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『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #64 『Endless Beginning』 オートモアイ

PARK GALLERY が発信するカルチャーの「本」担当。2024年の夏、地元・長崎で古書店を開業したパークスタッフ秋光つぐみが、PARK GALLERY へ訪れるみなさんに向けて毎週一冊の「本」を紹介する『わたしのつれづれ読書録』。
本とは出会い。
長崎から、パークに想いを馳せながら、誰かの素敵な出会いのきっかけになる一冊を紹介していきます。

2025年1月16日の一冊
「Endless Beginning」オートモアイ(焚書舎)

日頃、人間は頭の中でさまざまなことをたくさん考えて、想像をしたり、予測をしたりして複雑に絡みあっている。

「お腹が空いたなあ」だったり「田舎のおばあちゃんどうしているかな」だったり「これからの日本、世界はどうなるのだろうか」だったり。

内容も、タイミングも、スケールもいろいろだ。さらにそこには自分の経験が重なったり、感情が入り混じったりして、その全てが言葉にできることやかたちに表すことのできるものではないだろう。

ここまで考えついて、私にはいつも思うことがある。

そうした人間の想像、目に見えないものを言葉にしたり、絵に描いたり、写真に撮ったりなどして「表現」するということの偉大さである。

今日の一冊は、オートモアイさんの『Endless Beginning』。

表情を持たない人物(主に女性)と地球上に存在する自然のものがモチーフとなり、空間に浮遊しながら関係している、そんなドローイングがめくるめく現れる一冊。

全てモノクロで表現されていて、そのことが光と影、希望と闇のようなものが色こく映り目を惹きつける。

一冊を通して、流れるように展開されているが、一枚ずつが一つの作品であり、全体が一つの物語のようにも見える。そう感じさせるのは、作者の中に一貫して強固な信念のようなものが宿っているからではないだろうか。

繰り返し眺める。

人の寂しさ、
自分の中に存在する嫌なヤツ、
すがりたい気持ち、
この世の絶望。

寄り添う愛、
身を打つ激情、
自分を愛する、
大きな世界に生きる小さないのち。

繰り返し見るたびに変わっていくインプレッション。エンドレス。何度も始められる。そういう一冊。

描いた作者の気持ちや感情や作品制作に至る原動力の全てを、私が知りうることはできないけれど、想像したり、わかろうとしてみることはできるし、その過程がこちらの心を豊かにしてくれる。

人間の頭の中は複雑に入り乱れる。心も同じ。言葉やかたちに表すことは難しい。だから「表現」する人や、しようと試みる人を私は尊敬するし、自分も挑戦していきたい。

その「表現」を通して、寄り添ったり、理解する努力をしていけたら幸せだなと思う。それが文化が生み出してくれる、とてもとても大切なものだと思う。

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秋光つぐみ

古書堂 うきよい 店主。
グラフィックデザイナーなど。
2022年 夏からPARK GALLERY に木曜のお店番スタッフとして勤務、連載『私のつれづれ読書録』スタート。2024年 4月にパークの木曜レギュラー・古本修行を卒業、活動拠点を地元の長崎に移し、この夏、古書店を開業。パークギャラリーでは「本の人」として活動中。
【Instagram】@ukiyoi_inn

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