ピアス
朝突然、自分のピアスの穴が今も生きているのか気になった。わたしの耳には左右で5つの穴が開いている。30歳を過ぎてからなんだかめんどくさくなってしまって、もう数年入れていない。
家にたった1セットだけあるピアスを、ひとつひとつの穴に突き刺してみることにした。意外と通る。なんだおまえまだ生きていたのか。5つの穴にひとつひとつピアスを突き刺すと、それぞれの穴を開けたときのことが蘇る。
はじめてピアスの穴をあけたのは、20歳の夏だった。友達と薬局でピアッサーを買ってからカラオケに行って、数曲歌ったあとで開けてもらった。そいつはためらいもなく両耳にぶすっと開けやがったけれど、痛いのは一瞬だった。
話が逸れるけれど、わたしのはじめてのピアスを開けたその友達は、わたしが入院しているときお見舞いにきてくれた。意識不明のわたしの枕元でボロボロ泣いていたらしい。治ったときには涙目で喜んでくれて、退院したあとはスイーツバイキングをおごってくれた。まじいいやつ。わたしの初ピアスをためらいもなくぶすっと開けたのは、わたしを怖がらせないためだったのかもしれないなと今になって思う。まじいいやつだし。
話を戻そう。
もう一つ印象に残っている穴は、右耳のふたつめの穴。当時、専門学校に通っていて、授業の合間に短い休み時間があった。わたしは性格にだいぶ問題があるせいで学校に友達もいなかったので、休み時間は校内を意味もなくうろついたり、なぜか喫煙所でバナナを貪り食ったりして過ごしていた。
その日はなぜか“ピアスの穴超開けたい気分”になり、休み時間にピアッサーとバナナを持ってウロウロしていた。なんとなく教務室に行くと、顔は知ってるけど名前はうろ覚えな、ちょっとチャラい先輩がいた。何を思ったかわたしは、ほとんど話したこともないその先輩に『すいません、ピアスの穴開けてくれませんか』と頼んだ。先輩は一瞬ためらいつつも『あ、いいっすよ』と言ってくれた。そしてぶすっと開けた。気が済んだわたしは『ありがとうございます~』とお礼をいって、教室に戻った。バナナ食いそびれたけど、ピアスの穴開けたい気分が満たされたので良い。
頼む方も頼む方だし、開ける方も開ける方だし、教務室でよくやったなオイ。学校に友達がいないわたしには、止めてくれる人もいないのだ。自分で開けるのも怖いし無理。仕方ない。
あのときの先輩は元気だろうか。たしかピアス開けてもらったっきり話してないような気がする。
いろいろなことを思い出しながら、5つの穴の生存確認は終わった。すべての穴が無事に生きていた。かわいいピアスを買いに行きたくなった。あの頃ただ皮剥いて貪り食っていただけのバナナを、今は美味しいお菓子に変身させられるようになった。少しは大人になっているんだろうか。ピアスが似合う女になりたい。努力しなければなと思う。