにして食べるのが好きです。高級な料亭で食べるお魚もきっとおいしいと思うのですが、自分で釣ったというのがおいしくさせているのだと思います。ちなみに、最近 EP1から少しずつ聞いていますが、加藤さんの過去のエピソードがおもしろくて、もっと聞きたいです。

神奈川県 ルックバックさん 30代

加藤:味覚に自信がないというのは結構多いと思います。ぼくもそんなにおいしいものを見極める力があると思っていないし。今回、食の体験はしていても、私の味覚なんて⋯私が選んだ食なんて⋯と思って躊躇したひともいるんじゃないかな。これがおいしい!と言い切るのって実は意外と難しい。星野くんはどうですか?

星野:釣りとかそんなにしたことないんですよね。素材の話で言えばおじいちゃんが畑をしているので、きゅうりやにんじんをもいで食べています。このあいだ、ぬるいトマトをはじめて食べました。

加藤:冷やしトマトじゃないトマト(笑)。

星野:そうなんですよ。だいたいトマトって冷やされていたり、調理されて何かに入ったりしてますからね。ぬるい野良のトマトははじめて。でも、甘さが全然違うんだなと思いました。ぬるい方が糖度が高く感じられました。じいちゃんがもいでくれた「体験」によるものもあると思いますが、濃かった。

加藤: 冷やされてるのが好きだな(笑)。 

星野:加藤さんは何かありますか?

加藤:このあいだ、パークギャラリーの合宿じゃないけど、みんなで島に行ったんですよ。東京の「式根島」。伊豆大島よりちょっと先で、八丈島より手前。小さな島なんですが、そこでミウラユウタくんっていう、耕耕のポスターを手がけてくれているデザイナーも来てくれたんだけど、彼は釣りが好きで。2泊で行ったんだけど、1泊目は島の居酒屋でご飯たべて、2泊目はみんなでキッチンのある貸別荘を借りていたので、みんなで釣りをして、釣れたものを食べましょうと。それでみんなで釣り大会をしたんだけど、熱帯魚みたいなのしか釣れなくて(笑)。黄色と黒のシマシマの魚とか。食べると体がシマシマになってしまいそうな、そんな特殊な魚ばかり釣れる。でも、隣で釣りをしているひとたちはカンパチやアジとかヤガラとか釣ってて⋯。可能性は十分にあるのに、ぼくらだけ熱帯魚30匹み。食べられるらしいんだけれどね。でもせっかく島に来たのだからもっといいお魚食べたいよねと思って、近くのスーパーに行ったら朝釣れたと書かれた大きな金目鯛が売っていたのでそれを買ってきて、みんなでお刺身としゃぶしゃぶを食べました。釣ったわけではないけど、すごくおいしかった。みんなで1つの体験をプロセスとして通して食べるご飯はおいしい。金額も都内の半額ほどでした。

中1の調理実習で、違う班の女の子が作ったカレーが「死ぬほどまずい」とみんな盛り上がっていて、結局その子が泣いてしまい、地獄みたいな空気が流れる調理室の真ん中で「うまいうまい」とひとりで全部平らげたら、それから高3までめっちゃモテました。バカ舌に産んでくれた親に感謝です。今までまずいと思ったものに出会ったことがありません。

岐阜県在住 ラジオネーム:WOWさん

星野:いい話だなあ。

加藤:カレーってそんなにマズく作れるんだ(笑)。でもなんか「マズい」と囃し立ててた子たちは、その女の子のことが好きだったからじゃないかと勝手に思ってしまいますけれども⋯。まぁでも泣いちゃったなら、誰も幸せじゃないな。

星野:高3まで続いたってのがすごい(笑)。

加藤:それはもうWOWさんのポテンシャルだろって思いますね(笑)。でも、なんでも「おいしい」って言って食べてくれるひとはいいよね。感想いわないひとよりも。

広島県の尾道から、愛媛県の今治を通り、香川県高松まで向かった猛暑日。永遠に続く坂道を登りくだりする「しまなみ海道」の道中、いくつかの観光スポットに立ち寄ったんですが、日も暮れそうな夕方にたまたま見つけた松山の古民家的なご飯屋さんで1服することに。腹ペコの我々の目の前に運ばれてきた定食には、きれいに並んだつややかなお刺身と、湯気がたちのぼる釜飯、そしてふっくらとした「衣」を帯びた天ぷらまで。釜飯なんて、お茶碗4杯分くらい入っていて、古民家の温かい店内と、窓の外には瀬戸内海に落ちていく夕日。それが1400円だった時の衝撃。雰囲気とコスパの高さ。忘れられない思い出です。

ラジオネーム:なぎほさん

加藤:景色が浮かぶいいエピソードだな。

星野:行ったことないけど浮かびますね。

加藤:「しまなみ海道」、昔旅したことあるんですけどね、自転車で1日とか2日かけて縦断できるんですよね。のぼりはツラいけど、くだりはボーナスステージみたいな感じで超気持ちがいいの。島も7、8つまたぐのかな。

星野:「いい景色」というのもおいしさの要因としてひとつあるのかもしれませんね。

加藤:しまなみ街道はどこで食べても新鮮なお刺身が出てくるんですよ。何が出てきても絶対うまいだろというような地域な気がします。

星野:だいたいはずれな店があったりする気がしますけどね。すごい。やっぱり新鮮だから。

加藤:あとは環境もあるよね。車じゃなくて「自転車」で行くという。

星野:みなさんお便りありがとうございました。

加藤:せっかくだから星野くんもひとつ。

星野:PUNIO がある北千住も飲み屋が多くて、その中のひとつに「まるやす酒場」という何の変哲もない酒場があるんですけど。どこにでもありそうな。だいたい展示終わりはそこに行って、みんなで朝まで飲んだり。そこで熱い話が繰り広げることが多くて、ちょうどいいんですよね。居酒屋なのに若い子が多くて、そのギャップが逆に良くて。まず、だいたい大学生しかいない。で、奥の席はめちゃくちゃ騒いでいる。呼び鈴みたいなのがあるんですけど、それが占いがついているピンポン型の呼び鈴で。メニューもすべて手作り料理と書きたいのだろうけど、誤字がすごくて(笑)。でも料理は安くておいしい。

加藤:いいね。懐かしい感じ。

星野:その下積み感というか、青春バイアスがすげえかかってくる。だから、どんなくだらない話もエモーショナルに感じてしまう。そこで展示の反省をするので、ここからがんばっていこうぜ!という、その店で繰り広げられますね。

加藤:エモい体験(笑)。

星野:あの時、テーブルにたまっていった瓶ビールの風景というか。

加藤:この先いろんなタイミングで思い出すだろうから、今のうちに記憶しておいた方がいいよ。いいと思います。

おわり
 

よむラジオ耕耕スタッフかのちゃんによる文字起こし後記

「得体の知れないうますぎる梨」がとても気になった。もらい物の果物って何であんなにおいしいのだろう。私の記憶に残っている果物のひとつは、じいちゃんが張り切って買ってきた何とかムーンとかいう、黄色の断面のスイカだ。ぱかっと割ると、いつも赤いはずのスイカが檸檬色に近い黄色だった。あの時の異様さと、なぜか味がいつもよりしなく感じてしまったのは忘れられない。赤い=甘いと、バイアスがかかるからだろうか、その日はおそらくみんながそれを思っている雰囲気で、しゃくしゃくと曖昧な顔をしながら、よくわからない色のスイカを家族で食べた。今でもなぜか忘れられない。

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