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米図議事録本『SFと美少女の季節/川本耕次に花束を②』改訂版発行の告知&解説
はじめに
このたび、C104新刊『SFと美少女の季節』を本格頒布する運びとなった。
本書は70年代末から80年代初頭にかけて日本のサブカルチャー、特にロリコンブームを牽引した川本耕次の足跡を辿るものである。
どういう本かというと、
ロリコンブーム前夜、伝説的自販機本『少女アリス』の編集長として商業誌初のロリコン漫画を手がけた川本耕次。吾妻ひでおや内山亜紀を発掘し、「萌え」「美少女」文化の創成に寄与した彼の最期の証言が収録された一冊。2011年に行われたトークイベントの完全収録に加え、幻の出版社「群雄社」時代の証言や、本邦初のロリコン雑誌『少女アリス』誌の読者投稿ハガキ、貴重な短編小説群も再録。80年代サブカルを語る上で必読の内容。
……という至り尽くせりの本なのだ。
改めて説明すると、本書は23年の夏コミ(C102)で頒布した追悼文集『川本耕次に花束を』の続編で、11年に米沢嘉博記念図書館で行われた吾妻ひでお展の関連イベントとして企画された講演録や関係者の寄稿、故人の小説、小形克宏のロリコン時評、『少女アリス』の読者ハガキなどを収録している(B5/66頁)。
頒布の場は12月1日の「文学フリマ東京39」(於・東京ビッグサイト)。頒価は千円を予定している。編者・虫塚虫蔵のサークル「迷路'24」のブース(西3ホール / I-19)にて購入できるが、東京のタコシェや模索舎、名古屋の特殊書店(BiblioMania)、通販サイトのBOOTHでも委託を予定している。
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改訂版の頒布にあたり、レイアウトや誤脱修正を行い、高品質のオフセット印刷に変更した。初版より完成度を高めた一冊であることは間違いない。
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▲本誌初版の予告フライヤー (C104前日の24年8月10日に開催された資料性博覧会17にて頒布)
目次:
1)群雄社、そしてシンヤマさんのことなど | 但馬オサム
2)SFと美少女の季節-『Peke』から『少女アリス』まで | 川本耕次×竹熊健太郎
3)自販機雑誌『少女アリス』読者の声
4)川本耕次全仕事
5)ロリコン特集記事を振り返ってみると数の多さにあきれるばかり | 緒方源次郎
6)ロリコンマンガの現在 | 緒方源次郎
7)川本耕次と私 | 石川誠壱
8)元ビニ本出版業者Y氏TVインタビュー再録
9)PHOTO ALBUM
10)ナイロン100%スクール水着 | 川本耕次
11)天国にちょっとだけ近い場所 | 川本耕次
12)夏の少女風物詩 | 川本耕次+川猫めぐみ
13)水中花 | 川本耕次
14)ぼくらは少女をながめることしかできはしない | 雄プロ(無記名)
15)編集後記
16)奥付
以下では、解説に代えて「編集後記」の内容を転載する。
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編集後記(文/虫塚虫蔵)
1970年代末から1980年代前半にかけて、サブカルチャー全般に「文化的相転移」あるいは「サブカルチャー大爆発」と呼ぶべき急激な変化が起こった。いわゆる「80年安保」(©中森明夫・橋本治)とも称される、中心を持たないムーブメントである。特に注目すべきは、コミケットを中心に始まった運動が大衆文化の主流にまで影響を及ぼした点であろう。現代のサブカルチャーの多くは、この時期に形を成し、その定義が確立されたと言える。
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その運動の旗手として川本耕次氏は、三流劇画ブーム→漫画ニューウェーブ→ロリコンブームを牽引し、同時代を全力で駆け抜けた。川本氏の活動は、単なる個人の足跡を超え、おたく文化、とりわけ「萌え」や「美少女コミック」の基盤を築くものだったと言える。
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ただし、氏の活動の多くは自販機本やロリコンムックといったアンダーグラウンドな出版物に集中しており、これらは公的機関にアーカイブされることも少なく、資料として残ることが極めて稀である。
そうした中で川本氏の突然の訃報が届いた。編者は資料の散逸や記録の消失を防ぐため、関係者に連絡を取り、評伝や記録をかき集めた。その成果が23年の夏コミ(C102)で発表された追悼文集『川本耕次に花束を』である。
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迷路'23『川本耕次に花束を』(2023年12月/増補改訂2版)12頁所載
そして、その続編にあたるのが本書『SFと美少女の季節』(C104新刊)である。本書では表題の講演録を中心に、当時を知る読者や関係者からの寄稿を収録し、さらに故人の小説をいくつか再録している。川本氏が日本文化に与えた少なくない影響と、氏の叙情的な美意識を感じ取れる一冊となっている。
本書の刊行にあたり、多くの人々の協力があったことも記しておきたい。
まっ先に感謝を捧げるべきは、膨大な遺品を編者に託してくれた川本夫人の林由紀子さんだろう。彼女の理解なくして本書の刊行は実現し得なかった。そして前回から引き続き協力いただいた元『漫画ブリッコ』編集部/元群雄社出版の小形克宏氏、映像資料を提供してくれた明治大学・米沢嘉博記念図書館、故人のトークイベントを企画した白峰彩子氏、コミケットでの「迷宮」スペースとの調整役を務めた堀内満里子氏、既出カットを提供してくれた川猫めぐみ氏、未発表原画を表紙に使用させてくれた内山亜紀氏、さらにその仲介を行った稀見理都氏、追悼文を寄稿した但馬オサム氏と石川誠壱氏、対談収録を快諾してくれた竹熊健太郎氏、その他寄稿や資料提供、助言をいただいたすべての方々に感謝の意を表したい。
最後に、川本耕次、米沢嘉博、吾妻ひでおの三氏に心よりの感謝を。ありがとう、さようなら。
この本が、あなた達とその時代を知るための道しるべとなりますように。
《※24年8月発行/改訂版の編集後記に一部加筆修正をほどこした》
CC-BY-SA 4.0 / ©虫塚虫蔵
ポッドキャスト番組で海猫沢めろん様にご紹介いただきました。
以下、ポッドキャストから引用しました。
迷路24というサークルから発行された『SFと美少女の季節』を紹介します。この本は、虫塚虫蔵さんが主催するサークルの作品。
実は少し前に、彼の別の本をBOOTHで購入していました。そのタイトルが『鬼畜系サブカルの形成過程における製作者の役割に関する実証的研究』というもの。これ、何かと言いますと、ロフトプラスワンで開催された「90年代の鬼畜系サブカルチャーを総括するイベント」の記録なんです。このイベント、個人的にすごく興味があったものの参加できず、ちょうどいいなと思って買って読んだら、すごい良い出来で面白かったんですよ。
面白いのは、この虫塚さんが90年代生まれであること。そんな人が「え? なんでだろう」ってのが面白くて、いろいろと見てたら、次に出す本がこの本なんですけど、この本は川本耕次さんという編集者に関する内容なんです。彼は『少女アリス』という自販機本の編集長を務めた方で、吾妻ひでおさんや内山亜紀さんなど、80年代を代表する美少女漫画家を発掘した人なんですよ。で、どうやら川本さんはすでに亡くなられているようで「最期の証言が収録された一冊」ってなってるから、おそらくそうなんでしょうね。
つまりこれは2024年の現在、80年代を支えた「おたく文化」のクリエイターの高齢化が進んでいるということでもあるんですよ。当時30代の方々も今では70~80代なので、40年以上の時が経過する中で彼らの証言を記録として残すことの重要性は、ますます高まっているように感じます。しかも、そのような仕事を90年代生まれの若い世代が手がけてる点が超いいなって。この本はなんか気合が入った本っぽくて、だいぶ豪華というか、まだ読んでないから内容は分かんないですけど、 このサークルにはすごく期待しています。
僕自身、80年代にはまだ10代とか20代なんで、それだけに今振り返ると、「あー、なんかそういう時代だったな」みたいなものが改めて発見できるといいなと思ってて。『鬼畜系サブカルの形成過程における製作者の役割に関する実証的研究』も小山田圭吾さんの五輪騒動をきっかけに行われたと思うんですけど、ゲストに好事家ジェネさんというYouTuberが加わっていたのが印象的でした。この方は90年代の悪趣味や耽美系、幻想文学が好きな方なんですけど、 この方も若いんですよ。この方がイベントに入ったことで、当時と今の温度差がすごい出てて、それがすごい良かった。 批判すべきところは「ここはアレだろう」みたいなことをちゃんと言ってて。やっぱり90年代の人だけ集まると、ただの同窓会になっちゃうけど、批判的な目線がそこに一つ入ってくることで、すごくいい本になっていて面白かったです。
今回ご紹介した2冊、両方合わせて、ぜひ読むといいと思います。どちらも非常に魅力的ですので、ぜひ手に取ってみてください!
文化系トークラジオライフ番外編ポッドキャスト、今回のテーマは「教えて!東京文学フリマ39の注目本」でした。それでは、次回もお楽しみに!
サンプル画像
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