『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #37 『えんちゃんち』 最後の手段
2024年7月11日の一冊
「えんちゃんち」最後の手段 作(かえる出版)
キラキラのホログラムがこの世の光を受けて乱反射し、その一欠片が私の網膜を突き抜けて、存在感を示す。
「宇宙」の瞬きが紙面いっぱいに描かれた表紙。ずっしりと手応えのある重厚感に満ちた分厚い紙のかたまり。モノクロに差す蛍光イエローがまどろみかけている脳を冴え渡らせる。
そこに佇んでいるだけで「どこかへ行けそう」な空想を、一瞬で目の当たりにさせる爽快感が心地いい。
今日の一冊は、最後の手段・有坂亜由夢さんによる『えんちゃんち』。
1歳の子の育児をきっかけに、その産まれたばかりの命のとりとめのない破壊力・生命力に、我が子ながら圧倒され、ひれ伏し、見守り寄り添う決意と、作品にしなくてはという使命感を胸に、9年前に立ち上がった。
これは、そんな有坂さんによる、宇宙と、大地と対峙しながら育まれていく、えんちゃんの成長記録でもあり、えんちゃんをとり巻くこの生命体を細胞レベルの緻密さで描き切り、1秒も止まることの許されないスピード感で流動していく生命力を表現するSF的要素を含む作品でもある。
お母さんのお迎えから始まる平凡な日常のワンシーンが、次第にえんちゃん目線の大冒険へと変貌していく。その流れと勢いは、大胆で豪快。静寂が現れたかと思ったら次のページでは得体の知れぬ巨大な何かへの挑戦が待っている。
なるほど子の予期せぬ驚きの行動を、視覚的に味わっているかのよう。目に入るもの全てに興味を示し、破天荒に手を伸ばす。そうすることで、大人には見えない世界と空想を繰り広げては、日々が冒険と挑戦の連続。あまりに面白い。止められるわけがない。納得するしかない。うらやましい。
納豆一つをとってもそれは妖精に成り変わる。追いかけて、追いかけて、行き着く果ては‥
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言わずもがな、イラストレーションの心地よさに惹かれているわけなのだけれども、サイケデリックでキラキラと目の回るような画面構成と、静と動のバランス、モノクロに時折現れるオレンジやピンクやグリーンの差し色、こういったセンスが私の脳みそと心を刺激する。
何度でもパラパラとめくって眺めたり、えんちゃんとともに冒険するようにじっくりと宇宙に浸ったりして、いろんな楽しみ方をしたい。見応え抜群の一冊なのだ。
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秋光つぐみ
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