進歩の速さは予測不能
ブラックホールは一般相対性理論がその存在を指し示したものですが、最初にその存在がはくちょう座において確認されたのは、アインシュタインが相対論を発表してから半世紀も後のことでした。
アインシュタインさんご本人はブラックホールを数式のあやとして捉え、実際に宇宙に存在するとは考えなかったようです。
そしてはくちょう座の件も彼が亡くなった後のことなので、彼自身はブラックホールの存在を知らぬまま、と。
現代に生きる我々は、2019年ブラックホールの直接撮影が行われたことも知っています。
相対論から見ると100年か。
言っただけではダメ
ここまで来るのにずいぶんかかりましたね、人生のスケールから見れば。
理論で何かの存在が予測できても、実際にそれが存在することが裏打ちされなければただの理論。
理論やモデル構築にどんな苦労話が伴おうが事実認定されることはないし、事実認定されなければいつまでも仮説のまま。
標準模型最後のピース埋まる
記憶に新しい最近の例で言うと2013年のノーベル物理学賞。
その前年に「ヒッグス粒子」が発見されたことにより、それらの存在を予測したアングレールとヒッグスの受賞となった訳ですが、彼らが理論を発表したのは1964年。
これまた50年ものですね。
ノーベル賞は死者には授与されないので、その意味でも幸運だったと言えるでしょう。
湯川さんはスピード認定
それに比べれば湯川先生の中間子理論なんて。
彼が発表したのが1934年。
湯川がその存在を予測したπ中間子が、イギリス・ブリストル大学のチームによって発見されたのが1947年。
湯川のノーベル賞受賞が1949年。
理論が世間に認められた例としては早いほうかもしれません。
政治が絡むことも
ノーベル賞ということで言えば先のアインシュタインだって。
彼のノーベル賞受賞は光電効果に関する理論構築に関するもので、相対論ではありません。
で、相対論で予測される光に対する重力効果は相対論発表のわずか4年後、1919年に観測されました。
これがもし相対論の(それまでの古典力学に対する)正しさを示すものとして認められたなら、あるいはスピード受賞につながったのかもしれません。
相対論での受賞が実現しなかった背景には有力物理学者の政治的意図があったと言われています。
理論が認められるかどうかと何らかの賞を受けるかどうかとは、別の力学が働いているとも言えます。
神の領域に踏み込む
「宇宙は無から始まった。」
日本でも80年代から90年代にかけてホーキングブームがあったので、宇宙に少しでも興味ある人ならこの言葉にはなじみがあるでしょう。
「無」とは結局何なのか?
この問題に深入りすると、数行でまとめるのは不可能でしょう。
なにしろ宇宙の始まりを完全に記述する理論を私たちはまだ手にしていません。
理論が分からないのにその初期条件(=宇宙の始まり)を考えるのがそもそも不可能、とも言えます。
ただ、完全ではないけどおそらく現状では宇宙の誕生直後を一番よく表現できているかも知れないとされる方程式は60年代に見つかっています。
この難解極まる方程式に対して、簡略化した宇宙像を当てはめてホーキング(とハートル)が与えた初期条件が件の「無」なんですね。
量子力学の波動関数同様、この「無」を言葉で表現するのも無理難題なのですが、宇宙の始まりからさらにさかのぼって「それ以前」を考えることはできませんよ、というのが答え。
時間の始まり「以前」を考えちゃだめだよ、ということですね。
ちょっとごまかされた感もしないではないですが、実際には「無」の状態を場の量子論という理論を用いてきちんと定式化したものになっています。
ただし前述のとおり簡略化した宇宙モデルを用いているので、「正しい」かどうかは別問題。
やはり神は手ごわい
この無からの宇宙創成論、現在はどうなっているかというと、それほど進展していません。
宇宙誕生の瞬間というのは、狭い時空の領域に巨大なエネルギーが押し込まれた状態。
そこでは量子効果と相対論的効果の両方が顕著なはず。
ですが私たちは量子論と相対論を統合することにまだ成功していません。
少なくとも量子効果と相対論的効果のどちらかが無視できるような状況でしか、理論で扱えないんですね。
そういった事情もあり、無からの宇宙創成論はちょっと今棚上げ状態となっています。
実験的にも、電磁波でたどれる宇宙の歴史は宇宙誕生後38万年後まで。
それ以前は「原理的に」見えません。
重力波を使うとそれよりもっと昔の宇宙を見ることができると期待されていますが、肝心の重力波観測技術がまだまだ、観測天文学を発展させるほどのレベルに達していません。
宇宙初期と言えばインフレーション理論なんかも有名ですが、その検証もまだまだこれからですね。
宇宙創成論は更にその先となる訳なので、いつになる事やら。
何かの発見をきっかけに観測事実が大きく進展することはあるかも知れませんが。
科学の進展は人類の勝手な願望とは無関係なものなのですな。
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