112本目「侍タイムスリッパ―」【ネタバレなし】

※本文は全て無料です。

Tジョイ プリンス品川にて

公開日:2024/8/17
監督:安田淳一(日本)

幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は家老から長州藩士を討つよう密命を受けるが、標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とする。一度は死を覚悟する新左衛門だったが、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していく。やがて彼は磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、斬られ役として生きていくことを決意する。

https://eiga.com/movie/100886/

まえがき

私が「邦画を余り観ない」というのは本noteを読んでくれてる方なら耳タコであろう。「何回言うねん」と思っておられるに違いない。

実際、滅茶苦茶売れてる邦画でも気が向かないと本当に観ない。
「映画好きなのにあれ観てないの!?」言われることしばしば。
その「あれ」としてよく上げられるのが「カメラを止めるな!」である。
実は、まだ観てない。

当時は今ほど映画館にも行ってなければ、今よりもさらに輪をかけて邦画に興味がなかった。おまけに私、「流行ってるものはうっすら遠ざける」という大変厄介な天邪鬼属性の持ち主でもある。ゆえに見ていない。

さて、今回noteに書いてる「侍タイムスリッパ―」はそこらで「第二の『カメ止め』」などと言われている。というか、書かれてるのを見た。
観た回数を誇る人など(見た感じ14回って人もいた)もおり、昨今の小規模邦画では類を見ない愛されようと言える。第一の、こと「カメ止め」に乗り遅れ続けてる雪辱というわけでもないが、時間の空きもあるし。観に行ってみることにしたのであった…。

感想など

描くべき範囲をキッチリ線引きし、そこからはみ出さないことで描くべきものを描き切った佳作だと思う。

「侍タイムスリッパ―」というタイトルからははみ出さず、「時代劇」というテーマチョイスからも全くはみ出さず、その領分の中で万人受けする作品を作ろうとした。そういう意気込みを観ていて感じた。

細かいところの粗や、考証につく疑問符は結構多い。
「江戸時代の人間がアラビア数字を読めるのはなぜか」とか、スムーズに言葉が通じてることへの違和感とか、やたら記憶喪失に寛容な現代人とか。
しかし、「そんなところに拘っても面白あらへんやろ」という割り切りがこの映画を支配している。作劇上、ドラマの筋書き上、必要ない細部は切り捨て御免なのだ。

肝心のストーリー自体は「時代劇のお仕事」系で、それに「殺陣の専門家」兼「異世界の視線」である江戸時代の侍を組み合わせた、ある種の王道を往くシナリオ展開であった。予想も期待も裏切らない。ある程度以上のフィクションに触れていたら、すべての展開を見通せるほどの王道である。
多分、この映画はそういう層に向けてはいないのだろう。「万人受け」というとなんか程度の低いイメージを持たれがちだが、それを高いレベルでこなそうとした形跡がある。

ここまでだと単なる「分かりやすい王道映画」というだけの話に終わるのだが、キャラクターとしては結構いい味出してる奴もいる。
中盤以降に登場する「風見」はかなり気に入った。ネタバレになるので詳細には書かないが、主人公の過去における仇であり、現代においては同志であり、先達であり、やはり仇でもあり、そしてそれをお互いが理解していて、何とも言えない複雑な関係性を醸し出している。
私が思うこの映画の「面白さ」の大部分はこのキャラクターによるものだ。


ペーパーお勧め度

★3。
どちらかというと、普段映画を観ない人向けの映画だといえる。
特に前半はテンプレ的すぎてちょっと辛い。
しかし、中盤以降の人間関係には複雑なコクがある。そこまでじっと見ていられたら、この映画は面白い。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?