『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #28 『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』 展覧会公式図録
#28
2024年5月9日の一冊
「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密」展覧会公式図録(河出書房新社)
趣味を仕事にしているようなものなので、随分と長い間「無趣味」を認識して生きてきたのだけれど、30歳前後を通過する頃にようやく「あっこれ趣味だ」と気がついたことがある。
それは「銭湯(大浴場)へ行くこと」と「展覧会へ行くこと」。
忙しい日々が続いたり、逆に退屈な日が続いたりすると、なんとなく、「自分を取り戻したい」「自分自信と対話したい」という気持ちになりがちだ。そういう時間をつくるための手段として、私はこの2つを選んでいることに気がついた。
どちらも、一旦仕事から離れ、少々のお金をかけて自分のためだけの時間を過ごすことができる、最上級に贅沢な趣味だと、私は満足している。
特に「展覧会に行くこと」。市区町の管轄にあるような規模の、大きな美術館や博物館に行くときの気分は最高。自分自身をわくわくさせられる唯一無二のインプットアクション。一つ、重要なポイントが「思い立ったらすぐに」「一人で」行くこと。
そして、私は展覧会に行ったらできるだけ「展覧会図録」を購入することにしている。というか、買わずにいられないでいる。
今回紹介するのは『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』。
おそらく人生で二冊目に買った展覧会図録(一冊目は、ベン・シャーンだったと思う)。人生初めてのものでもなく二冊目という微妙なポジションに居て、長年、リアルつぐみの本棚に鎮座している本である。
2016年、社会人2年目の大阪に住んでいた時期に、大学時代の恩師が誘ってくれたことがきっかけで伊丹市美術館で鑑賞した。
エドワード・ゴーリーといえば数々の絵本が発表されていて、そのほとんどが、子どもに読ませるにはヒヤッとしてしまうようなゴシック・メルヘンな世界が特徴的。
緻密な線で描かれたモノクロのイラストレーションは、その手法一つで面をも描き、豊かな陰影が生まれている。その陰影が表現する、画面の中の物語のシリアスな空気、おどろおどろしい世界観を演出し、観る者に胸騒ぎを感じさせ、それ自体がクセになっていくような感覚を覚える。そうやって、ゴーリー・ワールドに引き摺り込まれていく快感が、最高に心地よい。
一枚の作品の、その前後に何が起きるのか。時の動きと、物語の深みを一瞬で捉えさせる不思議な魅力に満ちている。
細いペンで緻密に描かれるタッチがゴーリーの代名詞であることは言わずもがな。しかし、画面構成力や、カラーの作品の配色に光るセンスは、グラフィックデザイナーとしての魅力も持ち合わせていると言えるだろう。
見れば見るほど、引き込まれる、引き摺り込まれる。どんどんと深みに魅了され、もう帰って来られない。ダークサイドから微笑む皮肉に満ちたブラック過ぎるメッセージ。たまらない。
そんなゴーリー作品を一挙に味わうことができた展覧会は、今でも断片が脳裏をよぎることがあり、図録を眺めながら、目に焼き付けたあの時間を懐かしんだりする。
個人的には、こんなに繊細で緻密なモノクロの線画を描いているエドワード・ゴーリーという人物はとても高身長で大柄な男であり、机に向かってコツコツと描いているその姿を想像すると、なんだかかわいらしく、微笑ましくも感じる。
そんなゴーリー自身の姿を想像しながら、背筋の凍るような物語を味わうと、彼が何故その物語を描くに至らしめたのか、背景も考えたりするとより楽しい。
展覧会会場で作品を余すことなくじっくりと堪能したのち、そのホクホクに煮えた興奮を胸にミュージアムショップで図録を手に取る。そして我が本棚へ迎え入れ、図録のめくりながら、展覧会で鑑賞した記憶とを反芻する。
ここまでを含めて、これが私の立派な「趣味」ということになる。(どーん)
それでは、また来週。
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パークギャラリー・木曜スタッフ
秋光つぐみ