on the road to eclipse #02 『SAN DIEGO』 by 熊谷義朋(写真家)
ロサンゼルスをでた僕らは結局
空港で会った二人に会いに、サンディエゴまでやってきてしまった
南へ120マイル、車で2時間ぐらい
うつくしいビーチや基地で有名な街で、映画「トップガン」舞台にもなったらしい
南に下るとメキシコとの国境があり、そこらじゅうでスペイン語が飛び交っていて
英語よりも耳にする量が多い
街全体にメキシコの風が軽やかに吹いてる気がした
ロサンゼルスの空港で会ったふたりの名前はダーとブリア
サンディエゴに向かうことが決まって急に連絡したのだが時間を調整して迎え入れてくれた。ふたりは結婚しており、サンディエゴで一緒に住んでいる
ダーは少年のような性格で
自分の事や、仕事の事、家族の事を楽しそうに話してくる
とても軽快なリズムで喋り、楽しい話も真面目な話も少し寂しい話も、軽やかに僕の中に入ってきた
彼はアパレルのブランドの店を街中に持っており
シルクスクリーンを使って服を制作しているようだ
ブリアはカナダ出身のとてもとても優しい女性
すごく柔らかい笑顔で
困っているとすぐに気づいて何かと助けてくれる
一緒にメキシコまで遊びに行って
夜はダーの仲間達と遊んで
(残念ながらドリフトは見れなかったが)
結局ふたりの家に泊まらせてもらった
ふたりの家はサンディエゴの中心から少し行った
住宅街の中にあった
フリーウェイで少し行った静かな街
緩い坂になった道路に車を停めた僕らは
少しだけ車の中でダーと話して
家に招き入れてもらった
ダーの母親が住む母屋の隣の、花と緑に囲まれた、とてもこじんまりした素敵な家
夜は大きな木に巻き付いた電球が光っており
小さな魚の置物、壁に飾られた額入りのポスター
アジア風の花瓶に入った美しい花たち
ふたりの好きなものを集めたすごく落ち着いた空間だった
僕たちはそこをすごく気にって
素晴らしい夜を迎えることができた
次の日の朝、柔らかい晴れの日、少し遅めの午前中
テラスで朝食を食べ終わった頃
ダーに声をかけられた
「アトリエを見にこない?」
自宅の近くにアトリエがあるとは思ってなく、驚いたが
嬉しい誘いだった
「もちろん」
僕たちはダーについていくことにした
母屋に向かう木の扉を開けて
ダーは小走りに庭の方に進んでいく
途中、奥から犬が勢いよく合流してきた
名前はポロ、人間でいうと青年ぐらいだろうか
人懐っこくてとてもかわいい
ブリアも混じってみんなで、坂や階段を登って庭の一番上まできたら
大きなビニールハウスがあった
ダーはそのビニールハウスを開けて僕らを招き入れる
その中は急に出てきた以外な空間だった
鉄でできた大きな機械
構造的には回転しそうで
おそらく最近のものではなさそう
使われてきた年月の層のようなものを感じる
ビニールハウスの内側にはグラフティで
ダーのブランドのマークが描かれている
「これはシルクスクリーンの機械だよ」
ダーはそれをぐるぐると回し始めて
そのあたりから取り出したボードにプリントをし始める
ブリアも横でたくさん説明してくれる
僕は話半分に聞きながらまわりのいろいろなものを観察する
機械は真ん中を軸に上の段と下の段二つの円でできており
それが別々に回る
ダーはまた軽やかに話をしていく
心地よい時間がゆっくりと流れていた
ふたりの家をあとにし
ダーの店やチカーノの街を案内してもらったあと
僕らは次の街に行くために、たくさんお礼をして別れた
ダーは6歳の時にベトナムから母親と移住してきたらしい
アメリカはチャンスはあるが、保証もない国だと
今回一緒に撮影している荒井さんが言っていた
きっと並大抵の苦労ではなかっただろうと、頭によぎった
ダーとブリアはアメリカで出会って
素敵な毎日を送っている
(もちろん、僕らは知り得ないようないろんなことがあるだろうが)
ふたりのおかげで幸先のいいアメリカのスタートになった。