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28.【屋根のない洋服屋】
廃墟村から離れた場所に、白い布に包まれた家と似たような少し変わった外観のお店がある。
アタシはその場所を【屋根のない洋服屋】と呼んでいる。
ある日の夢は……
曇り空の下、見知らぬ住宅街の中を歩いていた。
通り過ぎた視界の端に気になる建物があった。
振り返ってよく見てみると、それは屋根だけが綺麗に無くなっている小さなお家だった。
近づいて中を覗いてみると、どうやらお店のようだ。
色取り取りのワンピースやTシャツ、カッコイイ靴や可愛いパンプス……
洋服や靴をメインに色々な雑貨が陳列されていた。
どれも素敵な物ばかり。
アタシは窓にへばり付くように見ていた。
「宜しかったら、中へどうぞ」
突然声をかけられて、アタシはビクビクしながら振り返った。
後ろに立っていたのは、インカの民族帽子のような物を被った若そうなお兄さんだった。
「ちょっと外に出て戻ったら、店の窓に大きなヤモリがいるのかと思ったよ」
そんな風なことを言って、お兄さんは笑いながらお店の中に入れてくれた。
窓から覗いた時はわからなかったけど、お店の中には小さなカウンターと椅子も置いてあった。
お兄さんはそのカウンターの内側に入って、持っていた荷物を整理しはじめた。
「お好きなように見てね。ゆっくりしていってよ」
お言葉に甘えてアタシはお店の中をウロウロしてみた。
色んなジャンルの物が並べられていて見入ってしまう。
「お腹は空いていない? 良かったら、これ飲んで」
お兄さんがカウンターに何かを置いた。
席に座って見てみると、黒いマグカップの中にチャイのような香りのする飲み物が入っていた。
外側から見た時、屋根が無く見えるデザインなのかと思ったけれど、天井を見上げると曇り空が見える。
デザインじゃなくて、本当に屋根が無いお店だった。
「ここはお兄さんのお店なんですよね? どうして屋根が無いんですか?」
凄く気になって、飲み物を飲みながらそれとなく聞いてみた。
「そう。ここは僕のお店だよ。屋根が無いのはそれが僕のお店だからかな」
爽やかな笑顔で、さらっと答えてくれたけど……
スッキリ納得できる答えじゃなかった。
「でも、雨が降ったりしたら、お店の中にある物が濡れて駄目になったりしないですか?」
そう聞いてみたら、お兄さんは少し首を傾げながら何度か頷いた。
「この場所は、僕がこんなお店を設けることを許してくれたんだ。だから、ここはそうならないから大丈夫」
また難しい答えを返された。
要するに雨が降らないってこと?
もう無理矢理納得することにした。
「うーん……なるほど。それにしても、置いてある物はジャンル問わずなんですね」
「そうとも言えるね。僕のお店には服とか靴とか。後、服飾関係のちょっとした雑貨なら何でもあるよ! 何でもね」
お兄さんが興奮気味で話し始めた。
でも、アタシは正直、何でもだなんて半信半疑だった。
「何でもって凄いですね」
「信じていないでしょ? それを叶えてくれる物があるんだよ。これを見てごらん」
お兄さんはカウンターから出て、お店の奥にある大きなクローゼットの前に立った。
白いクローゼットが壁の中にはめ込まれるように置かれている。
お兄さんがゆっくりと扉を開いた。
中が見えた瞬間、驚いてしまった。
正面から見ると普通のクローゼットなのに、扉の向こうはお店と同じぐらい広いウォークインクローゼットになっていた。
中に入ってみると、パーティーなどに着ていきそうなフォーマルなワンピースや男性物のスーツ、アクセサリーなど、色々な物が並べられていた。
見上げると、クローゼットの中には天井があった。
気になったけれど、聞いてもまた難しく返されそうだったので触れないようにした。
「一度、外に出てこっちに来て」
様子を見ていたお兄さんが小さく手招きをした。
外に出ると、お兄さんはクローゼットの横にある取っ手みたいな棒を掴んで腕を左に動かすと、一緒にクローゼットも動いた。
そのまま回転本棚のように白いクローゼットが回転した瞬間――
奥から違うクローゼットの扉が現れた。
今度はテカテカした真っ赤なクローゼット。
お兄さんが扉を開けると、中には革ジャンやカラフルなワンピース、大振りなアクセサリーなど、ロカビリーな物ばかり入っていた。
「ほら! 凄いでしょ? キミもやってみる? 欲しい服とかあるなら、そのことを考えながら回してみて」
さっきまで半信半疑だったのに、何が欲しいか聞かれて、しっかり悩む現金なアタシ。
最近、エスニック系の服が気になるかな……。
なんて思いながら、恐る恐るクローゼットを回してみると、今度はアジアン風なクローゼットが出てきた。
「中を見てごらん」
お兄さんは腕を組んで自慢げな顔で見つめてくる。
ドキドキしながら扉を開いてみると、中にはエスニック系の服やアジアン雑貨などがたくさん並んでいた。
「なんで……」
「欲しい物があったかな? このクローゼットはね、相手の欲しい物や似合う服を見つけてくれるクローゼットなんだ。だから、何でもあるんだよ」
お兄さんは興奮を抑えるかのように、手で胸を押さえながら静かに説明してくれた。
「それは凄いです……」
驚きのあまりそれしか言えなかった。
「素直に驚いてくれてありがとう。この中に何か欲しい物があったらあげるよ」
夢であっても嬉しいお言葉だった。
どんな服があるか、張り切ってクローゼットの中に入った瞬間、目が覚めてしまった。
あぁ。なんてタイミングの悪い目覚め。
こんな悔しい思いはしたけれど……
屋根のない洋服屋は、また行ってみたいと思えるアットホームな場所です。
別サイト初回掲載日:2011年 01月18日
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